青春彷徨と転落の物語『かくかくしかじか』『アオイホノオ』
最近読んだマンガのうち、いちばん身につまされたのが、これとこれ。
●東村アキコ『かくかくしかじか』2巻(2013年集英社、743円+税、amazon)
作者の自伝的マンガ。1巻で猛勉強した主人公、2巻のアタマで美大に合格します。書影イラストがなんというかマンガ的じゃなくて美術的。
当初の目的を果たし、バラ色の大学生活が待っているはず、だったのに。
さあ地獄の4年間の始まりです
どのあたりがフィクションでどこがノンフィクションかは、作者以外にはわかりようがありません。しかし、この一行の意味は深い。作者はその後悔を、卒業して十数年たった現在も抱き続けています。
大学生になった主人公は、絵を描かない、描けなくなってしまう。
主人公は作中で遊びに行ったり飲んだくれたりボーイフレンドをつくったり、それなりに楽しげな学生生活を送ってるのですが、心の底には闇をかかえている。楽しそうなバカ学生描写と深刻なモノローグの落差。
自分を例に出すなら、ヒマになったとたんに読書すらしなくなって、昼間っからテレビ見て酒ばかり飲んでる、みたいな。あまりに卑近なたとえですみません。
これは芸術系や創作系の学生に限ってのことではなく、体育会系、あるいは学生じゃなくても一般人にとっても思い当たるところがあるのじゃないかしら。そういう意味で普遍性があるマンガ。いやもうすっごいわ。
いっぽうこういうマンガもあって。
●島本和彦『アオイホノオ』10巻(2013年小学館、552円+税、amazon)
えー、書影イラストは学生時代の庵野秀明が、ウルトラマンパロディ特撮ショートフィルムを下宿で撮影している、という場面。この書影だけでも傑作の匂いがぷんぷんするのですが、本巻の展開も涙なくしては読めません。
本巻では主人公ホノオモユルが、学内のショートフィルム上映会で、庵野秀明作品に打ちのめされます。
この描写がもう悲惨ですばらしい。主人公は自分のつくった作品がまったくウケないことにショックを受ける。このシーンはマンガが到達した最高レベルといえるほど、「若年の創作者が絶望する」壮絶な描写となっています。
無反応こそ最大の批評。
ひとごとじゃないっす。
さらに本書の展開でスゴイのは、このショートフィルム発表会のあとの、学生たちの、集団としての、描写。
個人として、才能ある同世代の人間の存在に打ちのめされるのは、自分の経験をとおしてもよくわかる。それを集団の普遍の感情として描いた本書の表現はすばらしい。
一般のひとの描いたお話ならここで終わってしまうのですが、二作とも成功した作者による自伝マンガです。『かくかくしかじか』も『アオイホノオ』も、この転落で弓を引き絞り、このあと爆発的な再生の物語を語ってくれる、はず。刮目して待つべし。
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