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January 27, 2015

古き革袋に新しき酒『私を連れて逃げて、お願い。』

 松田洋子の新作は、犯罪に巻き込まれた若き男女がクルマで日本各地を逃げるお話の第1巻。

●松田洋子『私を連れて逃げて、お願い。』1巻(2015年エンターブレイン/KADOKAWA、640円+税、amazon

私を連れて逃げて、お願い。1 (ビームコミックス)

 犯罪+若き男女+クルマ+逃避行。おお懐かしや、70年代テイスト全開です。アメリカン・ニューシネマってこういうの多かったよなあ。日本の映画やTVドラマでもいっぱいマネされてたような気がします。主人公たちはたいてい「自由」を求めて「破滅」へ向かったりするわけです。

 しかし本作は松田洋子作品だから、おそらくはそうはなりません。

 松田作品の特徴のひとつは全員、どこがが欠落している人間ばかりが登場するところ。

 本作の男性主人公は、イケメンであることを除けば何のとりえもない役者のタマゴ。頭はからっぽで、ただテレビに出ることだけが望み。一方の女主人公は、女子大にになるまで同居する祖父母の過干渉を受け入れてきた結果、自己をなくして、肥満して、自分を迎えに来る王子様を待っている。痛い。

 男は強盗殺人事件に巻き込まれ、警察に追われることになりますが、家出してきた女とクルマで東に向かいます。痛いカップルがくりひろげる痛い話、

 なのですが、松田作品のもうひとつの特徴、登場人物全員が饒舌なので、本作はかろうじてコメディとして踏みとどまります。

 松田作品の登場人物たちは全員、自身、他者、状況について、その本質を明らかにするべく、タブーを無視してあらゆることをしゃべり続けます。これは登場人物が幼児であっても同様。『秘密の花園結社リスペクター』や『薫の秘話』『まほおつかいミミッチ』なども、すべて饒舌によってコメディとして成立しました。

『ママゴト』は、一部が欠落した人間たちが饒舌に語り合いながら家族となるお話でした。本書にも似たような構造があって、逃避行の果て、彼らはほんとうに恋人同士になれるのか。夜の海を見に行ってロマンチックな気分になるどころか、ゴミだらけでまっ黒で、いやーな気分になっちゃうのを平気で描けるから松田洋子はスゴイ。

 うーん先が読めない期待作であります。

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January 09, 2015

ベルギーの韓国人『はちみつ色のユン』

 韓国の国際養子がいろいろと問題になってるとは知らなかった。

●ユング『はちみつ色のユン』(鵜野孝紀訳、2014年DU BOOKS、2800円+税、amazon

はちみつ色のユン

 出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。

 本書は、2013年の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を授賞したアニメーション作品『はちみつ色のユン』の原作マンガ、なのですが、制作過程はもっと複雑。

 著者のユングは1960年韓国生まれの男性。五歳で養子としてベルギーの両親にひきとられ、長じてBD作家となりました。自伝マンガとして本書のうち第一章、第二章を刊行。そしてその部分をアニメーションとして制作し、自身が母国・韓国を訪れるシーンを実写として撮影。2012年ドキュメンタリー/アニメーションとして映画化しました。

 そして、韓国訪問部分をマンガの第三章として描き加え、完成させたBDが本書です。

 韓国では朝鮮戦争以来、孤児が増加し、さらに1970年代からは産業化、都市化が進み、同時に未婚の母が増加。1960年代に7000人、1970年代に4万8000人、1980年代には6万5000人の孤児が海外養子として海を渡ることになりました。

 この背景には、未婚の母に厳しい韓国社会の風土と、韓国政府の人口抑制計画があったようです。日本でも労働力が過剰であった第二次大戦前には、国策として海外移民政策がありました。韓国では第二次大戦後も「移民法」によって海外移民が奨励された時期があり、国際養子も国の監督下で公式になされたものでした。

 もちろんその後この政策は反省期にはいっていますが、統計によると2001年になっても一年で2400人の海外養子縁組がなされているとはちょっと驚いた。

 著者/主人公はストリートチルドレンであったところを警官に保護、施設に収容され、5歳でベルギーに渡ります。父母と四人兄妹の家族にひきとられた主人公は、ブリュッセル郊外に住むことに。本書の原題は『肌の色:はちみつ色』で、実際に主人公の身上書に記してあった言葉です。

 本書の第一章は主人公が13歳になるまで。幸せで不幸な子ども時代。現在でも著者自身が迷っていて総括できない。ヨーロッパに住むアジア人は、やはり異分子扱いを受けてしまいます。

 第二章はハイティーンになった主人公の青春彷徨が描かれます。知り合いの国際養子たちの自殺率は高い。記憶にない実母の面影を求めますが、母に、国に捨てられたとの想いがわきあがる。

 主人公は19歳で日本に旅行します。ただしそこからもう一歩、韓国まで脚をのばすことはありませんでした。彼が母国を訪れるのは、ドキュメンタリー撮影のため、42歳になってからです。この年月は長くかつ重い。

 第三章で主人公はやっと韓国を訪れます。しかし何かが解決するわけではなく、悩みはつきません。

 国際養子という存在、韓国の社会事情についてもベルギーの日常生活についても、知らないことばかりでいろいろと勉強になりました。

 作品としては不満なところもあって、わたしは絵にノレませんでした。頭が大きく首は細く、かなり戯画的な絵柄で、背景は描き込みをしない。わたしがBDに求めている最大のものは絵の魅力なので、そこがもひとつ。

 あと、人物が仮面をつけたり、過去の自分と対話したりする演出もちょっとね。

 ただしそういう部分をおぎなってあまりある事実の重みと、主人公の苦悩が胸をうつ作品でした。

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