施川ユウキまつり
今年のゴールデンウィークは施川ユウキまつり。
新作三冊のうち『鬱ごはん』と『オンノジ』を読んで、あまりのすばらしさに興奮。『バーナード嬢曰く。』がご近所で見つからないので朝から車を飛ばして遠くの書店まで足を伸ばしてようやくゲット。
●施川ユウキ『鬱ごはん』1巻(2013年秋田書店、552円+税、amazon)
●施川ユウキ『オンノジ』(2013年秋田書店、552円+税、amazon)
●施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』(2013年一迅社、619円+税、amazon)
まずはわが家では、鬱すぎる、と評判の悪い『鬱ごはん』。えー簡単にいいますと、読むと心がめいってくる、裏『孤独のグルメ』です。
就職浪人の主人公(♂)が、基本ひとりで食事をしながら考え込む内容のあれこれ。読者はそれをモノローグとして読むのですが、これがまあ、じつにネガティブ思考ばかり。
食事の喜びというものがまったくない。というか食事がつらい。彼の食事はグルメとはほど遠いシロモノばかり。彼は食事をしながら考え続けます。食について、というより食にまつわるいろんなこと、とくにまわりの人間(店員、他のお客さん、単なる通りすがりのヒト)とのコミュニケーションを、考えて考えて考え抜いてしまうのです。
いやひとごとじゃないですな。笑いながらも涙なくしては読めません。しかもこれが1巻で、まだまだ続くというのが驚き。
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そして『オンノジ』。
ある日突然、世界から人間と動物がいなくなってしまった。ただひとり残されたのが書影の小学生女子ミヤコ。世界も異常ですが、この子もタダモノではない。
空想好きの彼女はひとりきりではあっても、それなりに楽しそう。「サナギさん」が非日常に放り込まれたらこんな感じになるのかな。
世界に自分以外に誰も存在しないと思っていた彼女の前に現れたのは一羽のしゃべるフラミンゴ(!?)。彼はもと中二男子で、彼につけられたあだ名が「オンノジ(御の字)」です。
オンノジも、ミヤコほどではないけれどなかなか腹の据わった人物、というか鳥で、無人の街でふたりの生活はのほほんと続いていきます。そしてついに世界の謎が解ける日が…… 来るのか来ないのか?
もちろん、この非日常世界は震災後の日本です。変貌した世界で生き続けるわたしたち自身をほのぼの四コマギャグで描いた作品。なんというアクロバティックなことを。まいりました。
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二作がとんでもなかったので、『バーナード嬢曰く。』はどうなることかと思ったのですが、これはいつもの施川ユウキ作品のクオリティ。むしろほっと安心したというか。
主人公は「バーナード嬢」というあだ名の高校生女子。あだ名といっても本人からこう呼んでくれ、というリクエストなのですが、どうも彼女、バーナード・ショーをまちがえて覚えているらしい。
彼女は「読まない読書家」であり、周辺に読書家であることをアピールするために図書館にいる少女。
書影にあるとおり、「一度も読んでないけど わたしの中ではすでに 読破したっぽいフンイキになっている!!」なのです。
彼女にツッコミをいれるのが、一般的な読書家である遠藤くんと、SFマニアの神林さん。
というわけで、神林さんの登場する後半は、SFネタ満載。裏表紙イラストにあるごとく、「ディックが死んで30年だぞ! 今更初訳される話がおもしろいワケないだろ!」
バーナード嬢もわたしたち自身です。なにかをなそうとしても一歩も進めない、何者でもないわたしたちですが、それでも何者かであるようには見られたい。
ちなみにわたしはまったく読書家ではないしSFもよく知らないし、主人公とよく似たタイプ。でも読んでない本の話も、おもしろく楽しく感じるから不思議ですね。
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