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February 13, 2014

バレエではすべてが美しい『ポリーナ』

 邦訳された前作『塩素の味』では、叙情をみごとに表現してみせてくれたバスティアン・ヴィヴェス。彼の邦訳第二作はバレエが題材です。

●バスティアン・ヴィヴェス『ポリーナ』(原正人訳、2014年小学館集英社プロダクション、1800円+税、amazon

ポリーナ (ShoPro Books)

 出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。

 著者は1984年生まれの新鋭です。本書は邦訳BDにはめずらしくA5判ソフトカバー。モノクロ200ページの長編で原著は2011年の発行。

 6歳のポリーナ・ウリノフは私立のバレエ・アカデミーに入学し、師となるニキータ・ボジンスキー(書影イラストのヒゲの男性)と出会います。彼はまわりから古いと批判されていますが、信念を曲げず生徒に基礎的動作を教え続けている。生徒たちは彼を恐れています。ポリーナはボジンスキーに共感と反発を同時に感じながら、彼に師事します。そして彼女はバレエ劇場の付属学校やコンテンポラリー・バレエ団などを経て、人間としてバレリーナとして成長していく……

 お話の舞台がワールドワイドで、ポリーナが住んでるはモスクワかサンクトペテルブルクのようです。彼女が引っ越しする先はウクライナのキエフかな。その他にベルリンやパリも登場します。

 『塩素の味』でもそうでしたが、本書でも最も驚かされるのはその絵。筆とペンの併用(あるいはフォトショップ?)で、さらさらっとクロッキーふうに描いた絵です。

 描き込みとは遠く、むしろいかに省略するかを追求した絵です。とくにダンスのシーンは背景がまったく描かれていません。いや思いきったものです。絵がうまいからこそできるワザですね。

 作品は絵とセリフだけで構成され、漫符や擬音はほとんどありません。日本マンガに慣れた日本人読者にとっては静かな静かな作品です。内面描写はキャラクターの行動と表情とセリフ、そして風景描写によってなされます。「心の声」やキャプションが廃されているのが新鮮。

 邦訳はつるりんとしたいい紙を使ってて、グレーの部分は網点じゃなくて、何といったらいいのかな、グレーの色を塗ってあるような印刷です。その結果、黒・白・グレーの画面から受ける透明感がすばらしい。

 師弟の関係を軸にした少女の成長物語、という側面と、絵・表現・印刷がマッチして、たいへん美しい作品となっています。バレエではすべてが美しい。

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Comments

おお、やっぱフォトショップでしたか。筆で描いたような線がとても魅力的でした。

Posted by: 漫棚通信 | February 13, 2014 07:50 PM

 このマンガの作者とメディア芸術祭の受賞者プレゼンテーションで会いました。作品を描くのに使っているのはWACOMの液晶タブレットPCです。PhotoShopのグレースケールで、筆圧感知のペンを上手に使って、筆のようなタッチを出していました。

 グレーの濃さで奥行きを出すなど、こだわりがあるようでした。

「塩素の味』もそうでしたが、人間が動いている途中を切り取って絵にしている感じですね。日本のマンガやアメコミなどでは、動きが終わったところや、動きの途中でも歌舞伎の見得を切るようなポーズを描いたりするのですが、ヴィヴェスさんの場合、アニメを学んでいた経験が大きいのでは……などと思いつつ、ライブペインティングを拝見させていただきました。

Posted by: すがやみつる | February 13, 2014 04:45 PM

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