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November 14, 2013

「セデック・バレ」原作マンガ『霧社事件』

 霧社事件をご存じでしょうか。霧社は台湾の中央部に位置する地名。霧社事件は、日本統治時代の1930年におこった大規模な抗日暴動事件です。武装した台湾先住民により日本人136人が殺害され、その後日本軍や警察の鎮圧作戦により、壮絶な戦いの結果、最終的に先住民1000人が死亡するという経過をたどりました。

 くわしくはWikipediaなどを見ていただくとして、この事件が2011年に台湾で映画化され、日本でも本年公開されました。今はレンタルショップにもDVDが並んでますね。タイトルは「セデック・バレ」。台湾では大ヒットして各国映画祭にも出品されています。製作にはジョン・ウーの名がありますし、日本からも俳優やスタッフが参加してます。→(映画公式サイト

 監督/脚本のウェイ・ダーションは、霧社事件を扱った一冊のマンガとの出会いがこの映画を作ることになったと語っています。それじゃそれはどんなマンガなのか。じつはこの本、かなり以前に邦訳されているのです。

●邱若龍(チョーローロン)『霧社事件 台湾先住民(タイヤル族)、日本軍への魂の闘い』(江淑秀/柳本通彦訳、1993年現代書館、1700円+税、amazon

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 原著の台湾での出版は1990年。著者は1965年生まれですから25歳のときの作品。ふらふら放浪しているときに霧社の原住民の家に居候することになり、その後五年間くりかえし霧社に通って本書を描き上げたそうです。モノクロ250ページ超の長編。日本マンガと同じく右から左に読み進む右開きです。

 わたしだけじゃなくて、みんな日治時代の台湾についてよく知らないのじゃないかしら。わたしも映画「非情城市」くらいの知識しかありません。ですから本書を読むと知らないことばかり。

 日清戦争終了後、1985年の下関条約によって台湾は清朝から日本に譲渡されました。以後台湾の日本統治が始まるのですが、台湾人の抵抗は激しく、初期の8年間で殺害されたのは当時の人口の1%、3万2000人に及ぶと。

 霧社事件直前の1930年には武力のよる鎮圧は終了していましたが、反乱計画が発覚したり小規模な衝突はくり返しおこっていました。先住民族の多くが、父や兄を日本軍との戦いでなくしているという状況でした。

 いっぽうで先住民族であるタイヤル族の文化はかなり特殊。【映画ではセデック族となっていますが、本書が描かれたころはセデック(セイダッカ)族はタイヤル族の支族と考えられており、タイヤル族という総称が使われています】

 彼らは、山岳に住み、狩猟と農耕で自然とともに生きています。そしてなんといっても入れ墨と首狩りのひと。

 男子も女子も、資格を得て入れ墨をいれてやっと一人前と扱われる。女子ならうまく機織りができること。男子の場合、敵の首を狩って持ち帰ることでその資格を得ることができる。

 この場合、敵とは同じ山岳に住む他の民族、あるいは他の集落の男です。このように台湾先住民には20世紀になっても首狩りの文化が残っていたのです。自然とともに暮らす戦いを恐れぬ誇り高きひとびと。

 このような状況で、お話は統治する日本警官と、支配されるタイヤル族との軋轢をこまごまと描いていきます。労役監督者の暴力、農産物販売での搾取、同化政策としての日本人巡査とタイヤル族女性の結婚、さらに女性への強姦など。強大な軍事力を背景にする日本に対し、タイヤル族ががまんにがまんを重ねる描写が総ページの半分まで。

 そしてついに複数の集落が協力して武装蜂起、霧社事件がおこります。運動会を舞台にした大虐殺。首狩りの文化があるところでの戦いですから描写はスプラッタ。

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(クリックで拡大)

 思いうかぶのはいろんな娯楽作品の構図です。良いヤクザ対悪い暴力団。そして、耐えに耐えてついに殴り込み。というより、自然と共に生きる良いインディアン対悪い白人。アパッチ対第七騎兵隊。

 つまり、悲惨で苛烈な歴史を前にして申し訳ないのですが、娯楽作品としてのカタルシスがある。しかしここは日本人が悪役なのですから、日本人読者としてはずいぶん複雑な気持ちになります。

 後半は、日本軍や警察による鎮圧作戦になりますが、史実を追うのにいそがしく、キャプションの文字が多くなって、マンガ的にはもうひとつ。マンガの描写がぶつ切りになってますね。

 ただし事件の経過はさらに重い。日本軍は蜂起しなかった親日の山岳民族を戦闘に参加させ「蕃人をもって蕃人をうつ」作戦をとります。台湾人同士の争いは新たな遺恨を生むことになります。

 タイヤル族の抵抗は頑強で、日本軍と警察は大砲、航空機、毒ガスまで使用、鎮圧まで50日を要しました。蜂起したタイヤル族の多くが殺害され、あるいは自害し、さらに投降後にも殺害され、その人数は1000人におよびました。

 マンガとしてはかなり未熟なところが多いですが、事実の重みもあってたしかにひとの心をゆさぶるチカラを持っている作品です。映画になるのも納得できる。

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Comments

本屋でなかなか見つかりません。

Posted by: 紙屋研究所 | November 18, 2013 at 06:19 AM

>本屋でなかなか見つかりません。
学習マンガみたいなモノですから、多くの図書館で収蔵してると思います。

Posted by: 漫棚通信 | November 18, 2013 at 11:56 AM

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