紙か電子か『ナナのリテラシー』
フィクションとしておもしろく、ルポルタージュとしておもしろく、メタ的におもしろい。
●鈴木みそ『ナナのリテラシー』1巻(2014年KADOKAWA/エンターブレイン、650円+税、amazon)
●同キンドル版1巻(2014年鈴木みそ、税なし400円、amazon)
書影左が紙の本、お値段は650円+税。書影右はキンドル版で、ご存じのとおりアマゾンの電子書籍は日本国に税金を払っていませんので税抜きじゃなくて税なし、さらに価格設定がお安く400円となっております。
この二冊、発行/発売が異なってて、紙の本がKADOKAWA/エンターブレインから。キンドル版は、著者本人「鈴木みそ」が販売しています。
書影イラストは、著者の本としてはめずらしく美少女+花が散るバックという、なんてあざといんでしょ、と驚くようなデザイン。ねらってるな。それはそれとして、発行/発売元が違うのに同じデザイン。さて、なぜこういうことになってるのか、というのが本書の内容であります。
主人公は飲んだくれのろくでなしながら天才コンサルタント山田仁五郎と、学校では並ぶもののない秀才女子高生七海(ななみ)。このふたりがコンビを組んで、混迷の現代日本ビジネスシーンに切り込みます。
彼らの最初のミッションは、出版不況で売れなくなった中堅どころのマンガ家「鈴木みそ吉」を、電子出版を利用していかに再生させるか……!?
とまあ昨年、キンドル版マンガ電子書籍で一発大当たりをとった著者による、虚実ないまぜの物語。
まずは現代日本の出版状況の分析、そして電子出版の立ち位置を語り、これだけでも感心しちゃうのですが、さらに本書のすばらしいところは、実際の処方箋を提示するところ。出版社用と作家用、二種類があります。
その薬は関係者にとってはきわめて苦く、飲みにくいものですが、わたし、うんうんとうなづいちゃいましたね。出版に興味のあるひとなら必読でしょう。
「鈴木みそ吉」はまず、電子出版権を出版社から取り戻す交渉を始めます。ここでエンターブレインが太っ腹な態度を見せる。実際に本書は、エンターブレインが紙の本、著者本人が電子書籍を同時に、しかも同じデザインで出版してるわけです。価格はもちろん電子書籍が安い。これも実験だなあ。
さて、ひるがえって読者としての自分はどうかといいますと、キンドルでけっこうマンガ買ってます。手軽に買えちゃうし、場所をとらないのが最大の利点。
ただしキンドルペイパーホワイトでは画面が小さくて、さすがにマンガを読む気になりません。だからおもにiPadのキンドルアプリで読んでます。しかしうちの初代iPadの液晶では、これがけっこう目が疲れるんですよー。最近のiPadは改善されてますかね?
というわけで、わたしは本書を紙の本で読みました。電子出版の実験を描いた実験的電子書籍が出版されたというのに、それを買わず、いずれなくなる(かもしれない)紙の本(しかも価格は高い)で読むという、おれはバカかもしれない。この矛盾した感じも含めて、いろいろとおもしろく楽しい本でした。
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