1950年前後のアメコミの研究書とか復刻とか
最近の印刷物では、今はもう販売終了してますけど「週刊ビッグコミックスピリッツ」2014年2・3合併号にコラムを執筆させていただきました。タイトルは『劇画の誕生より十年早く描かれたアメリカ製「劇画」です』というもので、1940年代から1950年代に活躍した黒人マンガ家マット・ベイカーの作品『It Rhymes with Lust 』をとりあげました。
ミニコミ誌「漫画の手帖 TOKUMARU 」9号には「アメリカン少女マンガの始まり」という文章を寄稿させていただきました。冬コミで頒布される予定(二日目12月30日、東1ホール K-19 b)。よろしくお願いします。
上のふたつとも同じ時代を扱ってます。現代の日本少女マンガは、女性が女性向けに描いたマンガ、と言い換えることも可能なくらい作者-読者関係が密接で、内面描写も特殊に進歩した作品群を形成しています。対してアメリカには少女が読むような少女マンガは存在しなかった、と言われていますがじつはそうでもなかったんだよー、というのが後者の論旨ですね。
アメコミでは1940年代末からロマンス・コミックスなるものがブームになりました。これは日本のレディコミほどエロくはないものの、ドロドロの恋愛模様を描いたマンガで、読者の多くが少女たちだったといわれています。
冒頭に挙げたマット・ベイカーは、そのロマンス・コミックスの中でもダントツにうまいアーティストだった、という流れですね。
で、これらの文章を書くにあたって最近読んだ(というか眺めた)本のご紹介。
●Trina Robbins 『From Girls to Grrrlz: A History of ♀ Comics from Teens to Zines 』(1999年Chronicle Books)
トリナ・ロビンスは京都マンガミュージアム「コミックスを描く女性たち アメリカの女性アーティストたちの100年」展(2009年)の監修をしてたかた。この本はアメリカの少女マンガ史について体系的に書かれたほぼ唯一の本だと思います。
図版が多くて書体もポップでたいへん楽しい本です。それでいて書いてあることはなかなか深い、というかわたしの知らないことばっかりでした。
●『The Best of Archie Comics 』(2011年Archie Comics)
17歳の高校生アーチーと彼の友人たちの恋愛模様をからめたドタバタコメディが「アーチー・コミックス」です。この作品こそアメリカの少女マンガの祖とされています。始まったのが1941年。
アーチーのご近所に住む少年を主人公にしたシリーズや、アーチー本人とは無関係だけどアーチーのタッチで描かれた類似作品、これらもすべてアーチー・コミックスと呼ばれますので、「アーチー」といえば膨大な作品群になります。
このベスト版シリーズは続編がつぎつぎと刊行されてて、キンドルでも読めますのでお手軽。
●Arnold Drake/Leslie Waller/Matt Baker 『It Rhymes with Lust 』(2007年Dark Horse Comics)
原著は1950年。アメリカ地方都市の「色と欲との二人連れ」の権力闘争をモノクロで描いたマンガで、出版したときは「ピクチャー・ノベル」を喧伝されました。「グラフィック・ノベル」に先行すること30年、日本の「劇画」よりも早く成立した作品で、その先進性によって2007年に復刻された作品です。
絵を担当したのがマット・ベイカーで、当時流行していたロマンス・コミックスのマンガ家の中でも色っぽい女性を描くことで知られていたトップ・アーティストでした。当時まだ珍しかった黒人マンガ家で、早世したので長く忘れられた作家となっていましたが、最近になって復刻や研究書が発行されてます。
●Jim Amash/Eric Nolen-Weathington 『Matt Baker: The Art of Glamour 』(2012年TwoMorrows Publishing)
マット・ベイカーの研究書。ご本人はそうとう昔に亡くなっているので、彼に言及した文章の再録とか、関係者インタビューとか、さらに全作品解題まで、かなりマニアックな本です。コミックスの再録が多くて楽しい。
●Matt Baker 『The Lost Art of Matt Baker Vol. 1: The Complete Canteen Kate 』(2013年Lost Art Books)
マット・ベイカーの作品「キャンティーン・ケイト」の復刻版。Canteen=酒保というのは軍隊における食堂、酒場みたいなところ。
朝鮮戦争中、韓国にあるアメリカ軍キャンプの酒保で働くケイトというオッパイの大きなおねえちゃんを主人公にしたマンガ。いわゆる軍隊喜劇 Military Comedy です。
おバカな作品ですが、掲載されていたのは「FIGHTIN' MARINES 」という朝鮮戦争を舞台にした戦争アクションマンガ雑誌です。想定してた読者層はやっぱり米兵かな。
●Joe Simon/Jack Kirby 『Young Romance: The Best of Simon & Kirby's Romance Comics 』(2012年Fantagraphic Books)
ジョー・サイモンとジャック・カービィのコンビは、キャプテン・アメリカなどのスーパーヒーロー・キャラクターを創造したことで知られてますが、じつは最初のロマンス・コミックスとなる雑誌「ヤング・ロマンス」を作ったのもこのふたりです。
本書はその復刻版。ジョー・サイモンの書くドロドロ恋愛模様が、その後全米で大流行するロマンス・コミックスの方向性を決定づけました。ジャック・カービィの絵は同時代アーティストに比べてもさすが、というデキですが、初期はウエスト細すぎるし尻も小さすぎ。
●Michael Barson 『Agonizing Love: The Golden Era of Romance Comics 』(2011年Harper Design)
これはいろんな雑誌からの復刻マンガ・アンソロジー。恋愛マンガではありますが、西部劇あり、戦争ものあり、スパイものあり。純愛、裏切り、悲恋、オンナの戦い、涙、そしてキス。読んでると何かこう脳が溶けそうになってきて、中毒性あるったら。
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