孤高のバレエマンガ家 ダーティ・松本
京都国際マンガミュージアムで2013年7月13日より「バレエ・マンガ ~永遠なる美しさ~」という企画展が開催されてます。
図録が一般発売されてたので、見るより先に手に入れてしまいました。
●『バレエ・マンガ ~永遠なる美しさ~』(2013年太田出版、2800円+税、amazon)
展示は見てませんが、この図録だけですばらしいデキ。バレエの日本への受容史からバレエ・マンガ総まくりといった資料性、さらに解説やインタビュー、画像印刷の美しさも含めて、たいへんけっこうな本でした。この夏にはぜひ京都に行くつもり。
ただひとつ、本書・本展示に欠落している部分があります。「男性目線のエロ対象としてのバレエ」ですね。
いやいやいや少女マンガの展示でムチャいってるのは承知してますが、本書では『GUNSLINGER GIRL』や曽田正人にも言及されてるのだから、ここはエロマンガ界、孤高の巨匠、ダーティ・松本にぜひとも登場してもらわなくちゃ。というわけでわたしが補遺しておきます。
エロマンガの対象としてバレエというのはどうなのか。思いっきり体の線を出した衣装だし、美・高貴・富の象徴でもあるから、エロの対象として人気があるかというとそうでもなく、実際のところバレエを素材にしたエロマンガはきわめて少ない。
日本でバレエにこだわってエロマンガを描き続けているのは唯一、ダーティ・松本だけでしょう。ダーティ・松本のバレエ・エロマンガ集『舞姫伝説』(2000年久保書店)には「世界でただ1冊! マンガ史上初の快挙! バレリーナ・エロスの名作集成!」というオビがついてました。
著者あとがきによると、
エロ・マンガにおいてバレエものはじつに少なく、おまけにそれだけ集めて1冊の単行本を創る、という前から企画していた画期的な本がとうとうここに実現してしまいました。たぶん今までも、これからも世界でこの本意外には無い筈です。[あったらダー松自身が一番に購入したいところ]
とかいって、著者はこの後『白い肉の舞踏 バレリーナ暗黒調教』(2011年久保書店)というバレエ・エロマンガ集も出してますが。
バレエを題材にしたエロマンガというのは、バレエという非現実、夢の存在をエロに引き込むのにそうとうな無理をしなけりゃいけない。そこがむずかしいみたいです。
ダーティ松本作品でもバレエを扱った初期短編作品『犯された白鳥』『陰獣の宴』などを読むと、チュチュ姿のバレリーナが暴漢に誘拐されて陵辱される。バレリーナ衣装のままのエッチシーンが描かれますが、基本それだけ。しかも場所が倉庫だったり地下室だったりするので、なんだかなあという感じでした。短編『野獣の姦走』あたりになるとエロの場所は洋館になりますが、それでも衣装以外のバレエ要素はありません。
作者の代表作「闇の淫虐師」シリーズでも、『眠れる美女のわななき』ではバレリーナを扱っていても同様の展開。ところが同シリーズの『性の祭典』になりますと、誘拐されたバレリーナは調教されたうえ、多数の観客の面前で舞台の上、創作ダンスを踊りながら、多数の男女に陵辱されます。
バレエのエロには非現実空間、しかもバレエがバレエであるべき「舞台」が必要であることが明らかにされたのです。
中編『朝日に輝け』では、エッチは人里離れたバレエレッスン場でおこなわれます。長編『淫花蝶の舞踏』になりますと、海辺の洋館、観客の面前で女性ふたりがトゥシューズを履いただけの全裸で踊ります。エロはファンタジー化されることでバレエとなじむようになりました。
作者の代表作となる大長編『性狩人たち(セックス・ハンターズ)』(1979~1981年「劇画悦楽号」連載)では設定がもっと複雑になります。離島にあるバレエ学校「天使館(エンジェルハウス)」。そこは少女たちをバレリーナとしてだけではなく娼婦として教育し、裕福な男たちに提供する娼館でした。館の主は、黒鳥オディールと白鳥オデットと名のるふたりの女性、そして彼女たちの下僕となる美少年ジュンと黒人の巨漢サッチモ。
彼らは娼館の支配を狙ういろんな敵と戦いながら、離島のバレエ学校で、バレエをテーマとしたさまざまな異常なセックスをくりひろげます。
エロマンガでバレエを扱うにはここまでぶっ飛んだ設定が必要なのかっ。というくらいぶっ飛んでます。ラストはG(ゴッド)と名のる敵役とその娘エンジェルを巻き込んだ「ハルマゲドンの戦い」。
両者の戦いは火器を使った大殺戮戦となり、壮絶なラストを迎えます。いやもうエロマンガの極北ともいうべき作品。
『性狩人たち』と同時期に描かれた長編『美少女たちの宴』もバレエが題材。離島にある「アカデミーバレエ学院」は、「国家の援助をまるで受けたい日本でははじめて生まれた徹底的な英才教育によるバレリーナ養成のための全寮制学校」。そこに赴任してきた新任バレエ教師藤堂梨香と新入生風倉美希。しかしこの学院は、バレエとともにセックス技術をとことん教え込む場所であった……!?
本作ではバレエ=舞踏そのものがセックスとして描かれていて、エロマンガとしてのバレエは『性狩人たち』よりさらに過激になっています。
さらにさらに。長編『白鳥の湖』(1982年、単行本『舞姫伝説』収録)になりますと、バレエそれ自体が題材となります。
雑誌「レモン・ピープル」に連載されたことで知られている本作の主人公は、バレエを踊る美しい王女オデット。
オデットは隣国の王子ジークフリートと湖で踊っているところを悪魔ロットバルトに襲われ、その城に連れ去られ、ロットバルトとその娘オディールと愛虐の日々を送ることになります。オデットの股間には男根がはえ、彼女は悪魔の命ずるまま強姦の旅に出ることに……!?
というわけで、バレエを演ずる少女たちのセックスではなく、演じられるバレエをエロマンガとして描く、という純化がなされることになりました。
バレエを題材としたエロマンガをただひとりで進歩させてきたのが、ダーティ・松本なのであります。
(ダーティ・松本作品の多くは、紙としては品切れでも電子書籍で読めますので興味あるかたはぜひどうぞ)
Comments
こんばんは、ずいぶん古いコメントへのレスですみません
私はダーテイ先生の初期作品がすきで、それ以後のバレリーナものはすきにはなれません。バレリーナという非現実な存在を
現実に引き込むのが性だと思うのです。バレエはその表現に性的要素を多分に含むにもかかわらず特に日本においては、日現実なものとして見られがちです。だからこそ性暴力という現実
への引き戻しが必要なのです。初期のダーティ作品にはそれがありました。ですがなぜか多くの人たちはその特殊性にのみこだわり、現実への引き戻しを拒むのです。これはみなさんがバレリーナの本当のエロスを理解していないからではないでしょうか?誰がなんと言うとダーティ先生の初期作品こそがバレリーナエロスであり、理解しない多くの傍観者によって先生の作品が捻じ曲げられていったのは残念です
Posted by: 美少女帝国 | March 30, 2015 01:22 AM
以前に読んだエロ短編に、初老の紳士が、ローティーンの貧しい美少女達を引き取って衣食住教育などの面倒を見る代わりに、軟禁状態でバレエのレッスンに明け暮れ、一流のバレリーナになった暁に自由になれる、というシチュエーション物がありました。
エロですから、老紳士は「新しい娘を迎え入れる」儀式として、レッスン場で他の「娘たち」の面前で処女を奪ってしまうのです。気に入った「娘」はたびたび犯されてしまいます。
ところで、ドガの絵に表わされるように、20世紀初頭までは、バレエを含む「踊り子」には「パトロン」が付き物。ドガの絵では舞台の袖で踊り子を見詰める紳士たちは「娘たちの品定め」をしているのだとか。
純愛SM初心者漫画「ナナとカオル」の名台詞を借りると・・・
「エロいよ・・・すごく」
Posted by: トロ~ロ | July 22, 2013 10:55 AM