吸血鬼殺人事件『白暮のクロニクル』
どういうマンガが好きなのかと問われて個別のことはともかく、一般化して話すならこれはもう、魅力的なキャラクターがステキなストーリーをくりひろげるマンガ、であるわけですね。この二者のどちらが欠けても成功しない。
ストーリー/プロットについてはマンガに限ってどうこういえるものではないのでおいといて、マンガにおけるキャラクターは特殊です。なんつっても、紙の上に描かれた線の集合であるところの何か、なんですから。しかもそれが複数のコマにわたって「演技」らしきものをくりひろげ、総合的にマンガのキャラクターとして認識される。これらを大きく含めてわたしたちはキャラクターとして受け入れています。
ひとが演じる演劇や映画・テレビならキャラクターは「姿形」+「会話」+「演技」ですが、マンガなら「姿形」+「会話」+「作者の演出による演技らしきもの」となります。つまりすべては作者のコントロール下にあります。
ということをふまえて、これはどうか。
●ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』1巻(2014年小学館、552円+税、amazon)
舞台は現代日本。ただし、わたしたちの住む世界とは少し違ってて「オキナガ」と呼ばれる長命者がひっそりと暮らしている世界。彼らの存在は完全に秘密というわけではなく、一般人にもそれなりに知られていますが、太陽光線に弱く、心臓に杭を打たれなければ死なない、まあ吸血鬼です。
オキナガを保護管理しているのが厚生労働省。その日本で吸血鬼が被害者となる連続殺人事件がおこる。この犯罪にいどむのが、吸血鬼探偵・雪村魁と厚労省の新米職員・伏木あかりのコンビ……!?
吸血鬼が犯人だったり被害者だったり探偵だったりするミステリやSFは、すでにいろいろあったりしますので、新味はありません。結局、いかに魅力的なキャラクターを創造できるか、いかに魅力的な謎を提出できるか、なんですよね。
でもって本作。著者のつくるキャラクターたちのバカ会話がねー、『究極超人あ~る』以来の伝統芸のようなこのバカ会話が楽しくて楽しくて。やたらと背の高い厚労省職員、伏木あかりちゃんのつきだした唇の表現「ε」がかわいい。正義漢だし、好きだなあ。同僚かつ上司の久保園さんも、ハゲのくせにやたらとかっこいいいぞ。
さらに本作では魅力的な謎が。1巻で形式上の犯人は指摘され、事件は表面上解決するのですが、その陰には12年ごとに殺人をおこす「羊殺し」と呼ばれるラスボスが存在するらしい。それは未年におこる猟奇殺人。おお、次の未年といえば、来年、2015年じゃないかっ。これは本書のカバーにもでかでかと描かれてます。
とまあ、何やら仕掛けがいっぱいありそうなお話。カバーには何やらわけありらしい英文も書いてあって。
Passing through thousands of nights,
I keep on walking to let her soul rest in peace.
No matter how lonely it seems to be,
that is the way I live.
適当に訳しておきます。こんな感じで、主人公の思いを書いているらしい。
彼女の魂よ安らかに
それだけを祈って幾千の夜をさまよってきた
いかに孤独であろうとも
それこそがわたしの人生なのだ
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