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December 28, 2013

1950年前後のアメコミの研究書とか復刻とか

 最近の印刷物では、今はもう販売終了してますけど「週刊ビッグコミックスピリッツ」2014年2・3合併号にコラムを執筆させていただきました。タイトルは『劇画の誕生より十年早く描かれたアメリカ製「劇画」です』というもので、1940年代から1950年代に活躍した黒人マンガ家マット・ベイカーの作品『It Rhymes with Lust 』をとりあげました。

 ミニコミ誌「漫画の手帖 TOKUMARU 」9号には「アメリカン少女マンガの始まり」という文章を寄稿させていただきました。冬コミで頒布される予定(二日目12月30日、東1ホール K-19 b)。よろしくお願いします。

 上のふたつとも同じ時代を扱ってます。現代の日本少女マンガは、女性が女性向けに描いたマンガ、と言い換えることも可能なくらい作者-読者関係が密接で、内面描写も特殊に進歩した作品群を形成しています。対してアメリカには少女が読むような少女マンガは存在しなかった、と言われていますがじつはそうでもなかったんだよー、というのが後者の論旨ですね。

 アメコミでは1940年代末からロマンス・コミックスなるものがブームになりました。これは日本のレディコミほどエロくはないものの、ドロドロの恋愛模様を描いたマンガで、読者の多くが少女たちだったといわれています。

 冒頭に挙げたマット・ベイカーは、そのロマンス・コミックスの中でもダントツにうまいアーティストだった、という流れですね。

 で、これらの文章を書くにあたって最近読んだ(というか眺めた)本のご紹介。

●Trina Robbins 『From Girls to Grrrlz: A History of ♀ Comics from Teens to Zines 』(1999年Chronicle Books)

From Girls to Grrrlz: A History of Female Comics from Teens to Zines

 トリナ・ロビンスは京都マンガミュージアム「コミックスを描く女性たち アメリカの女性アーティストたちの100年」展(2009年)の監修をしてたかた。この本はアメリカの少女マンガ史について体系的に書かれたほぼ唯一の本だと思います。

 図版が多くて書体もポップでたいへん楽しい本です。それでいて書いてあることはなかなか深い、というかわたしの知らないことばっかりでした。

●『The Best of Archie Comics 』(2011年Archie Comics)

The Best of Archie Comics

 17歳の高校生アーチーと彼の友人たちの恋愛模様をからめたドタバタコメディが「アーチー・コミックス」です。この作品こそアメリカの少女マンガの祖とされています。始まったのが1941年。

 アーチーのご近所に住む少年を主人公にしたシリーズや、アーチー本人とは無関係だけどアーチーのタッチで描かれた類似作品、これらもすべてアーチー・コミックスと呼ばれますので、「アーチー」といえば膨大な作品群になります。

 このベスト版シリーズは続編がつぎつぎと刊行されてて、キンドルでも読めますのでお手軽。

●Arnold Drake/Leslie Waller/Matt Baker 『It Rhymes with Lust 』(2007年Dark Horse Comics)

It Rhymes With Lust

 原著は1950年。アメリカ地方都市の「色と欲との二人連れ」の権力闘争をモノクロで描いたマンガで、出版したときは「ピクチャー・ノベル」を喧伝されました。「グラフィック・ノベル」に先行すること30年、日本の「劇画」よりも早く成立した作品で、その先進性によって2007年に復刻された作品です。

 絵を担当したのがマット・ベイカーで、当時流行していたロマンス・コミックスのマンガ家の中でも色っぽい女性を描くことで知られていたトップ・アーティストでした。当時まだ珍しかった黒人マンガ家で、早世したので長く忘れられた作家となっていましたが、最近になって復刻や研究書が発行されてます。

●Jim Amash/Eric Nolen-Weathington 『Matt Baker: The Art of Glamour 』(2012年TwoMorrows Publishing)

Matt Baker: The Art of Glamour

 マット・ベイカーの研究書。ご本人はそうとう昔に亡くなっているので、彼に言及した文章の再録とか、関係者インタビューとか、さらに全作品解題まで、かなりマニアックな本です。コミックスの再録が多くて楽しい。

●Matt Baker 『The Lost Art of Matt Baker Vol. 1: The Complete Canteen Kate 』(2013年Lost Art Books)

The Lost Art of Matt Baker Vol. 1: The Complete Canteen Kate

 マット・ベイカーの作品「キャンティーン・ケイト」の復刻版。Canteen=酒保というのは軍隊における食堂、酒場みたいなところ。

 朝鮮戦争中、韓国にあるアメリカ軍キャンプの酒保で働くケイトというオッパイの大きなおねえちゃんを主人公にしたマンガ。いわゆる軍隊喜劇 Military Comedy です。

 おバカな作品ですが、掲載されていたのは「FIGHTIN' MARINES 」という朝鮮戦争を舞台にした戦争アクションマンガ雑誌です。想定してた読者層はやっぱり米兵かな。

●Joe Simon/Jack Kirby 『Young Romance: The Best of Simon & Kirby's Romance Comics 』(2012年Fantagraphic Books)

Young Romance: The Best of Simon & Kirby's Romance Comics

 ジョー・サイモンとジャック・カービィのコンビは、キャプテン・アメリカなどのスーパーヒーロー・キャラクターを創造したことで知られてますが、じつは最初のロマンス・コミックスとなる雑誌「ヤング・ロマンス」を作ったのもこのふたりです。

 本書はその復刻版。ジョー・サイモンの書くドロドロ恋愛模様が、その後全米で大流行するロマンス・コミックスの方向性を決定づけました。ジャック・カービィの絵は同時代アーティストに比べてもさすが、というデキですが、初期はウエスト細すぎるし尻も小さすぎ。

●Michael Barson 『Agonizing Love: The Golden Era of Romance Comics 』(2011年Harper Design)

Agonizing Love: The Golden Era of Romance Comics

 これはいろんな雑誌からの復刻マンガ・アンソロジー。恋愛マンガではありますが、西部劇あり、戦争ものあり、スパイものあり。純愛、裏切り、悲恋、オンナの戦い、涙、そしてキス。読んでると何かこう脳が溶けそうになってきて、中毒性あるったら。

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December 25, 2013

劇場型投票

 ジャンプのマンガを例に挙げますと。

 一般人の投票による「ダ・ヴィンチ」のマンガランキングでは、週刊少年ジャンプ、あるいは少年ジャンプ系のマンガ(ヤンジャン除く)は、『ワンピース』『暗殺教室』『銀魂』『黒子のバスケ』『ナルト』『ハイキュー!!』『ジョジョリオン』『こち亀』『スケット・ダンス』『トリコ』とまあ、50作中10作も選ばれてます。

 これがジャンプの実力、なのでしょう。有効回答数4619通、1ジャンルにつき3作までの投票が可(小説なども含みますのでマンガだけの投票が何通かは不明)という大規模アンケートですね。

 これに対して発売中の「オトナファミ」2014年2月号では、全国書店3000店のアンケート(1店3作)によるマンガランキングを実施してます。これによると、少年ジャンプ系のマンガは『ワンパンマン』『暗殺教室』『食戟のソーマ』『ハイキュー!!』『ガンマ』と、50作中5作。

 大規模アンケートによるベストテンなのにこの違いは何。挙げられている作品そのものが違います。これこそ読者と書店員の知識と好みの差ですが、立場の差もあるはず。

 読者のほうが挙げるのは買ったマンガ、読んだマンガですが、書店員が挙げるのは売りたいマンガ、売れつつあるマンガ。そのぶん、ブックガイドという側面が強くなるわけですね。

 転じて『このマンガがすごい!2014』では、少年ジャンプ系のマンガは、オトコ編20作中2作、『暗殺教室』と『ワンパンマン』だけになります。これが多いか少ないか。

 「ダ・ヴィンチ」や「オトナファミ」の記事は記名投票とはいえ、雑誌にすべての投票者の投票行動が載るわけではないので匿名であるともいえます。ところが『このマンガがすごい!』のような本になると、投票者がどういう作品に票を投じたのかがすべて明らかにされます。これは投票者にとって、全世界への自分の意思表明となります。当然それは観客を意識した「劇場型」の投票行動というべきものになるんじゃないかな。

 選者となるひとは自分が期待されてる役割を演じようとする。『このマンガがすごい!』なら、劇画狼さんなんかがそう。トンデモエロ劇画が専門の劇画狼さんが、ジャンプ系作品を挙げるとは誰も思っていないし、実際にそうはならないでしょ。もちろん自分の好みや見識が最初にあるのですが、そういう「劇場型」の側面はきっとあるはず、だと思うのですよ。

 いやいや、人の話にしてはいけませんね。わたし自身が、この劇場型投票をしている。でもって、わたしもアンケートに参加させていただいた「フリースタイル」の「このマンガを読め!」が発売されました。じつをいいますと、前号が出たのが11月末だったので、この号が年内に発売されるとは思ってなかった。

「フリースタイル」になりますと、少年ジャンプ系はベスト50作中1作、『暗殺教室』のみとなります。その他の結果も他誌のベストテンとはひと味違った結果となっております。これもケレンたっぷりに選んだ結果です。読んでやってください。

●「フリースタイル」25号「特集:THE BEST MANGA 2014 このマンガを読め!」(2013年フリースタイル、888円+税、amazon
●『このマンガがすごい! 2014』(2013年宝島社、500円+税、amazon
●「オトナファミ」2014年2月号(2013年KADOKAWA、657円+税、amazon
●「ダ・ヴィンチ」2014年1月号(2013年KADOKAWA、562円+税、amazon

 あ。今年からダ・ヴィンチもオトナファミもKADOKAWAの雑誌になってる!

フリースタイル 25 特集:THE BEST MANGA 2014 このマンガを読め! このマンガがすごい! 2014 オトナファミ 2014年 2月号 [雑誌]

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December 22, 2013

この『ビフォア・ウォッチメン』がすごい!

 オールタイムベスト級のアメコミとして知られている、アラン・ムーア/デイブ・ギボンズ『ウォッチメン』(1984年)。2009年に映画化されたときに日本で復刊されたものが入手可能ですから、読んでないひとはぜひ読みなさい読むべきです読んでないひとは人生を損してます。

●アラン・ムーア/デイブ・ギボンズ『ウォッチメン』(石川裕人/秋友克也/沖恭一郎/海法紀光訳、2009年小学館集英社プロダクション、3400円+税、amazon

WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)

 登場するスーパーヒーローたちはスーパーマンやバットマンじゃなくて、この作品だけに登場するオリジナルキャラクターです。こいつらがキャラ立ちまくりの連中で、だれだって二次創作したくなります。

 これらのキャラクターを使用して、DCが30年ぶりに出した続編、じゃなくて前日譚が『ビフォア・ウォッチメン』シリーズです。あちらの出版社は気が長いしキャラクターの寿命も長いなあ。

 今回の『ビフォア・ウォッチメン』は全部で9シリーズあってそのうちのふたつを収録した第一弾がこれ。

●ブライアン・アザレロ/J.G.ジョーンズ/リー・ベルメホ 『ビフォア・ウォッチメン:コメディアン/ロールシャッハ』(秋友克也/石川裕人訳、2013年ヴィレッジブックス、2500円+税、amazon

ビフォア・ウォッチメン:コメディアン/ロールシャッハ (DC COMICS)

 タイトルとなってるコメディアンとロールシャッハはそれぞれヒーローの名前です。ふたりとも超常能力を持っているわけではなく、体力にすぐれた普通の人間。ただしこいつら、精神を病んでるヒーローという困った存在なのです。

 コメディアンのほうは、「ヒーロー全体の汚点」と呼ばれるような人物です。「彼ほど徹底して道徳を無視する男は見たことがない」「底なしの狂気、無意味な殺戮… 彼はそれらを心から享受している…」

 ロールシャッハの素顔はブサイクな小男ですが、不屈の闘志と鋼鉄の意思を持つ男。つねに「自分の」正義をつらぬきとおす彼は、ウォッチメンの世界観の代弁者みたいなものです。

 このふたりが登場する二作が収録された『ビフォア・ウォッチメン:コメディアン/ロールシャッハ』ですが、いやーおもしろかった。アメリカアマゾンのカスタマーレビューでは賛否入り乱れてますが、伝説の名作の二次創作だからこれはしょうがないか。わたしは大好き。

「コメディアン」で描かれるのは1962年から1968年まで。ケネディ家と親交があるコメディアンが、アメリカ現代史の暗部を駆け抜けます。オープニングでマリリン・モンローが登場したところでまずびっくり。

 コメディアンは国家公認のヒーローとしてベトナム戦争に参加し、ソンミ村虐殺事件にも関係します。もともと極悪なコメディアンがベトナム戦争を経験したことでさらにどのように変貌し、ラストシーンをむかえるか。

 コメディアンそのものがアメリカ社会の暗喩ですが、キャラクターとしてはキャプテン・アメリカの鏡像、闇の部分を表現してます。『ウォッチメン』ではそれほど感じませんでしたが、『ビフォア・ウォッチメン』でコメディアンが戦争の最前線で戦ってるのを見ると、DCのコミックスですがやっぱ思い浮かべるのはマーベルのキャプテン・アメリカ。

 本来、正義の味方であるスーパーヒーローが戦争に荷担するとどうなるか。「正義」の戦争であった第二次大戦までは問題なかったとして、それ以後の、正義かどうかよくわかんなくなってしまった戦争ではどうなのか。本作のテーマは古くて新しいものです。

「ロールシャッハ」は1977年のニューヨークが舞台。当時のニューヨークは治安が荒れに荒れていた時代で、映画「タクシー・ドライバー」の世界ですな。本作にもかのトラヴィス君が登場します。

 連続猟奇殺人の犯人を追ううちに、ベトナム帰還兵たちからなるギャングに狙われることになったロールシャッハ。彼がニューヨークの底辺をさまよっているとき、ニューヨーク大停電がおこる……!?

 リー・ベルメホのアートワークは紙面からどぶの匂いがただよってくるよう。『ジョーカー』でもすごかったけど、本作も絶品。

 『ビフォア・ウォッチメン』のシリーズ邦訳は今後三冊は続いてくれるはず。楽しみに待たせていただきます。

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December 12, 2013

『このマンガがすごい! 2014』補遺

●『このマンガがすごい! 2014』(2013年宝島社、500円+税、amazon

このマンガがすごい! 2014

 前回のエントリでオンナ編1位にちょっと難癖をつけてしまいましたところ、『さよならソルシエ』の雑誌連載は、2013年8月28日発売の「flowers」10月号で完結しとったやないかーい、とコメントをいただきました。

 ごもっともでございます。となりますと、各選者のかたがたが雑誌での完結を知ったうえで投票されたかどうか、ですね。というわけではないのですが、選者のコメントを細かく読んでました。

 みなさん、いろんな作品を挙げられてますねー。白山宣之『地上の記憶』に票がはいってるのに驚いた。ドリヤス工場けっこう人気。村上もとか『フイチン再見』はまだ1巻しか発売されてないのに、票が集まりすぎじゃないか。それにしても、こうの史代『ぼおるぺん古事記』をオンナ編に分類するのはどうなのか。

 さて今年の「このマンガがすごい!」のシステムは各選者が5作品を挙げ、1位10点、2位9点、以下同様に5位が6点。さらにオトコ編の選者もオンナ編に一票を投じることができ、これは5点という設定です。その他に各界の選者が同様の点数で投票してます。

『さよならソルシエ』の総得票は86点。うちわけは以下のとおり。

●あの人(各界有名人)が選ぶ:なし
●雑誌編集部が選ぶ:なし
●大学漫研が選ぶ:なし
●マンガ家のタマゴが選ぶ:なし
●Under-18が選ぶ:なし

●書店員が選ぶ:22店舗中4店舗が投票。計34点。

○喜久屋書店(3位8点):続きがとても気になる。
○とらのあな(1位10点):芸術が特権階級だけのものだった時代におけるゴッホ兄弟を中心とした物語。ゴッホ兄弟の距離感が魅力的な、男性にも文句なしにオススメできる作品です。
○星野書店(2位9点):弟の葛藤がたまらんです。
○宮脇書店(4位7点):コメントなし。

●各界のマンガ好きが選ぶ:オトコ編選者49名中1人、オンナ編選者43名中5人が投票。計52点。

○宇都宮崇史(5点):コメントなし。
○オオタシンイチ(2位9点):まとめることに腐心しすぎた(2)の後半にやや抵抗を感じたが、さすがのラスト。
○藤本由香里(2位9点):開幕の、瞠目するほどの鮮やかさ! これが新人とは。
○ミソノ(1位10点):「ハラハラ」と「じんわり」が詰まった物語。テオの美青年ぶりに胸をわしづかみされる。
○もみちゃん(2位9点):今年の顔の作品。
○鷲谷智慧(1位10点):昨年のランキング結果から、すっかり穂積先生のファンとなりました。こんな少女マンガ見たことありません!

 本作に投票したひとが少ないと感じられるかもしれませんが、毎年、トップの得票率はこんなものです。上位に投票するひとが多いかどうかで順位がころころ変わるのが、こういう限られた選者によるベストテンの楽しいところでもあります。オトコ編1位の『暗殺教室』に投票したひとだって、書店22店舗中3店舗、オトコ編選者49名中8人ですからね。

 『さよならソルシエ』については、はっきりとラストまで読んで投票してるとわかるのはひとりだけ。これは1巻だけしか読んでないとはっきりしてるのもひとりだけ。でもううーん、やっぱみんなラストまで読んで投票してるわけじゃなさそうだなあ。

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December 10, 2013

年末ベストテンは賞なのかブックガイドなのか

 マンガ読者にとって年末のお楽しみ、今年もベストテンの時期です。まずは『このマンガがすごい』と「ダ・ヴィンチ」1月号が発売されました。

●『このマンガがすごい! 2014』(2013年宝島社、500円+税、amazon
●「ダ・ヴィンチ」2014年1月号(2013年KADOKAWA、562円+税、amazon

このマンガがすごい! 2014

 あらダ・ヴィンチの書影がない。ジャニーズが表紙のせい?

 この時期になるといつも思うのですが、マンガの年間ベストテンってむずかしいですよね。

 映画やミステリのベストテンならいいんですよ。作品としてきちんと完結しているものを評するんだから。でもマンガは連載したものをつぎつぎと単行本化したものを対象にしてます。しかもその連載が数年、十数年以上持続することもあり得る。これを評価するってのは、そうとうに無理なことをしてます。

 つまり映画やミステリのベストテンの評者は、これは十年に一度の傑作だと思うぞすごいぞおまえら見ろよ読めよ、とオススメしているわけです。つまり作品を顕彰するつもりで、賞のつもりで選んでいる(と思います。聞いたわけじゃないけど)。

 これはその年だけ、一期一会の作品だからこそ成り立つお話です。ところがこれをマンガでやるとどうなるか。初年度にある傑作を推すとするでしょ。翌年この作品はまだ連載中。十年に一度の傑作なんだから翌年もこの作品を推す。さらに翌年もその翌年も、十年に一度の傑作なんだからこれを推し続ける。

 こうなりますと、一年に一回発行されるあずまきよひこ『よつばと!』や井上雄彦『リアル』がずっとトップをとり続ける、みたいなことになってしまう。実際にはそうはなりませんが。

 これはちょっとまずいかな、と考えた選者はどうするか。ベストと思う作品を推すのじゃなくて、ちょっと気になる新作を推す、ということになります。ここ一年のうちに連載が開始された作品を挙げておけば、少なくとも昨年とカブることはない。

 さすがに有効回答数4619通の「ダ・ヴィンチ」読者はそういうことは斟酌してません。今年もあのビッグヒット作品が第一位でした。でも『このマンガがすごい!』選者はきっとそんなふうに考えてるのじゃないかな。

 かくして、ここ数年の『このマンガがすごい』の上位作品は、発行直前の一年間に連載が開始された、あるいは単行本1巻が発売された作品がずらっと並ぶことになりました。一巻完結ばかりだと楽なんですけどね。ベストテンは作品を顕彰する賞の意味合いはすでになく、おもしろそうだから読んでみようよ、というくらいになってる? 

 ブックガイドとしてはここ一年に連載開始された新しい作品が並んでるこちらのほうが良いのかもしれませんが、それはそれで数年前に始まった作品が無視されちゃうんで、これも痛いところだよなあ。

 これがさらに進行しますと、まだ一巻しか発売されてなくって先の展開はぜんぜんわからないけど、とりあえず先物買いで推し! ということもあるかもしれない。

 このあたりルールがあるわけではないので、すべては選者にまかされています。一巻しか発売されていないのを挙げるのも見識、挙げないのも見識です。おそらく選者は、賞のつもりとブックガイドのつもりと半々の気分で選んでるのじゃないでしょうか。まあ年に一度のお祭りですからね。かたいことはなしということで。

 で、そういう目で本年の『このマンガがすごい!』を読んでみますと、オトコ編オンナ編の一位ぐらいは書影に出てるからバラしてもいいでしょう、松井優征『暗殺教室』と穂積『さよならソルシエ』でした。おめでとうございます。やっぱ上位作品はここ一年に始まった作品が多いですね。

 ただし、ただひとつ難癖をつけるなら。

『さよならソルシエ』って全二巻で完結しましたが、昨年の『式の前日』の表題作みたいに、ある種の落とし話というか、オチのある良くできた短編小説というか、短編ミステリみたいな話じゃないですか。わたしも好きですよ。

 でもこの二巻、発売されたのが2013年11月8日です。『このマンガがすごい!』の締め切りはけっこう早くて、対象となる単行本の発売日は2013年9月30日まで。

 つまり『さよならソルシエ』を推したひとたちは、よくできた短編小説のような本作を推したわけじゃなくて、前半部分の、何かよくわからんけどおもしろそうという導入部を推してるわけです。

 それは作品の本質的な部分を評価してないんじゃないか。それでいいのか? ううーんマンガベストテンにまつわる悩みはつきない。いや悩んでもどうなるわけではないのですが。

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December 03, 2013

ホラーというか何というか『アリスの家』

 ほんとに出ちゃった三条友美ホラー短篇集、第二弾。

●三条友美『アリスの家』(2013年おおかみ書房、税込み1375円、通販サイト

Alicenoie

 出版元からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 第一弾『寄生少女』についてわたしが書いた記事がこちら。→●漫棚通信ブログ版:ホラーはなんでもあり『寄生少女』

 プロマンガ家が雑誌に掲載したものの、単行本化されない作品というのはいっぱいあるでしょう。それを個人制作の同人誌で1000部つくって、しかも売ってしまおう。しかも電子出版じゃなくて、あくまで紙の本にこだわって。本書も造本のクオリティむちゃ高いです。

 この一見時代に逆行しているかのような試み。第一弾は千部完売で、みごとに成功したそうです。で、第二弾が本書です。何かこう個人出版として意義があるというか肝がすわってるというか。これってちょっとステキな話じゃないですか。

 しかし作品そのものはあまりステキじゃない。なんせ三条友美ですから。今回も「どうかしてる」作品ばかりです。

 とりあえず、通販サイトで内容の一部をご覧ください。

 えー、まー、ホラーというか何というか。少女がいて、彼女の精神や肉体がムチャでスプラッタなことになる。でもってスーパーナチュラルなオチがあると。ともかくスーパーナチュラルにしておけば、あとは何があってもオッケーなわけです。

 三条友美の絵を文章で描写するのもあれですので、擬音だけでも。「サクッ」「ピュウ~」「ズズ」「ゴボゴボ」「ヌポッ」「グチャッグヂャ」「キキッキリギリギリ」 人体破壊と人体改造の極ですが、登場人物たちの精神のほうがもっと心配。掲載誌の「ホラーM」って本来、少女向けのホラー誌じゃなかったっけ。

 こういう作品はぜひ千部きちんと売れてほしいです。出版元の「なめくじ長屋奇考録」にもリンクしておきますね。

 あなたが好きじゃない作品でも、その存在は許してほしい。それが健全な社会だと思うのですよ。

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