絵物語の復活:小松崎茂『宇宙少年隊』
「絵物語」とは何か。定義するとなかなか面倒ですね。「挿し絵の多い子ども向け小説」とするとラノベになってしまいますから、「ラノベよりもっと挿し絵の多い子ども向け小説」でどうだ。これじゃわかんないかな。
戦前には「誌上紙芝居」と呼ばれました。挿し絵のないラノベは存在し得ますが、絵のない絵物語はありえません。その意味ではマンガに近い。
「絵と文章が同比率で進行する物語形式。写実的な絵が多く、単色以外に二色印刷や三色印刷を特徴とした」というのはどうか。
代表的な作家に山川惣治や小松崎茂がいます。戦後すぐにはマンガよりも人気があって、各月刊雑誌が看板作品をかかえていました。人気のピークは1955年ごろまでで、以後マンガにその座をゆずることになります。
実際のところ、失われた、忘れられたメディアであり、たとえばネット上で絵物語についてまとまった文章を読もうとしても、こちらのサイトぐらいしかありません。
●「山川惣治と絵物語の世界」(なぜかウチのExplorerでは文字化けするのですが、Firefoxなら読めました)
わたしも、絵物語はそれを紹介する本で「眺める」ことはあっても「読む」ことはあまりなかった。子どものころにきちんと読んだのは、永松健夫『黄金バット』、山川惣治『少年王者』『太陽の子サンナイン』、小松崎茂『大平原児』くらいかなあ。すべて連載中のリアルタイムでは知らない作品です。あと1984年、角川映画で『少年ケニヤ』がアニメ化されたとき、角川文庫『少年ケニヤ』が出版されてかなり評判になりました。最近なら昨年、福島鉄次『沙漠の魔王』が復刻されたのはビッグニュースでした。
でもって、小松崎茂。
人気絵物語作家にして、プラモデルボックスアートの巨匠、さらに東宝特撮映画のメカデザイン担当として超有名ですね。ただし画集とかで小松崎茂の絵を鑑賞することはできても、絵物語を「読む」のはちょっとむずかしかった。かつて2002年に代表作『地球SOS』が双葉社から復刻されましたが、これが唯一じゃないかな。
そこへ復刻されたのがこれです。
●小松崎茂『宇宙少年隊』(2013年復刊ドットコム、3300円+税、amazon)
出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。復刊ドットコムの該当ページはこちら→(※)。
小松崎茂の絵物語、五作品が連続して復刻される予定で、これがその第一弾。
B5判のソフトカバー100ページの本。月報つき。
ちょっとお高いですがすっごい凝った復刻でして、当時の少年誌そのままを再現してます。本文は単色、二色、三色カラーですが、雰囲気そのまま。ハシラ、アオリ、欄外の一行豆知識、さらに広告ページまでも当時のままです。紙質もそっくりに復元していて、当時の月刊誌カラーページのざらっとした手触り。
装幀、修復を担当したのは、ほうとうひろし氏で、印刷はデジタル復刻で有名な図書印刷。いやすっごいわ。
『宇宙少年隊』は光文社「少年」1957年1月号から12月号まで連載されました。作品としては、これこそ絵物語本来の魅力……というようなものではなくて、はっきりいって珍品です。
本来の絵物語は挿し絵のように、フキダシなし、擬音なし、を特徴としていましたが、本作品は絵物語末期の作品。フキダシあり、擬音あり、さらにコマとコマの間に状況説明文あり、というマンガと絵物語の折衷作品となっています。
前半はタコ形態の悪の宇宙人が地球を征服に来るお話。スターマンという名の正義の宇宙人が主人公たちを助けてくれます。後半はクラゲの大怪獣、ダイラをあやつって世界征服をねらう悪人のと戦い。
構成は破綻してるし、伏線は投げっぱなし。なぜまたシリーズの第一作にこの作品を選ぶかな。でも小松崎茂のレトロ・モダンともいえる絵はとてもステキです。
刊行予定の後続の作品、絵物語全盛期の『海底王国』や、黒赤緑の変則三色印刷や迫力の見開きを見せてくれる『大暗黒星』が楽しみ。現在忘れられつつある子ども文化史の空白を埋める貴重な資料でもあります。
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