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October 27, 2013

『闇の国々』日本語版完結!

 太平に眠る日本人読者の度肝を抜いた、黒船のようなBD『闇の国々』日本語版が全四巻で完結。

●ブノワ・ペータース/フランソワ・スクイテン『闇の国々』4巻(古永真一/原正人訳、2013年小学館集英社プロダクション、4000円+税、amazon

闇の国々 (ShoPro Books) 闇の国々II (ShoPro Books) 闇の国々III 闇の国々IV

 出版社からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 第1巻が邦訳されたのが2011年。本国で20年以上にわたって描き続けられてきたシリーズを、日本人読者はまる二年でイッキ読みできたわけで、うれしいような、もったいないような。

 ただし本国でのシリーズはまだ完結したわけじゃなくて、今後も以下続刊、だそうです。今後はわたしたちも数年単位で待つ覚悟が必要ですね。

 日本語版第4巻に収録されたのは「アルミリアへの道」「永遠の現在の記憶」「砂粒の理論」の三篇とその他の短編。

「アルミリアへの道」では、飛行船による北極探検行が描かれます。主人公となる少年フェルディナンと、都市の奇妙な工場で働く少年フリードリッヒのお話が交互に語られる。古典的な子ども向け冒険物語のように思ってたら、仕掛けがあってびっくりした。

 絵物語的な一枚絵で描かれた部分が多い作品で、奇想にあふれたスクイテンの絵を堪能できます。飛行船をはるか下に見おろす摩天楼ってちょっとすごいです。

「永遠の現在の記憶」は映画のために描かれたイメージボードがもとになっているそうです。えんえんと続く滅びゆく都市と廃墟のイメージが、現代の日本人にはきついかな。

「砂粒の理論」には、懐かしや、第1巻に収録された「傾いた少女」のヒロイン、メリー・フォン・ラッテンが再登場します(1巻書影イラストの少女と4巻書影イラストの女性が同一人物ね)。彼女は成長して怪奇現象研究家になってるのですが(!)、その彼女が、これも本シリーズではおなじみの大都市、ブリュゼルを破滅に導く怪事件にいどむ……!?

 という、諸星大二郎『怪奇ハンター』みたいなお話。長編ミステリとなっていて娯楽作品としてよくできてます。読みやすさはシリーズいちでしょう。

 で、この作品、二色で印刷されています。ページ全体にうすい緑(?)の色をつけて、オモ線は黒、でもって強調したいところだけを白抜きで色なしにするという。うわあ、なんてぜいたくな色の使い方なんだ。こういうのには日本マンガはとてもかないません。

『闇の国々』のようなBDに出会えたことは、日本人読者としてほんとに幸せでした。感謝感謝であります。

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Comments

重箱の隅をつつくようで、あいすみません。
諸星大二郎氏の著作は「妖怪ハンター」。
でも初期の少年ジャンプの担当編集者がつけたタイトルで、本人は気に入らなくて後の単行本などでは使われていません。
なんだか懐かしい。

閑話休題。

NHKの「探検バクモン」で爆笑問題がスタジオ・ジブリを訪問。鈴木Pや高畑監督(11月に14年ぶりに新作発表)に話を聞いていました。

高畑氏はルネッサンス以前の西洋絵画が一枚の「絵」としてきっちり構成された「動き」の要素がほとんどないものであるのに対して、日本の中世ごろの絵巻物は「蛙が兎と相撲して投げ飛ばした瞬間」とか「人が馬から落ちて尻餅をついた瞬間」とか「なぎなたの真ん中を持って振り回しているところ(回転する動線つき)」など「動き」を表現する欲求があり、江戸期の浮世絵にも続いている、この視点はアニメーション的な視点だ、と話していました。

振り返って「闇の国々」。
著者まえがきで古典的な画風で描いている、とあるように動きのほとんど無い画面構成。
しかし全てのBDが「動きがない」訳ではないのは、漫棚さんのこれまでの紹介にあるとおり。

でも私的には動きのない「闇の国々」は大変読みにくい。説明的で冗長な台詞を全て読まないとストーリーが理解できないし、それでは、テキスト全依存なのかというと、デッサンのきっちりした「西洋絵画」があれこれと訴えかけてくる。日本の読者的にはユーザーフレンドリーじゃなくて、大変に疲れます。

現在の日本漫画にも「動きの欲求」はあって「進撃の巨人」の場面構成は非常にアニメ的だと思います。あのスピード感や疾走感は、「立体機動装置」が実際にあったとしてもありえないものです。腰からアンカーを遠方に打ち込んで巻き取りながら振り子運動で進むので、基本的に位置エネルギー⇒運動エネルギー⇒位置エネルギーの繰り返しですからサーカスの空中ブランコみたいなもので、そんなに速くはないでしょう。
しかし、あのスピード感や疾走感は作品の大きな魅力になっています。作品世界のモチーフのひとつが「小よく大を制す」なので、やはり速度感が大事です。

速度感といえば、手塚治虫の初期作品。
日本中の漫画少年・青年を一読にして虜にしたというスポーツ・カーの疾走シーン。
なんと日本初のテレビ・アニメ「鉄腕アトム」第一回の冒頭で、アニメーションとして再現されていました。リミテッド・アニメとして「動かない」ことで有名なこの作品ですが、視聴者のアイ・キャッチとして、トビオ少年の乗るスポーツ・カーが冒頭から動く動く。

とりとめのない長文で失礼しました。

Posted by: トロ~ロ | October 28, 2013 10:42 PM

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