ニューヨークのサンペ
ジャン=ジャック・サンペ Jean-Jacques Sempé をご存じでしょうか。
1932年ボルドー生まれ。フランスのユーモア・イラストの巨匠で、日本では子供向けユーモア小説「プチ・ニコラ」の挿し絵担当として有名ですね。新潮社の雑誌「考える人」の表紙イラストは、かつてずっとサンペのものが使用されていたので、それで知っているかたがいるかも。
●「Petit Nicolas」での画像検索結果→(※)
●こちらは「Sempe」での画像検索結果→(※)
で、日本では久しぶりとなるサンペの画集が出版されました。
●ジャン=ジャック・サンペ『SEMPE IN NEW YORK ジャン=ジャック・サンペ ニューヨーカーイラスト集』(宮田智子訳、2014年DU BOOKS、3200円+税、amazon)
1978年以来、サンペはアメリカの雑誌「THE NEW YORKER」の表紙イラストに参加するようになりました。ニューヨーカーの表紙といえばイラストレーターのあこがれ。スタインバーグら、歴史上の人物が勢ぞろいしています。
本書には1978年から2009年まで、サンペが担当したニューヨーカー表紙イラスト、全102点が収録されています。あと、ロングインタビュー、ニューヨーカーに採用されたヒトコママンガ、イラストと文章で語られる物語「Par avion(エアメール)」の一部など。
プチ・ニコラ以来、サンペの得意技である、おっきな風景や背景の中にかわいくちっさな人物像、しかもこちゃこちゃといっぱい、という楽しく美しい絵が見られます。
ただしこの邦訳、A5判のソフトカバーなんですよね。フランスの原書や英語版は縦30cm超のでかい本だからなあ(日本円になおすと6000円をこえるお値段ではあります)。日本でのサンペの知名度を考えると、こういう判型で出すのもしかたないかもしれませんが、サンペのあの細かい絵がA5判じゃねー。残念な邦訳出版となっています。
さて、それはそれとして。
サンペが描くようなヒトコママンガは英語でカートゥーン cartoon で、彼はカートゥーニスト cartoonist と呼ばれます。しかしフランス語ではどうなるか。サンペ自身はデシナトゥール・ユモリスト dessinateur humoriste という表現を好んでいるようです。この場合のデシナトゥールは英語のデザイナーというより、画家・素描家をさしますので、ユーモア・イラストレーター、みたいな感じでしょうか。
そして本書では、ニューヨーカーに掲載されるような作品はデッサン・ユモリスティーク dessin humoristique と呼ばれているようです。日本語に訳すと、ユーモア・デッサンかな(←いやいやいや訳してないって)。
何でこういうことを気にしてるかといいますと、サンペを「漫画家」「マンガ家」と紹介するのに躊躇するから。つまり「マンガ」とは何なのか、ってことですね。
サンペの描くような、単純な線で描かれたどこか滑稽みのある絵は、日本ではすべてマンガと呼ばれます。ただし日本語のマンガという言葉の範囲はやたらと広くて、北斎漫画から鉄腕アトムまで含まれちゃいます。
「ヒトコママンガ」と「複数のコマが連続して成立するマンガ」は同じものなのか。少なくとも日本漫画家協会ではこれを区別していません。
しかし「ヒトコママンガ」からセリフやキャプションを取り除けば、イラストレーションやファイン・アートに限りなく近づいてしまう。本書でサンペの作品を眺めていると、つくづくそのように感じます。
サンペの描くニューヨーカーの表紙は笑いを廃して叙情に満ちている作品も多いのです。バレエの舞台袖で出番を待つ少女たち、海辺の砂浜でひとり逆立ちをする男性、ニューヨークの街角でショーウインドウをのぞき込むビジネスマン。
マンガに囲まれて生活してる日本人としては、これらのサンペ作品もマンガと感じてしまいます。でもこれは現代日本で大量に流通しているマンガと違うもののような気もするし。
というわけで、サンペを「マンガ家」とは紹介しづらいのです。あと、じつはサンペって、「わたしはバンド・デシネが、大っっっっっきらいだ」と公言してるような頑固じいさんなので、なおさらなのであります。
【追記】サンペ・ファンのとんがりやまさんが、ブログでサンペ愛に満ちた文章を書かれてますので、そちらもどうぞ。
↓
●踊る阿呆を、観る阿呆。:ジャン=ジャック・サンペ賛ふたたび
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