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December 30, 2014

『描かないマンガ家』のラストはこれでいいのかっ

 すごく楽しみに読んできたマンガ家マンガが全7巻で完結。

●えりちん『描かないマンガ家』7巻(2014年白泉社、648円+税、amazon

描かないマンガ家 7 (ジェッツコミックス)

 マンガ系専門学校に通い、マンガと夢を熱く語る、器根田刃(きねだやいば)先生。言葉と態度はエラソーですが、なまけ者なのでマンガはいっさい描こうとしないという、器根田先生の物語も最終巻となりました。

 マンガ家志望でマンガについていろいろと語るけど、実際にはネームすら描こうとしない主人公。しかし彼の言動が周囲のマンガ家志望者のいろんな問題をすべてハッピーに納めるという、アクロバティックな展開がとんでもなくすばらしい作品でありました。

 マンガを描こうとしないマンガ家志望者なんか、世間にはヤマのように存在するのだとは思いますが、その「描かない」というところに、あえて価値を見いだしたのがこのマンガでした。描かないくせにエラソーに語るやつとは、オレか? オレのことか? とまあ、漫棚通信としてはちょっと冷静には読めないところもありましたしね。

 ところが、これまでの展開で追いつめられた主人公、6巻ラストでついにペンを握る。で、最終7巻のオビにあるように、この最終巻で読者の興味は最大限に高まるのでした。「描かない漫画家は、漫画を描いたのか? 描かなかったのか? 衝撃展開の最終巻!!」

 以下、ネタバレ。










 主人公は、マンガを描きます。しかもきちんとまじめに。

 マンガ家は描いてナンボだろう、という作者の主張が強く出た巻です。長編がきれいにおさまりました。しかし。それは読者の求めるものなのか。きちんとしてるけど、あまりにフツー。

 主人公はマンガを「描かない」。あたりまえですが、一般的に描かないことは悪いこと。しかしこのマンガでは、描かないことにある種の価値があるように見せてくれました。それはおそらく幻想であり妄想でギャグです。でもそれを読者は楽しみに読んでたのですよ。読者のほとんどが「描かない」ひとたちだったから。

 わたしも「描かない」ひとだからこそ、あえていわせていただきましょう。本作のオチのつけかたは何通りも考えられると思いますが、「描かないマンガ家」がマンガをマジメにかいてどうするっ。このラスト、考え得る限り、最低から二番目の展開です。最低はもちろん、描かない器根田先生が落剥して死んでしまうバッドエンディングね。

 わが家では、器根田先生が描かないまま、海外で大々的に成功するラストを予想したりしてました。海外には日本マンガとは全然別の価値観があるから、器根田先生が生きる余地があるかもしんない。成田じゃなくて羽田で、主人公が乗った飛行機を見送る友人たちが見たかった。とまあ描かない読者は勝手なことをいうわけです。

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December 27, 2014

年末マンガベストテン読み比べ

 毎年、年末に各誌で発表されているマンガベストテンが出そろってきました。

●『このマンガがすごい!2015』(2014年宝島社、520円+税、amazon
●『フリースタイル28 特集THE BEST MANGA 2015 このマンガを読め!』(2014年フリースタイル、888円+税、amazon
●『ダ・ヴィンチ 2015年1月号 BOOK OF THE YEAR 2014』(2014年KADOKAWA/メディアファクトリー、556円+税、amazon
●『エンタミクス 2015年2月号 コレ読んで漫画RANKING BEST 50』(2014年KADOKAWA/エンターブレイン、648円+税、amazon

このマンガがすごい! 2015 フリースタイル28 特集:THE BEST MANGA 2015 このマンガを読め! ダ・ヴィンチ 2015年 01月号 [雑誌] エンタミクス 2015年2月号 [雑誌]

 まず、ベストテンとは何なんでしょ、というところから。ベストテンは「賞」のようなモノだけど、「賞」とはちょっと違う。

 賞の選び方はいろいろです。ひとりの選者が選ぶこともあれば、数人の選者が合議で選ぶこともある。芥川賞や直木賞は合議制ですね。手塚治虫文化賞もそうか。

 ところが合議を廃し、純粋に投票だけで選ばれる賞もあって、アカデミー賞なんかその代表的存在ですね。

 いっぽうベストテンは、これはもう投票だけ。合議なんかはしない、というのが大原則でしょう。賞のほうがベストテンより権威がある、ということはなくって、映画方面では長らく、業界雑誌のベストテンである「キネマ旬報ベストテン」がもっとも権威を持っていた時代がありました。むしろ合議がないからこそ、読者から信用されたりもするわけです。

 マンガにおいては古くから小学館漫画賞、講談社漫画賞、文藝春秋漫画賞などが存在していました。しかし合議であることについての不信感は以前からささやかれていました。誰かがどこかで操作してるんじゃないのか? ベストテンが登場してくるのも当然、だったのかな。

 賞の目的は、優れた作品を顕彰することでそのメディアの進歩を促す、ことです。しかしもちろん、授賞による売り上げの増加という商業的な副産物もあります。ベストテンもこれは同様ですが、さらに読者はブックガイドとしての利用を期待している。

 じっさいにわたし、宝島社『このミステリーがすごい!』を初期からずっと買ってますが、純粋にブックガイドとして読んでます。ミステリについては全然くわしくないけどときどき読む、というタイプのわたしなどは、このミスのような本がないとちょっとつらい。

 ベストセラーを読めばいいじゃないか、といわれるかもしれませんが、ほんとのベストセラーはむしろ地雷であったりもします。マンガと違って読むのにけっこう時間がかかるミステリ小説で地雷を踏むと、立ち直れなかったりしますので。

 というわけでブックガイドという側面も見のがせないマンガの年末ベストテン、今年の傾向は。

     ◆

 まず雑誌「ダ・ヴィンチ」のベストテン。読者アンケート、さらにE-mailアンケート会員、全国書店員、ネットリサーチ会社のアンケート会員など。有効回答数が総4589通、いちジャンルにつき三作まで投票可、というシステムです。

 小説やエッセイも含まれてるので、マンガだけの投票総数は発表されてませんが、そうとうなビッグデータでしょう。

 しかしビッグデータだけあって単なる人気投票になってます。売れてる作品が上位に来るのは当然。第一位は昨年と同様『進撃の巨人』、二位が常連中の常連『ONE PIECE』ですから、驚きはありません。ブックガイドとしての実用性は限りなく低い。

 ただしマンガをまったく読まないひとにとっては、これでも役に立つのだと思います。ダ・ヴィンチでもマンガ以外のベストテンは、わたしも、へーこういうのが売れてるんだ、と勉強になりましたから。

 もうひとつのビッグデータ、「オトナファミ」改め「エンタミクス」の「全国3000店の書店員と選んだ コレ読んで漫画RANKING BEST 50」。3000店の書店員へのアンケート、三作品を選んでもらうシステム。これも投票数多い。

 一位が、昨年二位だった『七つの大罪』で、以下三位まで週刊少年ジャンプ連載作品が独占。今年に限れば、書店員、どれだけジャンプが好きなんだ、という結果です。

 ただし最大の問題点は、このランキング、昨年までは「書店員選ぶ」だったのが、今年は「書店員選ぶ」になっちゃってること。

「“2014年の良作”を全国3000点の書店員とエンタミクス編集部が選出」となってまして、つまり、編集部のアンケート結果操作が否定されていない。残念ながら信用できないベストテンはすでにベストテンではありません。

 こういうビッグデータは人気投票の意味はあっても、ちょっとそのメディアにくわしい読者にとってはもの足らない。そこで選者を少なくしたベストテン。今年の『このマンガがすごい!』オトコ編一位は『聲の形』。これは予想どおりでしたが、オンナ編の一位『ちーちゃんはちょっと足りない』には驚きました。ブックガイドはこういうふうに驚かせてくれなきゃね。

 限られた選者によるベストテンは、誰が何に投票したか、すべてわかるのがいいですね。『このマンガがすごい!』は基本五作を選ぶ方式で、選者は個人・グループなど、オトコ編が100人弱、オンナ編が70人。

 いっぽう、わたしもアンケートに参加させていただいた『フリースタイル』の「このマンガを読め!」の一位は、高野文子『ドミトリーともきんす』でした。選者49人中23人が選んでて、しかも三位以内に挙げたひとが14人もいるのですから、ぶっちぎりですね。わたしも票を入れさせていただきました。

 フリースタイルはひとり10作品を挙げる方式です。選者の平均年齢はきっとこっちのほうが高いと思います。

 ちなみにフリースタイルのほうで『聲の形』を挙げたひとは5人で12位。逆に『このマンガがすごい!』で『ドミトリーともきんす』に票を入れたひとは8人でオンナ編9位。どちらでも健闘してます。

 さて、もしこの四冊の雑誌すべてで、ベスト20あるいはベスト10にはいる作品があったとすれば、それが今年の代表作になるのかもしれない。

 というわけで調べてみましたが四つのアンケートすべてを制覇した作品はありませんでした。しかし、三つならあります。

●椿いづみ『月刊少女野崎くん』:このマンガがすごい!オンナ編5位、ダ・ヴィンチ8位、エンタミクス7位。
●大今良時『聲の形』:このマンガがすごい!オトコ編1位、フリースタイル12位、エンタミクス4位。
●ヤマザキコレ『魔法使いの嫁』:このマンガがすごい!オトコ編2位、フリースタイル11位、エンタミクス6位。
●田島列島『子供はわかってあげない』:このマンガがすごい!オトコ編3位、フリースタイル4位、エンタミクス16位。

 おお、意外にも『野崎くん』が三誌でベストテン入り。というわけで今年を代表する作品は、『月刊少女野崎くん』で決まり!?

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December 14, 2014

間取りを読む『九月十月』

 空前の間取りマンガ。

●島田虎之介『九月十月』(2014年小学館、694円+税、amazon

九月十月 (IKKI COMIX)

 寡作で知られる著者の新作は、なんと家の間取りを読み取ることで、作品の全体像がわかる仕組みのマンガです。画面や会話は平易に描かれていますが、本書に登場する家の間取りを理解することでお話の別の面が見えてくる。いやびっくりした。

 総130ページ弱、日本マンガとしては中編です。主人公は初老の「伊東部長」。一軒家に住み、子供は三人。長男と長女はすでに結婚して家を出ていて、現在は次男とふたり暮らし。ある日、長男がマンションを買う資金の援助を頼みに来る。さらに長女が離婚するかもしれないと伊東に伝え、彼の心に小さなさざ波がたつ、というお話。

 本書の登場人物はみんな「家」のことを気にしています。長男夫婦は新しくマンションを買おうとしている。長女は離婚をきっかけに新しい部屋を捜している。また長女は建築にかかわる仕事もしてるらしい。そして父親は、長女が実家に帰ってくるのじゃないかと、すでに物置と化している二階の一部屋を眺めています。

 さて、本書で読解すべき家は、伊東の家です。

 最寄り駅は吉祥寺。東急のある駅前から歩いて住宅街へ。その家は通りに面して門扉があり、小さな前庭を隔てて玄関。玄関のドアを開けると突き当たりまでがまっすぐの廊下になっています。廊下の左手が居間とその奥に台所。廊下の右手には掃き出し窓が二間ぶん続いていて、外にはりっぱな庭があります。つまりこの廊下は、昔でいうなら縁側です。

 居間に入ると二人掛けのソファが向かい合わせにふたつあり、その間に小テーブル。ソファの奥にはテレビと電話台。伊東はいつも二人掛けソファに寝っ転がっていて、居間の奥の台所で次男が料理をつくっている。

 玄関から縁側をまっすぐ突き当たって左に曲がると、その奥は二階へと続く階段。その手前、左側には納戸があります。こういう間取りはすべてマンガに描いてあるのですが、ぱっと見ただけではわからない。自分の頭で意識的に再構成することが求められているみたい。

 登場人物たちはもちろん現在に生きていますが、長女のひとことが彼らの意識を過去に向かわせます。長女は、兄、叔母、父に質問します。「ママの家 憶えてる?」

 ママの家とは、伊東の妻の実家のこと。伊東の家はもともと大きな敷地に、妻の実家と伊東の家、二軒が庭を隔てて建っていました。相続税を払うため、実家を壊して敷地の半分を売り、残ったのが現在の伊東の家でした。

 伊東が庭に立ち、塀の向こうを眺めると、今、そこにはお隣の家の壁が見えるだけです。しかしかつてそこには塀もなく、妻の実家が建っていました。妻も妻の妹もその家で育ちました。大きく、美しく、謎めいた、今はなくなってしまった家。

 このマンガに伊東の妻は不在です。その原因について説明されることはありませんが、おそらくはすでに亡くなっている。妻の実家を壊して売却し、相続税の算段をしたのは伊東です。伊東は失われた家と妻の不在を重ね合わせていろいろのことを思い出します。彼の気持ちの中には少しの後悔もまじっているようです。

 ラスト近くでは長男の新居への引っ越しのシーンが描かれます。子どもたちの意識はすでに未来へ向かっています。しかし伊東は過去へ向かう気持ちから離れられません。

 さて、このマンガが間取りマンガであるという意味は、一階の納戸の位置です。この納戸は居間の隣に位置していて、窓などは存在しないはずです。

 しかし、この納戸にはなぜか四角い窓があるのです。次男が夕食をつくって伊東を捜していますが、伊東は納戸の窓から外を、何かを、見ています。

 存在しないはずの窓からいったい何が見えるのか。ここ、少しホラーはいってます。このシーンこそ本書のクライマックス。

 ラスト、その四角い窓からは、河川敷にある野球場が見え、そこでは伊東自身が草野球をしています。しかし彼はなお過去にとらわれています。家と過去・未来・現在が結びついた、美しく恐ろしいマンガでした。

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December 04, 2014

マンガ特装版という黒い罠『3月のライオン』

 マンガの単行本に「特装版」というものが始まったのはいつだったでしょう。多くはどうでもいいオマケがついていて、かつてわたし、まちがってタオルつき特装版を買ったことがありました。ええーい、くやしいったら。

 最近は特装版はもうアタリマエの存在になってしまって珍しくも何ともありません。ただし特装版のほうが早く発売され、何のオマケもついてない通常版は週遅れで発売、ってどうよと思うところはあります。

 しかしまあそれもすべては出版不況が悪いのです。少しでも付加価値をつけて何とか買ってもらおうという戦略。わたしはマンガ以外のオマケは必要としないので特装版は基本買いませんが、作家の習作とかを見かけるとすっごく惹かれちゃって、買ってしまったものもあります。

 そういうのは読者の選択なんですからしょうがないのですが、こういう特装版にはちょっと納得いかない。何かというと、羽海野チカ『3月のライオン』10巻の特装版でありますっ。

 人気マンガ作品、羽海野チカ『3月のライオン』10巻と、人気バンド「BUMP OF CHICKEN」がコラボ。

3月のライオン (10) [BUMP OF CHICKEN]CD付特装版 (ジェッツコミックス)

●コラボのサイトはコチラ

『3月のライオン』10巻特装版を買えば、「BUMP OF THE CHIKIN」のCDがついてきます。このCDには5分37秒の楽曲「ファイター」が収録されていて、ジャケットを iPhoneやアンドロイドと連動させれば、『3月のライオン』主役の桐山が登場する5分57秒のアニメーション・プロモーションビデオが見られる仕様となっています。

 このPVはなかなかいい感じ。バンプはメビウスの原画を使用したビデオをコンサートで使用したこともありましたし、なかなか目が離せない。

 とまあ、ここまでは良しとしましょう。通常版が486円+税、特装版が1296円+税。一曲CD+PVが、810円+税。ファンなら納得できる価格と考えて買うのかな。

 しかーし。

 このコラボにはもうひとつありまして、羽海野チカ『3月のライオン』スピンオフマンガというのが制作されています。

 ところがこのスピンオフマンガ、電子配信された楽曲「ファイター」を税込250円でダウンロードしたひとしか読めないのですね。しかもこれ、読めるのは2015年5月31日までの期間限定。さらに50回という回数制限あり。

 つまり。

 バンプファンは『3月のライオン』CDつき特装版を買えと。羽海野チカファンはバンプの楽曲を電子で買ってスピンオフマンガを読めと(期間限定だけど)。

 ということは、バンプと羽海野チカの両方のファンは、CDつき特装版を買った上でバンプの楽曲を電子で買ってスピンオフマンガを読めと、そういうわけですな(期間限定だけど)。これをしてしまった購買者には、手もとにはCDと電子楽曲がダブって存在することになります。

 ううーん250円とはいえ、ダブりを奨励するムダづかいだなあ。おそらく、ともに不況のマンガ業界と音楽業界がなんとか売り上げを伸ばそうとする企画だと思いますが、消費者を増やそうとするのじゃなくて、同じ購買者が支出する金額を増やそうとするのはどうよ、という話ではあります。

 マンガファンとしては、きっと『3月のライオン』スピンオフマンガは将来的に別の単行本に収録されるでしょうから、そこまで待てばいいのですけどね。

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