おとなの学習マンガ『まるまる動物記』
手塚治虫がよく語っていたのが、教育メディアとしての学習マンガの有用性。マンガは教育にも役に立つんだぞ。
こどものころのわたしはこれを、マンガ否定派に対する手塚の方便だと思っていました。マンガの神髄は物語性にこそあり。そして反体制的、反社会的な何かを含むものなんじゃないか(だってマンガの存在そのものが学校や家庭で否定されてたしね)。
「俗悪な」マンガが社会から糾弾されているのに対し、学習マンガは学校の図書館とか児童館にいっぱい置いてある。何かこう、体制に取り込まれたお利口さんに見えちゃってたんですね。
いや若かったとはいえ、考えが足りなかった。学習マンガは戦前から名作が多く存在し、戦後日本で高度の進歩をとげ、現代でも多くのチャレンジャーを生んでいる分野なのです。
戦前の大城のぼるは、戦後学研のムロタニツネ象は、いかにすばらしい学習マンガを描いたか。近年でも、日高トモキチや鈴木みそによる、意欲的なおとな向け学習マンガがあります。
物語マンガの枠内でも、白土三平マンガは学習マンガの部分がありますし、『もやしもん』なんか学習マンガそのものじゃないかっ。海外に目を向ければ、スコット・マクラウドのマンガで描かれた『マンガ学』などが存在するわけです。
で、これ。
●岡崎二郎『まるまる動物記』全二巻(2012~2013年講談社、648~743円+税、amazon)
本書はSFマンガ家の著者による学習マンガ。マンガによる科学エッセイというべきかもしれません。このたび二巻で完結。テーマは「地球」の「動物」がいかに多様で複雑な「生」を持っているか、です。
コオロギやカマキリのセックスは。宇宙をめざして飛び立ったミツバチの運命は。性淘汰とは何か。進化とは何か。本能とは、学習とは。いやー奥が深い話題ばっかり。
作中動物が擬人化されて語り合ったりお芝居をしたりする間に、キャプション=四角のフキダシで作者が読者に話しかけるという、昔ながらの学習マンガの形式ですが、これ懐かしくていいなあ。でも内容はむちゃ高度。
なんつってもすべての話題がどこかからの引き写しではなく、作者自身が消化して新しいことを付け加えながら語ってくれてるのがすばらしい。
収録された各作品には、生物学者の池田清彦によるエッセイが付記されていて、そこでは作品内容に対してそれはちょっと……とか、それはひとつの仮説……とかツッコまれているのですが、これもふくめて、生物学、そして科学はヒトスジナワではいかないのがよくわかってじつに楽しいのです。
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Comments
漫画とは関係ありませんが、家電量販店のゲーム・ソフト・コーナーに、PS VITA 用の資格取得勉強ソフトが並んでいました。
それが「社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー、中小企業診断士、宅建主任資格」など難関資格ばかり。
これには驚きました。
ゲーム機をこういう学習機として使えるとは。
脳の体操的ソフトや眼力を高めるソフトなどは、CM で知っていたのですが。
Posted by: トロ~ロ | April 25, 2013 12:50 AM
池田清彦氏は生物学者としてはあまり評価が芳しくないように記憶しております。
http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/keijiban/Kuroki.html#sayonara
Posted by: Sad Juno | April 24, 2013 12:56 PM
小生は、学研の「2年のかがく」という雑誌に
算数の解説マンガを描かされたことがありますよ。
学校の先生の「数式」にそって描くのです。
しかし、ネームが数式中心なんで「横書き」。
このため、コマが横に非常に長くなる。
作画すると、変に間延びしてしまいます。
余計な「背景」も描けないですし…
ずいぶん苦労しました。
5年以上…7年だったか??
ちょっと忘れたんですが、
コマ構図の困難は、忘れられません!
Posted by: 長谷邦夫 | April 23, 2013 10:02 AM