ロカはどこで歌う
いしいひさいち『ROCA コンプリート』(2025年徳間書店、1800円+税、amazon)が発売されました。私家版の「ROCA: 吉川ロカ ストーリーライブ」「花の雨が降る ROCAエピソード集」「金色に光る海 ROCA短編集」を一冊にまとめたもの。めでたい。でもこれで終わりにはしてほしくないなあ。ロカと美乃の物語はもっと読みたい。
さて本書に収録されている最後のエピソード、「金色に光る海」ラストに当たる「おやすみセニョリタ」で、ロカはなんと海外ツアーに出ています。ファイナルは「アフメド君の故郷の町の砲撃で穴の開いた汚い公会堂」でした。でもここはどこなんでしょうか。
アフメド君とは本書96ページに出てくる弁当配達のひと。名前と容貌からしておそらくアラブ人。ロカのボイストレーニングを聞いてファンになってしまいます。
彼の故郷というからには中東か北アフリカかと思うのですが、ロカのコンサートでのあいさつが「オブリガタ」とポルトガル語。となると当然、観客はポルトガル語を話す人々でしょう。
ポルトガル語を公用語にしている国はポルトガルとブラジルと、あとアフリカ六か国、アジアでは東ティモールとマカオ。観客が怖げなオッサンばっかりでどうも黒人は見当たらなそうだし、風景が寒そうだから、ここはポルトガルなのかな。
ポルトガルのムスリムは人口の0.1%だそうですので、アフメド君の故郷としてはちょっと微妙だし、「砲撃で穴の開いた汚い公会堂」が現代のポルトガルに存在するのか? さらに作者があとがきで、この町の主要産業が麻薬と人身売買、とヤバいことを書いてるので、国を特定してはイケナイ。この国は世界のどこか、ということなんでしょう。
ロカがコンサートのアンコールで歌うのが「El Pueblo! Unido! Jamás Será Vencido!」です。
オープニングの掛け声を訳すると
人民よ!
団結せよ!
負けることはない!
1970年代にチリで作曲されて以降、独裁政権に対して、左翼右翼を問わず世界じゅうで歌われてきた革命歌ですね。
マンガに描かれている部分でロカの歌はこのように続きます。
立ち上がれ
戦え
我々は勝利する
団結の旗は前進している
これを聞いた観客のオッサンたちはステージの上に殺到し、中盤の「El Pueblo! Unido! Jamás Será Vencido!」の大合唱となります。
Youtubeにはいろんなバージョンがアップされてますが、こちらは原曲の作詞家キラパユンのもの。(CMがはいったらすみません)
https://youtu.be/kTLrFjYt8tA?si=-tSjw7N4lKkM8OW7
そしてこちらは2019年チリ暴動のときのインティ・イリマニのバージョン。中盤以降の大群衆による合唱がすごい。この歌をロカに歌わせるいしいひさいちは、さすがに東淀川貧民共和国の出身というべきか。
https://youtu.be/Cuzl_QTBlWI?si=P-XHoLxw0Kbd1bUL
『ふつうの軽音部』を読む人は当然のようにyoutubeで曲を流しながら読んでると思うのですが、本書もそのようにして読んでみてください。マンガと音楽の出会いがすばらしい。
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