水木しげるのアメコミ『ロケットマン』と『プラスチックマン』
今では手塚治虫『新寶島』や漫画少年版『ジャングル大帝』を普通に読めてしまうわけで、こういう時代がほんとに来るとは思わなかった。一般的なマンガ読者にとっては、これらの有名でかつ半ば封印された作品は読みたくても読めなかった時期があまりに長くて、実際のところあきらめてましたからね。
で、水木しげる。
デビュー作の貸本マンガ『ロケットマン』(1958年)や同年の『プラスチックマン』がアメコミを下敷きにしているのは有名で、とくにこの二作は読んでみたいと思ってました。ただし過去の復刻は少部数で入手困難。2010年には小学館クリエイティブが『ロケットマン』を一般書籍として復刻、これは現在でも入手可能ですが、4200円+税とちょっとお高い本でした。
そこへ今回の「水木しげる漫画大全集」の刊行開始。今月はついに出た。
●『水木しげる漫画大全集 貸本漫画集(1)ロケットマン他』(2013年講談社、2100円+税、amazon)
ソフトカバーですが、書影やカラーページもそのまま復刻されてます。「セリフや文章も初出時のまま」というのが売りなのですが、文字部分は新しく作成されてて誤字や語句の訂正はしてあるみたいなので、マンガ研究に利用するのは注意が必要か。
収録されてるのは『ロケットマン』『プラスチックマン』以外に『ベビーZシリーズ 水人間現る』『赤電話』などなど。とくに『赤電話』は他の作家が途中まで描いた作品に水木しげるが手を入れて完成させたという珍品です。
さて貸本デビュー作『ロケットマン』。そうか、これが鬼太郎「大海獣」のプロトタイプだったか。(水木しげる+ロケットマンの画像検索結果→※)
対立する正義のウエット博士と悪のドライ博士。天空に現れた第二の月にロケットで調査に向かったウエット博士は、ドライ博士の計略で地球に戻れなくなってしまう。さらにウエット博士は謎の宇宙生物に寄生され、巨大で奇怪な怪獣「グラヤ」の姿となり太平洋に無人島に隠れ住む。しかしグラヤは発見され、日本国首相となったドライ博士ひきいる海上自衛隊との大決戦が……!?
巨大ロボット対巨大怪獣の戦い、というパシフィック・リムみたいなところもある作品で、じつにおもしろい。ただしタイトルとなってるロケットマン、こいつがいつまでたっても出てこない。と思ったら、ラスト近くになってやっと登場。
加太こうじの描いた書影イラストでは胸が「R」のマークになってますが、水木しげるの手になるマンガ部分では「S」のマークで、まるっきりスーパーマン。はさみこまれた月報の「解題」には「これはスーパーマンをモデルにしたものと思われ」などと遠回しな書き方をしてますが、スーパーマン以外のなにものでもありません。
南海の孤島で悪役ドライ博士の前に姿を現したスーパーマン。
「君はスーパーマンだな テレビからぬけだしたのか おまえの故郷はアメリカだろう 帰ったらどうだ………」
「ロケットマンだ だまってついて来い」
日本のテレビでスーパーマンTV実写版が放映されたのは1956年11月から。少年画報社がアメリカと契約して「スーパーマン」という雑誌を創刊したのが1959年です。まちがいなくパチモンのスーパーマンですが、ロケットマンと名のって著作権関係をのりきろうとしてるのが笑える。これが1958年の日本貸本業界だったのですね。
ここから水木先生の怒濤のギャグが。スーパーマンはドライ博士の前で巨大怪獣グラヤに命令します。
「グラヤ この新しい私の部下のためにちょっと踊りを踊ってみておくれ」
「あいよ」
「みてみろ俺の命令通り踊り出すから」
「うむワルツでも始まるのかな」
「アラエッサッサ」スタコラサッサ
「まったく驚いたね グラヤがここまで自由に動くとは」
「どうだおまえもグラヤといっしょに踊ってみてくれないか」
「はい踊らせていただきます」「コリャノヤア」コラヤノヤー コラヤノヤー
「まったくへたくそな踊りだな」
これで事件が解決へと向かうわけです。いやもうなんつーか、「秘密結社鷹の爪」のデラックスファイターみたいなスーパーマン。途中には大スペクタクルシーンがあるのに、コラヤノヤーで終わるんだからなあ。
さて『プラスチックマン』のほうは、これはもう完全にアメコミの翻案、というかまるきりそのままイタダキ。(水木しげる+プラスチックマンの画像検索結果→※)
肉体を自由に変形させることができるプラスチックマンが、水木博士の手で誕生する。プラスチックマンは助手のデブさんと水木博士の遺児・三ちゃんを連れて、悪役の不吉博士と戦う、というお話。
ストーリーというようなものはなくて、プラスチックマンの肉体が変形することを利用したアクションギャグが中心となってます。
月報の解題では「アメコミ風の絵柄が特徴的なSF作品」と書かれているだけですが、こういうのはきちんと記述しておいたほうがいいと思いますよ。プラスチックマン Plastic Man は、アメリカのジャック・コールが1941年に創造したスーパーヒーローです。
肉体が伸び縮みするヒーローとしては、「ファンタスティック・フォー」のミスター・ファンタスティックや、映画「Mr. インクレディブル」のお母さんの先輩になります。
ジャック・コール版プラスチックマンは、肉体変形ギャグを多用した伝説の名作マンガとして知られてて、本国では全八巻のりっぱな全集が出版されてますし、お手軽なところではアート・スピーゲルマンとチップ・キッドによる評伝+復刻マンガ五作という本もあります。そちらを紹介したわたしのブログ記事がコチラ。
●漫棚通信ブログ版「ジャック・コールとプラスティックマン」
プラスチックマンは出版社の倒産後DCに版権が移って、最近もアベンジャーズの一員として活躍してますが、基本ギャグマンガの主人公なので、周囲のヒーローたちとの違和感が半端ないですね。
さて水木版プラスチックマンは、ビジュアルはジャック・コール版プラスチックマンにそっくり。相棒となる助手のデブさんも、本家の相棒「Woozy Winks」のビジュアルそのままで、ここまでそっくりとは思わなかった。
あとは肉体変形ギャグにどれだけオリジナリティがあるか、というところですが、なんせ本家は、プラスチックマンが登場する全てのコマで、なにかしら肉体変形ギャグをやって見せる、というとんでもないことをしてるからなあ(プラスチックマンはその存在や行動が「天才バカボン」の登場人物に近いんですよね)。これを越えるのはむずかしかろう。
ただし、水木版プラスチックマンにはカマボコに変形するギャグがあって、さすがにこれは日本オリジナルでしょう。











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Comments
「プラスチックマンは出版社の倒産後DCに版権が移って、最近もアベンジャーズの一員として活躍してますが」
アベンジャーズ→ジャスティス・リーグ(JLA)
Posted by: ぱとこん | September 25, 2013 02:29 PM