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May 25, 2013

歴史+競馬マンガ『竜蹄の門』

 わたしはどちらかというとトンがったマンガが好きなのですが、こういう作品を読むとちょっとほっとしますね。

●やまさき拓味『竜蹄の門』1・2巻(2013年リイド社、各590円+税、amazon

竜蹄の門 1 (SPコミックス) 竜蹄の門 2 (SPコミックス)

 出版社からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 競馬マンガを描き続けてきた作者の新しい挑戦は、歴史マンガ。日本の近代競馬は幕末の横浜居留地で始まったそうですが、伝説の名馬として知られているのが「バタヴィア」(血統不明)です。

 本書はそのバタヴィアを題材に描かれたフィクションです。バタヴィアの騎手となるのは「光たづな」という名の、岩手南部藩の少年武士。作者の代表作『優駿の門』の主人公、光優馬のご先祖という趣向ですね。

 本作は「コミック乱ツインズ」という比較的高齢者向けのマンガ月刊誌に連載されてます。しかし展開や描写は、まあなつかしいこと、古典的少年マンガのノリです。熱血かつハートウォーミング。

 攘夷をとなえて過激派になった親友、とか、恩人の死、婚約者との悲劇的別れ、などの劇的展開もあるのですが、全体的にはのんびりしてる。登場人物に善人が多い、というのがいちばんの理由かなあ。

 2巻の終わりでバタヴィアは岩手県から横浜に移動して、やっと馬主になる横浜ホテルのオーナーに出会ったところ。レースは神社の境内を走る古式競馬をひとつ走っただけ。おもしろくなるかどうか、まだまだこれからのことなのですが、幕末明治の有名人が登場するような伝奇的要素も入ってくるかもしれない。構想はすごく雄大で意欲的なので、今後に期待、ですね。

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May 13, 2013

紙のお仕事

 ちょっと自分語りしてもいいすか。

 わたし2003年からネット上で漫棚通信と名のって文章を書いてますが、紙媒体にも少しだけ書かせていただいたことがあります。

 初体験が、飛鳥新社の今はなき雑誌「dankaiパンチ」の2007年8月号。最初は「団塊パンチ」の名で創刊された雑誌ですね。新刊マンガレビューとして、吉田秋生『海街diary』1巻と岡崎二郎『宇宙家族ノベヤマ』1巻をとりあげました。

 連載ワク予定だったのですが、担当編集者のかたの退社とかいろいろありまして、結局一回きりの掲載。じつはちょうどその時期に唐沢俊一氏による盗作騒動があって、ばたばたしてる最中のお仕事でした。しかしライターさんたちはタイヘンだなあと感じるところがあり、貴重な体験をさせていただきました。

     ◆

 ミニコミ誌「漫画の手帖」には、お誘いを受けて2009年からテーマを決めない(といっても当然ながらマンガネタですが)エッセイを寄稿させていただいてます。

 これまで書いたもののタイトルを記しておきますと、

●みーんな「COM」に投稿していた:「漫画の手帖TOKUMARU 3号」2009年2月
●マンガの中の先輩後輩:「漫画の手帖57号」2009年8月
●日本人をどう描くか:「漫画の手帖58号」2009年12月
●『ジャングル大帝』のわき役たち:「漫画の手帖TOKUMARU 4号」2010年3月
●ローランドソンのこと;「漫画の手帖59号」2010年7月
●ショーン・タン『到着』のやさしさとたくましさ:「漫画の手帖60号」2010年12月
●アメリカの少女マンガ、のようなもの『トワイライト』:「漫画の手帖TOKUMARU 5号」2011年3月
●おかしなおかしな『スコット・ピルグリム』:「漫画の手帖61号」2011年8月
●木村政彦と柳勘一:「漫画の手帖62号」2011年12月
●調べものいろいろ:「漫画の手帖TOKUMARU 6号」2012年1月
●イタリアのエッチなマンガ:「漫画の手帖63号」2012年6月
●ティワナ・バイブル 世界初のエロ系二次創作マンガ:「漫画の手帖64号」2012年12月
●エロティックマンガの巨匠ミロ・マナラ:「漫画の手帖TOKUMARU 7号」2013年1月
●アメコミのオフィシャル二次創作:「漫画の手帖65号」2013年5月

 まとめて読み直してみましたが、いやーわれながらおもしろいわ(←なんだろねバカですみません)。じつは自分の文章のいちばんのファンは自分なもので。

 ちょっとだけ内容を紹介しておきます。

「COM」ネタは、それ以後の「COM」再評価より前に書いたもの。ショーン・タン作品も『アライバル』として邦訳される前の紹介ではあります。

 ローランドソンとはイギリスの風刺画家トマス・ローランドソンのこと。たいていの世界史教科書にその風刺画が載ってて誰もが目にしたことがあるはず。このかた、いっぽうでエロマンガの大家でして、大量のエロティックアートを残してます。

 ティワナ・バイブルというのは、第一次大戦後からアメリカで流通した小冊子形式のエロマンガです。既成マンガのパロディが多く、ミッキーマウスがミニーと、ポパイがオリーブと、エロエロなことをしてます。

 Tijuanaはメキシコの地名で、英語読みでティファナ、スペイン語読みでティワナと発音するらしいので、どういう表記にしようか迷ったのですが、一応ティワナにしてみました。

「木村政彦と柳勘一」は、バロン吉元『柔侠伝』シリーズに登場する、木村政彦がモデルのキャラクター三人についてのお話。

『トワイライト』はステファニー・メイヤーによるアメリカ製ラノベのマンガ化。ドジでマヌケなわたしが美形のヴァンパイアとたくましい狼男から愛されてしまい、さあ困ったわ、というどうでもいいようなお話。日本では映画のほうが有名ですね。

 マンガ版は日本では商業上惨敗で、第一部の上巻が邦訳されただけです。でも世界各国では大人気で現在も続編が刊行中。絵を担当してるのは韓国人マンガ家のかたで、じつは日本人読者の目からはできがあんまり良くありません。

 でも世界中で絶賛なんだからなあ。というのは最近の竹熊健太郎先生による、世界市場で負ける(かもしれない)日本マンガ、という話に通じるところがあるかな?

     ◆

 雑誌「フリースタイル」からはご依頼があって、年末ベストテン「このマンガを読め!2010」のアンケートから参加させていただいてます。

●「THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!」(2009年12月)
●「フリースタイル14号 THE BEST MANGA 2011 このマンガを読め!」(2010年12月)
●「フリースタイル17号 THE BEST MANGA 2012 このマンガを読め!」(2012年1月)
●「フリースタイル21号 THE BEST MANGA 2013 このマンガを読め!」(2013年1月)

 最初の2010年ベストワンに挙げたのがアラン・ムーア/エディ・キャンベル『フロム・ヘル』なんですから、われながら初志貫徹してる。このころから海外マンガ邦訳が盛んになっていきます。

 フリースタイルからはその他にも原稿依頼をいただき、「フリースタイル18号」(2012年4月)にも、「大人になったアニー」という文章を寄稿させていただきました。

 ミュージカル「アニー」のモトネタである古典マンガが「リトル・オーファン・アニー」。そのパロディが「リトル・アニー・ファニー」でした。

「リトル・アニー・ファニー」の作者、伝説のマンガ家/編集者であるハーヴェイ・カーツマンを紹介した文章。

 でも1970年代ならともかく、カーツマンに興味のある読者は21世紀の日本にはいないのじゃないか。とかいいながら、漫棚通信はしつこくそっち方面を紹介し続けるのでありました。

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May 05, 2013

『ザワさん』完結

 『高校球児ザワさん』が全12巻でめでたく完結。

●三島衛里子『高校球児ザワさん』全12巻(2009~2013年小学館、524~571円+税、amazon

高校球児 ザワさん 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) 高校球児 ザワさん 12 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)

 都澤理紗さんは高校野球の古豪、日践学院高校唯一の女子野球部員。ポジションはピッチャー、あだ名がザワさん。一所懸命練習しても、彼女は公式戦には出られない。そういう彼女の日常を描いたマンガです。

 最終12巻でザワさんは、他校のロクでもない三年生とつきあったりしてて、お父さん世代としては心配で心配で。でもきちんと高校を卒業、大学進学して野球人生を続けることになります。とてもいい終わりかたでした。

 『ザワさん』はどこが新しかったのか。連載の1回分が6ページから10ページ程度という少ないページ数。その少ないページ数でストーリーがどんどん展開するわけではなく、そこで描かれるのは日常のスケッチ。叙事でもなく叙情でもなく、叙景とでもいうべきか。

 しかしその形を続けながら、作品全体として大きな流れを形成する。作品内でははっきりと描かれない部分が多く、読者はそれを脳内で補完しながら読むことになります。

 いしいひさいち以来、四コママンガで描く大河ドラマというのが成立しましたが、それをストーリーマンガに逆輸入した感じですね。

 作者はこの形式を意識的に活用していて、実際、ザワさんには一学年上にエースの兄がいるのですが、彼が誰とも知れない「こーじさん」として登場するのが1巻10話。日践学院には「王子」と呼ばれるエースがいると明かされるのが1巻12話。顔だけちらっと出るのが2巻30話のタイトルページ。ザワさんに兄がいるのが明かされるのが3巻40話。「こうちゃん」という兄が同じ野球部にいるらしいとわかるのが3巻46話。

 そして日践学院のエースが「都澤」であると読者に明かされるのが3巻47話。いやひっぱるひっぱる。まさにマンガの発表形式は、表現や展開と一体。こういう掲載の形式だからこういう展開のマンガになったわけです。

 さて最終12巻198話、最終回「ラスト1!!」のタイトルページで、「ザワさんの結婚式のスナップ写真」が見られます。この写真にはいろいろと仕掛けがあります。

 この写真の左半分は8巻116話のタイトルページとして出てきたものですね。

 8巻116話には、ザワさんの同級生、楠本くんの妄想としてザワさんの花嫁姿や結婚式スナップが登場します。最終回タイトルページのザワさんのファッションは116話での楠本くんの妄想と同じ。

 でもよく見るとテーブルが違う。116話のテーブルは友人席だったのに、最終回タイトルページでは新郎新婦席。そして新郎は、なんと連載第一回に登場してた、岡山文化大学附属高等学校のヤマサキじゃねーか。おめーはザワさんとどこで知り合ったんだよっ。

 そしてもひとつ。この結婚式、女子ソフトボール部のタブチさんも呼ばれてるらしいのに、ザワさんの同期の主将、花村くんがいない。

 花村はザワさんの存在を気にしまくっていた主要登場人物なのに、どうしたんだ。いやもしかすると写真を撮ってるのが花村なのか? とまあ、読者の妄想もいろいろとふくらむのでした。

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