英国人が選ぶ日本マンガベスト150(その1)
本稿は下記のエントリの続きになります。
ポール・グラヴェット Paul Gravett 編『死ぬ前に読むべき1001冊のマンガ 1001 Comics You Must Read Before You Die: The Ultimate Guide to Comic Books, Graphic Novels and Manga』については、2014年6月9日発売の週刊ビッグコミックスピリッツにもコラムを書かせていただきました。
ただしこの本、すごく分厚い本なので紹介しきれないところはいろいろあって、まあ1001作というのは多い多い。
わたしはとりあえず海外作品のブックガイドとして読んでるのですが、本書は歴史書でもあります。古今の日本マンガも多く取り上げられていて、その数、およそ150作。つまり英国人が選ぶ「日本マンガベスト150」としても読めてしまうのですね。
これが日本人読者の感覚と微妙にずれていておもしろい。では、その150作をご紹介。
1 1931年 田河水泡:のらくろ
2 1934年 阪本牙城:タンクタンクロー
3 1946年 長谷川町子 :サザエさん
4 1951年 手塚治虫:鉄腕アトム
5 1953年 手塚治虫:リボンの騎士
6 1956年 辰巳ヨシヒロ:黒い吹雪
7 1956年 横山光輝:鉄人28号
8 1956年 小島功:仙人部落
9 1956年 杉浦茂:少年児雷也
10 1959年 水木しげる :ゲゲゲの鬼太郎
まず最初に登場するのが『のらくろ』。日本人としてはまず、樺島勝一『正チャンの冒険』を挙げてほしいところではあります。『タンクタンクロー』が英語圏で有名なのは、日本のプレスポップ・ギャラリーが発売した英訳版のおかげですね。
手塚の初期作品として『鉄腕アトム』『リボンの騎士』の二作は妥当でしょう。英語圏で辰巳ヨシヒロの人気が高いのは青林工藝舎のおかげかな。小島功『仙人部落』は世界最長連載を更新中なので。
原著で『ゲゲゲの鬼太郎』は1959年なのに少年マガジン版の書影が掲載されてて、1959年なら「ゲゲゲ」じゃないだろう、とちょっと文句もいいたくなるところです(鬼太郎は紙芝居に始まり貸本版を経て週刊少年マガジンに掲載。その後1968年のアニメ化のとき「ゲゲゲの鬼太郎」というタイトルに変更されました)。
11 1964年 白土三平:カムイ伝
12 1964年 石森章太郎:サイボーグ009
13 1965年 園山俊二:ギャートルズ
14 1965年 川崎のぼる/梶原一騎:巨人の星
15 1966年 桑田次郎:バットマン
16 1967年 赤塚不二夫 :天才バカボン
17 1967年 ちばてつや/高森朝雄:あしたのジョー
18 1967年 モンキー・パンチ:ルパン三世
19 1967年 手塚治虫:火の鳥
20 1967年 永島慎二:フーテン
21 1968年 滝田ゆう:寺島町奇譚
22 1968年 永井豪:ハレンチ学園
23 1968年 つげ義春:ねじ式
24 1969年 藤子・F・不二雄:ドラえもん
25 1969年 さいとう・たかを:ゴルゴ13
F先生の『ドラえもん』があって、二人合作の『オバケのQ太郎』がないのはちょっとなあ。A先生作品もいれてほしかった。桑田次郎なら『8マン』を外せないはずなのですが、『バットマン』が選ばれてるのはこの有名作品がまずアメリカで復刻されたから。
原著で『ギャートルズ』の書影が『はじめ人間ゴン』になってるのはご愛敬。『ギャートルズ』は日本でも昨年復刻出版されましたので、お好きなかたはどうぞ(上の書影クリックでアマゾンに飛びます)。
26 1970年 ジョージ秋山:アシュラ
27 1970年 手塚治虫:きりひと讃歌
28 1970年 小島剛夕/小池一夫: 子連れ狼
29 1970年 安部慎一:美代子阿佐ヶ谷気分
30 1970年 林静一:赤色エレジー
31 1972年 手塚治虫:ブッダ
32 1972年 手塚治虫:奇子
33 1972年 永井豪:マジンガーZ
34 1972年 上村一夫:同棲時代
35 1972年 上村一夫/小池一夫:修羅雪姫
36 1972年 楳図かずお:漂流教室
37 1972年 池田理代子:ベルサイユのばら
38 1972年 永井豪:デビルマン
39 1973年 中沢啓治:はだしのゲン
40 1973年 矢口高雄:釣りキチ三平
41 1973年 手塚治虫:ブラック・ジャック
42 1974年 萩尾望都:トーマの心臓
43 1975年 いがらしゆみこ/水木杏子:キャンディ・キャンディ
44 1976年 竹宮惠子:風と木の詩
45 1976年 青池保子:エロイカより愛をこめて
46 1976年 手塚治虫:MW(ムウ)
47 1976年 有吉京子:SWAN 白鳥
48 1976年 美内すずえ:ガラスの仮面
49 1977年 松本零士:銀河鉄道999
50 1978年 高橋留美子:うる星やつら
51 1978年 大島弓子:綿の国星
52 1979年 福谷たかし:独身アパートどくだみ荘
きら星のごとき傑作が集中しているのが1960年代から1970年代にかけて。とくに70年代は豪華な作品が並んでます。
『子連れ狼』の英語版は『Lone Wolf And Cub』というなんだかなあというタイトルですが、以前からオールタイムベストとして扱われてます。萩尾望都は個人的には『ポーの一族』を挙げたいところですが、BLの母として『風と木の詩』と『トーマの心臓』が並べて語られるのも歴史書ならでは、かな。あと、『ポーの一族』は残念にもいまだに英仏訳がありません。
『独身アパートどくだみ荘』は、なぜかフランスでえらく評価されてます。仏語版タイトルは『トーキョー・バガボンド』。
53 1980年 山岸凉子:日出処の天子
54 1980年 高橋留美子:めぞん一刻
55 1980年 大友克洋:童夢
56 1980年 あだち充:タッチ
57 1981年 高橋陽一:キャプテン翼
58 1982年 大友克洋:アキラ
59 1982年 宮崎駿:風の谷のナウシカ
60 1982年 日野日出志:地獄変
61 1983年 手塚治虫:アドルフに告ぐ
62 1983年 弘兼憲史:課長島耕作
63 1983年 原哲夫/武論尊:北斗の拳
64 1984年 鳥山明:ドラゴンボール
65 1984年 星野之宣:2001夜物語
66 1985年 つげ義春:無能の人
67 1985年 吉田秋生:BANANA FISH
68 1985年 北条司:シティーハンター
69 1986年 いがらしみきお:ぼのぼの
70 1986年 永野護:ファイブスター物語
71 1987年 荒木飛呂彦:ジョジョの奇妙な冒険
72 1988年 杉浦日向子:百物語
73 1989年 士郎正宗:攻殻機動隊
74 1989年 三浦健太郎:ベルセルク
1980年代になると、若い読者が読んだことがある作品も多くなってきます。サンデーの高橋留美子、あだち充、ジャンプの『北斗の拳』や『ドラゴンボール』などのビッグヒットが顔を出してきます。そしてマンガ表現を変えた大友克洋の登場。
それにしても星野之宣作品があって諸星大二郎がないのはちょっとどうかと思うぞ。
ここまでで約半分。まだまだ多いので後半の作品につきましては、以下次回。
Comments
諸星大二郎のもやもやして不定形で不気味な「線」を見て英国人や西欧人がどのような印象を抱くか興味津々です。
Posted by: トロ~ロ | June 15, 2014 05:42 PM
ということは、日本語でもいいから死ぬ前に読め!と。
凄いコンセプトの本ですね。
Posted by: シマ | June 11, 2014 10:28 PM
諸星大二郎については、栞と紙魚子の仏訳はあるんですが、その他の主要作品は訳されてないようですね。
Posted by: 漫棚通信 | June 11, 2014 01:28 PM
大変興味深い!このリストに入っているかどうかということを決める要素の一つは「英語ないしは仏語で出版されている」ということでしょうかね。すると「諸星大二郎がない」のは、選に漏れたのではなくて、候補として存在しない(選者が読める環境で出版されていない)ということでしょうか。「オバQ」や「男組」も。
何にしても、いつも楽しく読ませていただいております。
Posted by: シマ | June 11, 2014 11:33 AM