花輪和一の新境地『風童』『みずほ草紙』
二冊同時発売。
●花輪和一『風童(かぜわらし)』(2013年小学館、1200円+税、amazon)
●花輪和一『みずほ草紙』1巻(2013年小学館、1200円+税、amazon)
何を今さらという感じですが、花輪和一の絵はほんとスゴイ。山野の自然、農村風景、農家の建物、室内、小物のかずかずにいたるまで、マンガ的画力はずば抜けてるよなあ。
最近はやりの写真画質というわけでもなく、マンガの古典的背景であるにもかかわらず、これほどストーリーに寄り添ってそれをみごとに表現する絵ってなかなかありません。
さてお話。『風童』の舞台は戦国時代。農村の少女がいろいろな超自然的存在に出会います。それを導くのがタイトルにもなってる謎の少年(?)「かぜわらし」という存在。書影イラストのごとくミミズクの姿となることもあります。
という話のはずだったのですが、途中から主人公少女、あるいはその周辺の人々の、生きることについての苦しみや悩みが直接に描かれるようになって、短編連作としての結構はくずれてます。でもひとの悩みが何とも普遍的で、モノローグと自然描写の同時進行がこちらの胸に迫る迫る。
『みずほ草紙』のほうの時代は昭和初期かな。これも農村の少女が主人公で、彼女がいろんな怪異を見聞する話。こちらはもうはっきりとひとの心の闇が怪異となって現出しているわけで、作品のテーマとしてはより一貫しています。
おどろくべきは二作とも、収録された短編のオチがどれも(比較的)ほのぼのしてる。あの花輪和一にして、このやさしさはどうしたことか。この結果、じつに読みやすく、万人に勧められる作品になってます。作者の新境地なのかも。
さてこの二冊、同時発売でブックデザインはともに祖父江慎/小川あずさ。統一感のあるデザインですが、なぜか『みずほ草紙』のほうがずっと良いつるりんとした紙を使ってます。ですからこっちのほうがずっと重い。そのかわり『風童』のほうは一部だけ二色印刷。
マンガをグラム単位で買ってるひとはいないと思いますが、二冊が同じ価格というのはどうなのか。花輪ファンはどうせ二冊とも買うから関係ない、のかもしれませんけど。
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