極悪なるアメコミ『ウォンテッド』
マーク・ミラーの性格が悪いとは知ってたつもりでしたが、ここまでとは。
●マーク・ミラー/J・G・ジョーンズ『ウォンテッド』(中沢俊介訳、2013年小学館集英社プロダクション、2200円+税、amazon)
アンジェリーナ・ジョリー主演の映画「ウォンテッド」(2008年)は日本でもヒットして、わたしもDVDで楽しく見ました。でもその原作マンガがこんな作品だったとは!? いやびっくりした。
シナリオのマーク・ミラーはスーパーヒーローものアメコミのライターとして日本でもおなじみ。『キック・アス』や『スーパーマン:レッド・サン』などのひねくれた作品も書いてます。
しかし本書はそれら以上に極悪なアメコミ。スーパーヒーローものを思いっきりひねくりまわした最強最悪のパロディ二次創作的アメコミでした。映画じゃスーパーヒーローものの匂いを消してたからなあ。
本書の世界では、スーパーヒーローとスーパーヴィランの全面対決があった結果、スーパーヒーローが全滅しています。これが1986年のこと。
現在の世界は五人のヴィランたちで分割され、アメリカはレックス・ルーサー(みたいなやつ)、アジアはラーズ・アル・グール(みたいなやつ)、オーストラリアはジョーカー(みたいなやつ)に支配されてるわけです。
みたいなやつ、ってのは本書はトップカウ社から出版された作品なので、DCやマーヴェル作品を下敷きにしながらモトネタをパロってるわけですね。
しかし彼らは悪人ばっかなのでそんな平和がいつまでも続くわけもなく。レックス・ルーサーとジョーカーの対立はすでに一触即発の状態。そこへ放り込まれたのが、ある大物ヴィランの隠し子で、これまで自分の出生の秘密などを知らずしょぼい生活を送っていた主人公。彼はキャットウーマン(みたいな女性)に導かれ、陰謀と暴力の世界に飛び込むことに……!?
映画ではキャットウーマン役がアンジェリーナ・ジョリーなわけですが、さすがに映画だけ見てちゃ原作のこんな意図はわかりませんでした。
本書のどこがすごいかというと、スーパーヒーロー(スーパーマンやバットマン)がすべて死亡したあとの世界、悪人だけが存在する世界という発想。
正義はない。悪人同士の内部抗争があるだけ。しかもそれがアメコミとはとても思えないような残酷描写、日本マンガのそれをも凌駕する残酷描写(アタマ吹っ飛ぶ、手足ちぎれる)で描かれちゃってるのですね。ストーリーも描写も、わたしがこれまで読んだアメコミの極北。永井豪までもう少し、というところまで来ています。当然ながら主人公も正義とは無縁の人間として描かれてます。
本書で世界が壊れた1986年は、ムーア/ギボンズ『ウォッチメン』やフランク・ミラー『バットマン:ダークナイト・リターンズ』が発表され、アメコミがリボーンした年。主人公の造形はラッパーのエミネムに似せてるそうです。
すごいすごい、とつぶやきながら読んでました。悪趣味の極北ともいうべきアメコミ。いやほんとマーク・ミラーは性格悪い。
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