年末ベストテンは賞なのかブックガイドなのか
マンガ読者にとって年末のお楽しみ、今年もベストテンの時期です。まずは『このマンガがすごい』と「ダ・ヴィンチ」1月号が発売されました。
●『このマンガがすごい! 2014』(2013年宝島社、500円+税、amazon)
●「ダ・ヴィンチ」2014年1月号(2013年KADOKAWA、562円+税、amazon)
あらダ・ヴィンチの書影がない。ジャニーズが表紙のせい?
この時期になるといつも思うのですが、マンガの年間ベストテンってむずかしいですよね。
映画やミステリのベストテンならいいんですよ。作品としてきちんと完結しているものを評するんだから。でもマンガは連載したものをつぎつぎと単行本化したものを対象にしてます。しかもその連載が数年、十数年以上持続することもあり得る。これを評価するってのは、そうとうに無理なことをしてます。
つまり映画やミステリのベストテンの評者は、これは十年に一度の傑作だと思うぞすごいぞおまえら見ろよ読めよ、とオススメしているわけです。つまり作品を顕彰するつもりで、賞のつもりで選んでいる(と思います。聞いたわけじゃないけど)。
これはその年だけ、一期一会の作品だからこそ成り立つお話です。ところがこれをマンガでやるとどうなるか。初年度にある傑作を推すとするでしょ。翌年この作品はまだ連載中。十年に一度の傑作なんだから翌年もこの作品を推す。さらに翌年もその翌年も、十年に一度の傑作なんだからこれを推し続ける。
こうなりますと、一年に一回発行されるあずまきよひこ『よつばと!』や井上雄彦『リアル』がずっとトップをとり続ける、みたいなことになってしまう。実際にはそうはなりませんが。
これはちょっとまずいかな、と考えた選者はどうするか。ベストと思う作品を推すのじゃなくて、ちょっと気になる新作を推す、ということになります。ここ一年のうちに連載が開始された作品を挙げておけば、少なくとも昨年とカブることはない。
さすがに有効回答数4619通の「ダ・ヴィンチ」読者はそういうことは斟酌してません。今年もあのビッグヒット作品が第一位でした。でも『このマンガがすごい!』選者はきっとそんなふうに考えてるのじゃないかな。
かくして、ここ数年の『このマンガがすごい』の上位作品は、発行直前の一年間に連載が開始された、あるいは単行本1巻が発売された作品がずらっと並ぶことになりました。一巻完結ばかりだと楽なんですけどね。ベストテンは作品を顕彰する賞の意味合いはすでになく、おもしろそうだから読んでみようよ、というくらいになってる?
ブックガイドとしてはここ一年に連載開始された新しい作品が並んでるこちらのほうが良いのかもしれませんが、それはそれで数年前に始まった作品が無視されちゃうんで、これも痛いところだよなあ。
これがさらに進行しますと、まだ一巻しか発売されてなくって先の展開はぜんぜんわからないけど、とりあえず先物買いで推し! ということもあるかもしれない。
このあたりルールがあるわけではないので、すべては選者にまかされています。一巻しか発売されていないのを挙げるのも見識、挙げないのも見識です。おそらく選者は、賞のつもりとブックガイドのつもりと半々の気分で選んでるのじゃないでしょうか。まあ年に一度のお祭りですからね。かたいことはなしということで。
で、そういう目で本年の『このマンガがすごい!』を読んでみますと、オトコ編オンナ編の一位ぐらいは書影に出てるからバラしてもいいでしょう、松井優征『暗殺教室』と穂積『さよならソルシエ』でした。おめでとうございます。やっぱ上位作品はここ一年に始まった作品が多いですね。
ただし、ただひとつ難癖をつけるなら。
『さよならソルシエ』って全二巻で完結しましたが、昨年の『式の前日』の表題作みたいに、ある種の落とし話というか、オチのある良くできた短編小説というか、短編ミステリみたいな話じゃないですか。わたしも好きですよ。
でもこの二巻、発売されたのが2013年11月8日です。『このマンガがすごい!』の締め切りはけっこう早くて、対象となる単行本の発売日は2013年9月30日まで。
つまり『さよならソルシエ』を推したひとたちは、よくできた短編小説のような本作を推したわけじゃなくて、前半部分の、何かよくわからんけどおもしろそうという導入部を推してるわけです。
それは作品の本質的な部分を評価してないんじゃないか。それでいいのか? ううーんマンガベストテンにまつわる悩みはつきない。いや悩んでもどうなるわけではないのですが。
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