『ザワさん』完結
『高校球児ザワさん』が全12巻でめでたく完結。
●三島衛里子『高校球児ザワさん』全12巻(2009~2013年小学館、524~571円+税、amazon)
都澤理紗さんは高校野球の古豪、日践学院高校唯一の女子野球部員。ポジションはピッチャー、あだ名がザワさん。一所懸命練習しても、彼女は公式戦には出られない。そういう彼女の日常を描いたマンガです。
最終12巻でザワさんは、他校のロクでもない三年生とつきあったりしてて、お父さん世代としては心配で心配で。でもきちんと高校を卒業、大学進学して野球人生を続けることになります。とてもいい終わりかたでした。
『ザワさん』はどこが新しかったのか。連載の1回分が6ページから10ページ程度という少ないページ数。その少ないページ数でストーリーがどんどん展開するわけではなく、そこで描かれるのは日常のスケッチ。叙事でもなく叙情でもなく、叙景とでもいうべきか。
しかしその形を続けながら、作品全体として大きな流れを形成する。作品内でははっきりと描かれない部分が多く、読者はそれを脳内で補完しながら読むことになります。
いしいひさいち以来、四コママンガで描く大河ドラマというのが成立しましたが、それをストーリーマンガに逆輸入した感じですね。
作者はこの形式を意識的に活用していて、実際、ザワさんには一学年上にエースの兄がいるのですが、彼が誰とも知れない「こーじさん」として登場するのが1巻10話。日践学院には「王子」と呼ばれるエースがいると明かされるのが1巻12話。顔だけちらっと出るのが2巻30話のタイトルページ。ザワさんに兄がいるのが明かされるのが3巻40話。「こうちゃん」という兄が同じ野球部にいるらしいとわかるのが3巻46話。
そして日践学院のエースが「都澤」であると読者に明かされるのが3巻47話。いやひっぱるひっぱる。まさにマンガの発表形式は、表現や展開と一体。こういう掲載の形式だからこういう展開のマンガになったわけです。
さて最終12巻198話、最終回「ラスト1!!」のタイトルページで、「ザワさんの結婚式のスナップ写真」が見られます。この写真にはいろいろと仕掛けがあります。
この写真の左半分は8巻116話のタイトルページとして出てきたものですね。
8巻116話には、ザワさんの同級生、楠本くんの妄想としてザワさんの花嫁姿や結婚式スナップが登場します。最終回タイトルページのザワさんのファッションは116話での楠本くんの妄想と同じ。
でもよく見るとテーブルが違う。116話のテーブルは友人席だったのに、最終回タイトルページでは新郎新婦席。そして新郎は、なんと連載第一回に登場してた、岡山文化大学附属高等学校のヤマサキじゃねーか。おめーはザワさんとどこで知り合ったんだよっ。
そしてもひとつ。この結婚式、女子ソフトボール部のタブチさんも呼ばれてるらしいのに、ザワさんの同期の主将、花村くんがいない。
花村はザワさんの存在を気にしまくっていた主要登場人物なのに、どうしたんだ。いやもしかすると写真を撮ってるのが花村なのか? とまあ、読者の妄想もいろいろとふくらむのでした。
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Comments
2号前からアフタヌーンで始まった赤星トモ「思春期シンドローム」
http://natalie.mu/comic/news/85506
もそれに近そうですね。ページ数自体は普通の作品と同じ分量を貰っているのに、それをわざわざ4、5本のショート作品に分割して掲載しているのですから。
Posted by: Gryphon | May 07, 2013 02:37 PM
はじめまして、コメント失礼します。
最終話の表紙の、結婚相手が1巻のあの選手、とはなんとなく分かったのですが、なんで花村がいないんだろう?ってずっとモヤモヤしていました。結局彼女とはより戻せたのか?なども。
『写真をとっているのが花村かも』という解釈がとても素敵で、すっとして思わずコメントしてしまいました。
そう思って見るとみんなが自然な笑顔でいることや、花村と結構反発することの多かった守口が柔らかい顔してるのとかも、ぐっときますね…。ちゃんと主将やりきれたのかなーって想像したら、最終話の表紙はもうこれしかない、と思えるようになりました。ありがとうございました。
ザワさんは読めば読むほど新しい発見があって、自分には経験できなかった青春を見ているようでとても好きでした!ひとつの夏が終わってしまったような感じがします。
長々と失礼しました。それでは、また。
Posted by: みなす家 | May 06, 2013 01:23 AM