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April 30, 2013

施川ユウキまつり

 今年のゴールデンウィークは施川ユウキまつり。

 新作三冊のうち『鬱ごはん』と『オンノジ』を読んで、あまりのすばらしさに興奮。『バーナード嬢曰く。』がご近所で見つからないので朝から車を飛ばして遠くの書店まで足を伸ばしてようやくゲット。

●施川ユウキ『鬱ごはん』1巻(2013年秋田書店、552円+税、amazon
●施川ユウキ『オンノジ』(2013年秋田書店、552円+税、amazon
●施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』(2013年一迅社、619円+税、amazon

鬱ごはん(1) (ヤングチャンピオン烈コミックス) オンノジ (ヤングチャンピオン・コミックス) (ヤングチャンピオンコミックス) バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)

 まずはわが家では、鬱すぎる、と評判の悪い『鬱ごはん』。えー簡単にいいますと、読むと心がめいってくる、裏『孤独のグルメ』です。

 就職浪人の主人公(♂)が、基本ひとりで食事をしながら考え込む内容のあれこれ。読者はそれをモノローグとして読むのですが、これがまあ、じつにネガティブ思考ばかり。

 食事の喜びというものがまったくない。というか食事がつらい。彼の食事はグルメとはほど遠いシロモノばかり。彼は食事をしながら考え続けます。食について、というより食にまつわるいろんなこと、とくにまわりの人間(店員、他のお客さん、単なる通りすがりのヒト)とのコミュニケーションを、考えて考えて考え抜いてしまうのです。

 いやひとごとじゃないですな。笑いながらも涙なくしては読めません。しかもこれが1巻で、まだまだ続くというのが驚き。

     ◆

 そして『オンノジ』。

 ある日突然、世界から人間と動物がいなくなってしまった。ただひとり残されたのが書影の小学生女子ミヤコ。世界も異常ですが、この子もタダモノではない。

 空想好きの彼女はひとりきりではあっても、それなりに楽しそう。「サナギさん」が非日常に放り込まれたらこんな感じになるのかな。

 世界に自分以外に誰も存在しないと思っていた彼女の前に現れたのは一羽のしゃべるフラミンゴ(!?)。彼はもと中二男子で、彼につけられたあだ名が「オンノジ(御の字)」です。

 オンノジも、ミヤコほどではないけれどなかなか腹の据わった人物、というか鳥で、無人の街でふたりの生活はのほほんと続いていきます。そしてついに世界の謎が解ける日が…… 来るのか来ないのか?

 もちろん、この非日常世界は震災後の日本です。変貌した世界で生き続けるわたしたち自身をほのぼの四コマギャグで描いた作品。なんというアクロバティックなことを。まいりました。

     ◆

 二作がとんでもなかったので、『バーナード嬢曰く。』はどうなることかと思ったのですが、これはいつもの施川ユウキ作品のクオリティ。むしろほっと安心したというか。

 主人公は「バーナード嬢」というあだ名の高校生女子。あだ名といっても本人からこう呼んでくれ、というリクエストなのですが、どうも彼女、バーナード・ショーをまちがえて覚えているらしい。

 彼女は「読まない読書家」であり、周辺に読書家であることをアピールするために図書館にいる少女。

 書影にあるとおり、「一度も読んでないけど わたしの中ではすでに 読破したっぽいフンイキになっている!!」なのです。

 彼女にツッコミをいれるのが、一般的な読書家である遠藤くんと、SFマニアの神林さん。

 というわけで、神林さんの登場する後半は、SFネタ満載。裏表紙イラストにあるごとく、「ディックが死んで30年だぞ! 今更初訳される話がおもしろいワケないだろ!」

 バーナード嬢もわたしたち自身です。なにかをなそうとしても一歩も進めない、何者でもないわたしたちですが、それでも何者かであるようには見られたい。

 ちなみにわたしはまったく読書家ではないしSFもよく知らないし、主人公とよく似たタイプ。でも読んでない本の話も、おもしろく楽しく感じるから不思議ですね。

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April 22, 2013

おとなの学習マンガ『まるまる動物記』

 手塚治虫がよく語っていたのが、教育メディアとしての学習マンガの有用性。マンガは教育にも役に立つんだぞ。

 こどものころのわたしはこれを、マンガ否定派に対する手塚の方便だと思っていました。マンガの神髄は物語性にこそあり。そして反体制的、反社会的な何かを含むものなんじゃないか(だってマンガの存在そのものが学校や家庭で否定されてたしね)。

 「俗悪な」マンガが社会から糾弾されているのに対し、学習マンガは学校の図書館とか児童館にいっぱい置いてある。何かこう、体制に取り込まれたお利口さんに見えちゃってたんですね。

 いや若かったとはいえ、考えが足りなかった。学習マンガは戦前から名作が多く存在し、戦後日本で高度の進歩をとげ、現代でも多くのチャレンジャーを生んでいる分野なのです。

 戦前の大城のぼるは、戦後学研のムロタニツネ象は、いかにすばらしい学習マンガを描いたか。近年でも、日高トモキチや鈴木みそによる、意欲的なおとな向け学習マンガがあります。

 物語マンガの枠内でも、白土三平マンガは学習マンガの部分がありますし、『もやしもん』なんか学習マンガそのものじゃないかっ。海外に目を向ければ、スコット・マクラウドのマンガで描かれた『マンガ学』などが存在するわけです。

 で、これ。

●岡崎二郎『まるまる動物記』全二巻(2012~2013年講談社、648~743円+税、amazon

まるまる動物記(1) (アフタヌーンKC) まるまる動物記(2)<完> (アフタヌーンKC)

 本書はSFマンガ家の著者による学習マンガ。マンガによる科学エッセイというべきかもしれません。このたび二巻で完結。テーマは「地球」の「動物」がいかに多様で複雑な「生」を持っているか、です。

 コオロギやカマキリのセックスは。宇宙をめざして飛び立ったミツバチの運命は。性淘汰とは何か。進化とは何か。本能とは、学習とは。いやー奥が深い話題ばっかり。

 作中動物が擬人化されて語り合ったりお芝居をしたりする間に、キャプション=四角のフキダシで作者が読者に話しかけるという、昔ながらの学習マンガの形式ですが、これ懐かしくていいなあ。でも内容はむちゃ高度。

 なんつってもすべての話題がどこかからの引き写しではなく、作者自身が消化して新しいことを付け加えながら語ってくれてるのがすばらしい。

 収録された各作品には、生物学者の池田清彦によるエッセイが付記されていて、そこでは作品内容に対してそれはちょっと……とか、それはひとつの仮説……とかツッコまれているのですが、これもふくめて、生物学、そして科学はヒトスジナワではいかないのがよくわかってじつに楽しいのです。

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April 12, 2013

手塚的なものとは『ブラック・ジャック創作秘話』

 はじめは一巻完結だと思ってたのですが、続いてますねー。

●吉本浩二/宮崎克『ブラック・ジャック創作秘話 手塚治虫の仕事場から』3巻(2013年秋田書店、648円+税、amazon

ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~ (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ) ブラック・ジャック創作(秘)話~手塚治虫の仕事場から~ 2 (少年チャンピオン・コミックスエクストラ) ブラック・ジャック創作(秘)話~手塚治虫の仕事場から~ 3 (少年チャンピオン・コミックスエクストラ)

 この巻には、手塚のアシスタントだった石坂啓・高見まこの体験談、秋田書店編集者・阿久津邦彦の話、手塚治虫と孫悟空の話、の三話を収録。

 わたしも手塚関連の文献はひととおり押さえているつもりだったのですが、手塚先生のエピソードはいくらでも出てきますね。それだけ巨人であり、奇行のひとでもあったということでしょう。

 今回感心したのは孫悟空というキーワードで手塚の人生を切りとった「手塚治虫と6人の孫悟空」。こういう視点もあったか。読みものとしてよくできてました。

 ただしそれぞれの作品の掘り下げは浅い。って、それぞれを追求するようになると、マンガじゃなくて研究書になっちゃいますね。

 手塚治虫の功績、あるいは後世に与えた影響というのはいっぱいありすぎて挙げていくのがタイヘンなのですが、まずマンガでは「悲劇の導入」、これでしょう。

 手塚マンガの「悲劇」は「主要登場人物の死」と言い換えてもいいかもしれない。手塚マンガではともかくたくさんのキャラが死ぬ。敵、味方、さらには主人公までも。いつ誰が死ぬかわからない。読者は緊張を強いられます。予定調和を廃したストーリーが手塚マンガの特徴です。

 手塚自身はこういう悲劇や死を、自分の「泣かせるコツ」であると称していましたが、これも手塚お得意の韜晦かもしれず、本心はどうだったのかわかりません。

 手塚治虫が東映動画「西遊記」で、孫悟空のガールフレンド、ヒロインとなるリンリンの死を主張し、東映側と衝突したことは本書にも描かれていますが、これがのちの宮崎駿による手塚批判の遠因だったりするのだと思います。

 しかし先人としての手塚治虫がいたからこそ、日本マンガやアニメは悲劇や死をどんどん描くことができるようになったのです。

 さてアニメにおける手塚治虫の功績(もちろん批判の対象にもなるのですが)は「動かないアニメ」あるいは「少ない枚数のアニメ」の開発、なのじゃないか。

 最初は経済的・時間的制約で始まったものが、後継者の手によりしだいに表現として成熟していく。宮崎ルパンや庵野エヴァだって、「枚数を減らして」「動かさない」を追求した部分があるわけですしね。

 「化物語」も「リリカルなのは」もそう。古典的な「動く」ディズニーアニメとは別方向に進歩したのが日本アニメです。「鷹の爪」を例に出すと怒られるかな。

 アニメーションにおけるロトスコープといえば、フライシャーやディズニー、ラルフ・バクシ「指輪物語」など「動く」アニメを思い浮かべるのですが、今評判になってる「悪の華」は、ロトスコープなのになんと静的な。

 これも日本的、手塚的なアニメだと思います。毀誉褒貶相半ばするのも、手塚アニメ的だなあ。

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April 06, 2013

色で描く光と影『闇の国々』3巻

 ドメスティックに太平の世を謳歌していた日本マンガ読者。そこに海外から衝撃を与えた黒船、『闇の国々』もいよいよ三巻目となりました。

●ブノワ・ペータース/フランソワ・スクイテン『闇の国々』3巻(関澄かおる/古永真一/原正人訳、2013年小学館集英社プロダクション、3800円+税、amazon

闇の国々 (ShoPro Books) 闇の国々II (ShoPro Books) 闇の国々III

 出版社からご恵投いただきました。いつもありがとうございます。

 第三巻に収録されているのは三作。「ある男の影」、「見えない国境」、そして番外編の「エコー・デ・シテ」です。

 とくに第三巻はカラリングがすごい。この巻では色のついたBDの魅力が堪能できます。

 「ある男の影」は、自分の影に色がついてしまった男の悲喜劇。当然ながらモノクロでは描けないマンガです。すばらしいのはストーリーと密接に連動している光と影のカラー表現。遠景はドローじゃなくてペイントで描かれてます。

 日本マンガはモノクロに特化して表現を進歩させましたが、そのぶんカラー表現は海外作品よりずっと遅れているんだよなあ。

 「見えない国境」は2001年に美術出版社から発行された「エラー」という雑誌に、冒頭部分だけ訳出されたことがありました。10年以上たって、やっと完訳におめにかかれたわけで感慨深い。

 テーマは地図。地図は現実をうつしとるカガミであるはずなのに、逆に地図が現実世界を支配するようになる…… といういかにも『闇の国々』らしい作品。

 で、最終ページ(p236)の絵を見て、あっと驚いた。そうか、そういう寓話かー。そういえばp143の絵も何か変だなと思ってたんだよー。だいたいp240の絵だって、読者の前にずっと示されてるんだしなー。気づいてなかったわたしがバカでした。(ほとんどレビューになってない文章ですみません)

 「ある男の影」「見えない国境」は、シリーズ後半の作品ですから、すでに前二巻でおなじみとなった登場人物たちとも再会できて、これも楽しい。

 番外編の「エコー・デ・シテ」は、二巻に収録された「古文書官」と同様に、『闇の国々』シリーズのまだ描かれていない多彩なエピソードを紹介したものです。「古文書官」はエピソードの断片が古文書の形で発見されますが、「エコー・デ・シテ」ではそれが新聞/雑誌記事の形になってます。

 おなじみの登場人物、ユーゲン・ロビックやワッペンドルフ以外にも、ジュール・ヴェルヌやヴェルヌが創造したミシェル・アルダンなんかも登場してて、読者の想像力をずいぶんかき立ててくれます。しかしそれも、それぞれの記事に付されたイラストの圧倒的画力があってこそです。

 邦訳は全四巻で完結予定。刮目して待つべし。

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