« 色で描く光と影『闇の国々』3巻 | Main | おとなの学習マンガ『まるまる動物記』 »

April 12, 2013

手塚的なものとは『ブラック・ジャック創作秘話』

 はじめは一巻完結だと思ってたのですが、続いてますねー。

●吉本浩二/宮崎克『ブラック・ジャック創作秘話 手塚治虫の仕事場から』3巻(2013年秋田書店、648円+税、amazon

ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~ (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ) ブラック・ジャック創作(秘)話~手塚治虫の仕事場から~ 2 (少年チャンピオン・コミックスエクストラ) ブラック・ジャック創作(秘)話~手塚治虫の仕事場から~ 3 (少年チャンピオン・コミックスエクストラ)

 この巻には、手塚のアシスタントだった石坂啓・高見まこの体験談、秋田書店編集者・阿久津邦彦の話、手塚治虫と孫悟空の話、の三話を収録。

 わたしも手塚関連の文献はひととおり押さえているつもりだったのですが、手塚先生のエピソードはいくらでも出てきますね。それだけ巨人であり、奇行のひとでもあったということでしょう。

 今回感心したのは孫悟空というキーワードで手塚の人生を切りとった「手塚治虫と6人の孫悟空」。こういう視点もあったか。読みものとしてよくできてました。

 ただしそれぞれの作品の掘り下げは浅い。って、それぞれを追求するようになると、マンガじゃなくて研究書になっちゃいますね。

 手塚治虫の功績、あるいは後世に与えた影響というのはいっぱいありすぎて挙げていくのがタイヘンなのですが、まずマンガでは「悲劇の導入」、これでしょう。

 手塚マンガの「悲劇」は「主要登場人物の死」と言い換えてもいいかもしれない。手塚マンガではともかくたくさんのキャラが死ぬ。敵、味方、さらには主人公までも。いつ誰が死ぬかわからない。読者は緊張を強いられます。予定調和を廃したストーリーが手塚マンガの特徴です。

 手塚自身はこういう悲劇や死を、自分の「泣かせるコツ」であると称していましたが、これも手塚お得意の韜晦かもしれず、本心はどうだったのかわかりません。

 手塚治虫が東映動画「西遊記」で、孫悟空のガールフレンド、ヒロインとなるリンリンの死を主張し、東映側と衝突したことは本書にも描かれていますが、これがのちの宮崎駿による手塚批判の遠因だったりするのだと思います。

 しかし先人としての手塚治虫がいたからこそ、日本マンガやアニメは悲劇や死をどんどん描くことができるようになったのです。

 さてアニメにおける手塚治虫の功績(もちろん批判の対象にもなるのですが)は「動かないアニメ」あるいは「少ない枚数のアニメ」の開発、なのじゃないか。

 最初は経済的・時間的制約で始まったものが、後継者の手によりしだいに表現として成熟していく。宮崎ルパンや庵野エヴァだって、「枚数を減らして」「動かさない」を追求した部分があるわけですしね。

 「化物語」も「リリカルなのは」もそう。古典的な「動く」ディズニーアニメとは別方向に進歩したのが日本アニメです。「鷹の爪」を例に出すと怒られるかな。

 アニメーションにおけるロトスコープといえば、フライシャーやディズニー、ラルフ・バクシ「指輪物語」など「動く」アニメを思い浮かべるのですが、今評判になってる「悪の華」は、ロトスコープなのになんと静的な。

 これも日本的、手塚的なアニメだと思います。毀誉褒貶相半ばするのも、手塚アニメ的だなあ。

|

« 色で描く光と影『闇の国々』3巻 | Main | おとなの学習マンガ『まるまる動物記』 »

Comments

私はアニメ用語には全然詳しくないので最近「勝手に一人webアヌメスタイル」なるサイトを見つけてちょこちょこ読み進めています。少しはこのブログの高度な考察についていけるようになるかしら。

そういえば来月発売のDVD「風にフジ丸」には、初回放送で本編に続けて放送された実写の「忍術千一夜」も収録されるみたいですよ。こういうものがどんどん発掘されて、良い時代になりました。

Posted by: kumori | April 23, 2013 02:25 AM

「動かないアニメ」
たしか「リミテッド・アニメーション」と呼ばれていたような気が。1秒24フレーム(24枚のセル画)の「フル・アニメーション」との対比でした。

現在ではコンピュータのアシストがあるので、アクション・シーン用の人体モデリング(骨格・関節・筋肉・身体や顔や髪の毛の輪郭・目鼻立ちなど)を3Dで作成し、プログラムによって関節や筋肉の動作を自動化、3D空間内を「飛ぶ」などの設定で自在に動かして、カメラ・アングルも3D空間内で全く自由に設定できるそうです。

手描きセル・アニメが最も不得意にしていた、キャラクターが奥へ遠ざかっていく場面などもシームレスに行うことができます。簡単なものです。

ところが、驚くことに、この3DCGアニメーションは、そのままだと「動きにメリハリが無い」ので、1秒24フレームから何フレームか「コマ抜き」することにより「ダイナミックに見える」加工を行うのだそうです。
げげげっ。
「ナウシカ」の「空戦場面」の故・金田伊功氏の作画テクニックみたい。

何度でも試行錯誤できるのでCGアニメータのセンス次第で、どのようにでも出来るのだそうです。
(以上「ビビッドレッド・オペレーション」特番から孫引きでした)

懐かしい「ロト・スコープ」ですが、古い「指輪物語」では無名の役者が演じているので、身体がふらふらと揺れていて、輪郭線が揺れて落ち着きが無い。
ところが、かつて東映動画(?)の「ロト・スコープ」アニメ映画では歌舞伎役者が主人公を演じているから、所作・動作がピタリと止まって実に美しい。
これは30年以上前に大学漫研の部長さんから聞いた話です。

手塚治虫の「キャラ殺し」。
私は「アドルフに告ぐ」を想起します。
日本生まれでドイツ育ち、ナチス党員の「アドルフ」は、戦後に傭兵(?)になって、中東で「もう一人のアドルフ(ユダヤ人?)」と再見し、憎悪の中で戦って死にます。相打ちだったような気が。

ビデオ・ゲームのRPGでの「キャラ殺し」といえば、かつてのスクエアの看板商品「ファイナル・ファンタジー」ですね。チーフ・デザイナーの母親が亡くなったときの体験がヒントになった、とTVで聞いたような。

今では「キャラ殺し」は、ラノベの「ソードアート・オンライン」、コミックの「ガンスリンガー・ガール」など、多くなりました。「死」は、やはり悲劇なので、その後の作者の力量が肝心です。

面白いのが「日曜朝の年少の子供向けアニメ」では、犠牲になって死んだキャラクターが生き返ったりしちゃいます。スポンサーのオモチャ屋さんの都合でしょうか。
この影響なのか「ハリー・ポッター」シリーズで「シリウス・ブラック」が死んだ時、日本のファン・サイトに「生き返って欲しい」というカキコミがたくさんあって、呆気に。
いやいや、イギリス人のJ・K・ローリング氏はそんな設定は絶対にしないって。
茅場晶彦ではありませんが「命をそんなに軽々しく扱うものではない」と言いたくなります。

Posted by: トロ~ロ | April 14, 2013 07:39 PM

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 手塚的なものとは『ブラック・ジャック創作秘話』:

« 色で描く光と影『闇の国々』3巻 | Main | おとなの学習マンガ『まるまる動物記』 »