« 魅惑の会話劇『子供はわかってあげない』 | Main | マンガの視点・人称の話:『惡の華』と『聲の形』 »

October 15, 2014

リトル・ニモの話

 ウィンザー・マッケイ『夢の国のリトル・ニモ Little Nemo in Slumberland』が初めて日本に紹介されたのは、S・Fマガジン1973年7月号。小野耕世の連載コラム「SFコミックスの世界」第30回=最終回「美しき夢みる人」がそれです。(冒頭からすみません。これ以前からニモはすでに紹介されていたとご指摘いただきました)

 S・Fマガジンで紹介されたニモのカットはすべてモノクロでしたが、「ナイヤガラを飛ぶニモの飛行艇」「火星都市上空のニモ」「龍の口に乗るニモ」などステキなものばかり。マッケイの作ったアニメーション「恐竜ガーティ」のワンシーンもありましたし、有名な長い長い竹馬や、ベッドの脚が伸びて都市の上空を歩き出すシーンも見られました。

 ちいさなモノクロのカットではありましたが、日本マンガとまったく違うマッケイの幻想的でかつリアルな絵。わたしはニモにすっかり魅了されてしまいました。

     ◆

 初めてリトル・ニモが邦訳されたのは1976年。パルコ出版から小野耕世訳で『夢の国のリトル・ニモ』が出版されました。

夢の国のリトル・ニモ (1976年)

 ハードカバーで縦30cm超の大きな本。わたしはたまたま新聞一面の下のほうにある広告欄で見つけ、書店で客注して買いました。今、価格を見直してびっくりしましたが、お値段4500円(!)。ちなみにわたし大学浪人中です。なにやってるんだか。

 週一回、新聞日曜版の1ページを使い、少年(というより幼児?)ニモの夢が描かれます。ニモはこの世のものではないすばらしい夢の国を旅しますが、最後はかならず世界は変貌し悪夢となってニモの目が醒めるコマで終わります。それでも毎週ニモの夢は少しずつ進み、夢の国の探検が続きます。

 架空都市や超自然のデザインのすばらしさ。美麗で正確なレイアウト。アニメーション作家でもあったマッケイによる動きの表現の妙。そして奇想のストーリー。

 コミック・ストリップの黎明期、1905年に始まったリトル・ニモは、原初のマンガであり、かつオールタイムベスト作品でもあったのです。わたし興奮して熟読しました(すみません大学浪人中です)。

 しかし。こんなにすばらしい本であるのに、じつはこの邦訳、オールカラーじゃなかった。本書には1ページが連載1回分で、120話が収録されていましたが、そのうちカラーは60話。残り半分はモノクロで掲載されていたのです。

 ニモの魅力の大きな部分がマッケイによる美しいカラリングなのですから、これはじつに残念。ただしこれが異常かというとそうでもないのが日本マンガ事情です。日本マンガの二色やカラーページですら単行本になるとモノクロになる。海外のカラーマンガ邦訳がモノクロになるのは当然のことでした。

     ◆

 その後、1989年には日米合作のアニメ「NEMO/ニモ」が日本公開されました。わたしこの作品見てませんが、大塚康生『リトル・ニモの野望』(2004年徳間書店) は読みました。

 この本はニモのアニメ企画が日米の狭間でいかに残念なことになっていくかを記録したものなので、原作マンガの魅力についてはあまり触れられていません。

     ◆

 時は流れて20世紀末。アメリカアマゾンが開店し、日本からも洋書の注文が簡単にできるようになりました。とはいってもトラックで北米大陸を横断し太平洋は船便ですから、注文して入手できるまで一カ月超。ただしネットで書影や内容を調べて注文、カードで決済、という方式がそれまでに比べてどれだけ画期的だったか。

 わたしがアメリカアマゾンを利用し始めたのが1997年。日本アマゾンがサービスを開始するのは2000年ですが、それまでの数年間はアメリカアマゾンをよく使用していました(じつは今も送料込みでもアメリカアマゾンのほうが安いのでときどき使ってます)。

 1997年にわたしが注文し始めた洋書は、アラン・ムーアやフランク・ミラーのアメコミや、まだ邦訳されていなかったタンタンのシリーズや研究書でしたが、それとともに子ども時代から欲しかった英語版のリトル・ニモも集め始めました。

 どうせなら全作品を読んでみたい。当時1989年から1993年にかけてアメリカのRemco Worldservice Books/Fantagraphic Booksが、『The Complete Little Nemo in Slumberland 』という完全版を全六巻で刊行していました。これがお目当ての品。

The Complete Little Nemo in Slumberland Vol. 1: 1905-1907 Complete Little Nemo in Slumberland: 1913-1914, Vol. 6

 これらをアメリカアマゾンで断続的に注文。断続的にというのは、すでに発売から少し時間がたってしまった本なので、いつもアマゾンに在庫があるわけではなかったからです。結局アマゾンで入手できなかった二冊は、バーンズ&ノーブルを利用したり、直接Fantagraphic Booksに注文して、やっと全巻そろえることができました。

 縦が33cm超のハードカバー。もちろんオールカラーで一巻35ドル×全六巻。けっこうなお値段です。

 英語は得意じゃなくて読めないところも多いけど、これでリトル・ニモはコンプリートだぜっ、と思って満足していました。

     ◆

 ところがっ。

 まず昨年、こんなとんでもない本が刊行されました。

●「【原寸版】初期アメリカ新聞コミック傑作選1903-1944 」(2013年創元社、12万円+税、amazon

[原寸版]初期アメリカ新聞コミック傑作選1903-1944(全4巻+別冊)

 出版社のサイトはコチラ→(

 これは当時の新聞マンガを原寸で復刻したもの。つまり縦54cmという新聞大の原寸でリトル・ニモが読める! こんなでかい本、どこに置くんだよっ。しかも他の作品を含めてジュウニマンエン~!? ケンカ売ってんのかという価格です。さすがに買ってません。でも原寸大には惹かれますね。

 ちなみに邦訳の元版となったSunday Press Booksの英語版『Little Nemo in Slumberland: So Many Splendid Sundays! 』も新聞原寸大で128ページ、定価125ドルでそうとうにお高いですが、これならまあ手にはいらないこともない。ネット書店ではとんでもなく高価な値付けをしているところもありますが、出版社のサイトによると、この11月には第四版が出る予定なので、どうしても欲しいかたは待つほうがいいです。

 さらに本年2014年になって、パイ・インターナショナルからもリトル・ニモの邦訳が。

●ウィンザー・マッケイ『リトル・ニモの大冒険』(和田侑子訳、2014年パイ・インターナショナル、3200円+税、amazon

リトル・ニモの大冒険

 本の大きさを見ると縦がパルコ出版のとほぼ同じですが、ページ数は288ページと倍になってます。しかも昔よりずいぶんお安くなってお得感がある。

 ただしわたしはすでにFantagraphic社版でコンプリートしてるからね、と買ってなかったんですよ。

 とか言ってたら、ついにこんな本が。

●ウィンザー・マッケイ『リトル・ニモ 1905-1914 』(小野耕世訳、2014年小学館集英社プロダクション、6000円+税、amazon

リトル・ニモ 1905-1914 (ShoPro books)

 ついに出た、邦訳完全版。リトル・ニモの全作を網羅して448ページ。

 夏に出版された本ですが、迷いに迷ったすえ、結局買っちゃいました。とほほ。

 縦が35cm超で、Fantagraphic社版よりさらにでかい。ハードカバーでオールカラー。アート・スピーゲルマンの日本版向け序文マンガつき。

 それはともかく、Fantagrapic社版より印刷の発色が良くてくやしい。Fantagrapic社版では一部モノクロで収録されていた作品も、きちんとカラーで収録されていてくやしい。しかもやっぱり英語より日本語のほうが読みやすくてくやしい。

 というわけで、現在の日本では、リトル・ニモは三つの訳本が出版されているという夢のような事態になっているのです。そこのあなた、この歴史的傑作を、今読まないでどうしますか。

|

« 魅惑の会話劇『子供はわかってあげない』 | Main | マンガの視点・人称の話:『惡の華』と『聲の形』 »

Comments

うわあああああああああ~~

やっと

やっと

思い出さなくなっていたのにぃ

たーすーけーてー

うわあああああああああ~~

Posted by: トロ~ロ | October 17, 2014 at 08:09 PM

タッシェン版
http://www.amazon.co.jp/Complete-Little-Nemo-Winsor-McCay/dp/383654511X/ref=sr_1_sc_2?s=english-books&ie=UTF8&qid=1463384817&sr=1-2-spell&keywords=tashcen+little+nimo
と比較して『リトル・ニモ 1905-1914 』(小野耕世訳、2014年小学館集英社プロダクション)の誤訳を指摘しました。
より良き理解の一助として頂ければ幸いです。
http://gosshie.blogspot.jp/2016/02/1905-1914.html

Posted by: ハル吉 | May 16, 2016 at 04:52 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/38336/60480467

Listed below are links to weblogs that reference リトル・ニモの話:

« 魅惑の会話劇『子供はわかってあげない』 | Main | マンガの視点・人称の話:『惡の華』と『聲の形』 »