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November 05, 2013

『湯けむりスナイパー』最終巻?

 本年二月、実業之日本社「漫画サンデー」が2013/3/5号で休刊したとき、『湯けむりスナイパー』も最終回を迎えました。わたし、雑誌でその最終回は読んでたのですが、年末にあたり今年発売されたマンガを再チェックしていて、夏の終わりに出た単行本を買いのがしていたことに気づいてしまいました。

●松森正/ひじかた憂峰『湯けむりスナイパー Part 3』3巻(2013年実業之日本社、619円+税、amazon

湯けむりスナイパーPART3 (3) (マンサンコミックス)

 連載開始が1998年秋ですから15年前。短期間の連載で1998年末にはいったん終了しましたが、人気があったのでしょう、すぐに1999年春から連載再開。これが長期連載となり、第一部終了が2004年で全16巻。第二部が2005年から2006年で全2巻。第三部が2007年から2013年。第三部も長期連載となりましたが月イチ連載だったので、単行本としては全3巻です。

「湯けむりスナイパー」は2009年からTVドラマ化されたことでその寿命が延びたように感じてましたが、こうして連載期間と見比べてみますと、まったく違うのですね。作品自体のチカラが連載を延長させたのです。

 主人公、源さんは引退した殺し屋。東北の山奥に存在するであろう、秘境の温泉宿・椿屋の従業員としてひっそりと生活しています。湯治客としてやってくる悪人たちを、源さんが元・殺し屋の能力を駆使して懲らしめる……ようなお話ではまったくありません。

 いや、そういう要素も少しはあるのですが、基本的に源さん、何もしません。というか、温泉宿の従業員としの行為以外、何もしないことが多い。彼の前にはいろんな客が現れますが、源さんは従業員として彼らをもてなし、彼らの人間性を観察しているだけなのです。

 源さんは独特の価値観、美意識を持って生きています。権力と群れるのが嫌いですが、人間の欲望は基本あるがままに肯定する。

 細かく描写されるのは、温泉街や山に住む住人たち。全員が過去を持ったはぐれ者。元ストリッパー、山にこもってマツタケを採ることだけで社会と接する男、海の家を経営するシングルマザー、ヤクザな兄を持って苦労しながら自分も老境に入った番頭さん、などなど。彼らと源さんのつかず離れずの交流が、15年かけて描かれたのですね。

 本作は劇的なストーリー展開があるわけではなく、はぐれ者たちのキャラクターや人間関係を見せる作品。ひじかた憂峰=狩撫麻礼作品はこのパターンが多いのですが、本作では徹底しています。これを支えたのが、松森正の美麗な絵。彼の絵があってこそ、キャラクターに命が吹き込まれました。それにしても源さんのような下ぶくれの顔を持った主人公は、空前のマンガキャラデザインでしょう。

 15年かけて永劫回帰のストーリー展開をくり返してきた本作ですが、掲載誌の休刊という事態を受けて、最終巻ではついに人間関係に変化が起きます。源さん、ついに元ストリッパーのトモヨさんと結婚しちゃったんですね。

 トモヨさんの初登場が第一部の3巻。ジャージ姿で酔っぱらってる太った「醜い」中年女として登場しますが、プロとして女体盛りのお仕事をきちんとこなす。この時点で彼女が全編のヒロインになろうとは、作者を含めて誰も想像しなかったはず。最終回は源さんとトモヨさんの東京でのデートですよ。

 15年間、楽しませていただきました。ありがとう。しかし希有なキャラクターマンガですから、ひょっこりどこかで再開しちゃいそうな気もしますね。

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