色で描く光と影『闇の国々』3巻
ドメスティックに太平の世を謳歌していた日本マンガ読者。そこに海外から衝撃を与えた黒船、『闇の国々』もいよいよ三巻目となりました。
●ブノワ・ペータース/フランソワ・スクイテン『闇の国々』3巻(関澄かおる/古永真一/原正人訳、2013年小学館集英社プロダクション、3800円+税、amazon)
出版社からご恵投いただきました。いつもありがとうございます。
第三巻に収録されているのは三作。「ある男の影」、「見えない国境」、そして番外編の「エコー・デ・シテ」です。
とくに第三巻はカラリングがすごい。この巻では色のついたBDの魅力が堪能できます。
「ある男の影」は、自分の影に色がついてしまった男の悲喜劇。当然ながらモノクロでは描けないマンガです。すばらしいのはストーリーと密接に連動している光と影のカラー表現。遠景はドローじゃなくてペイントで描かれてます。
日本マンガはモノクロに特化して表現を進歩させましたが、そのぶんカラー表現は海外作品よりずっと遅れているんだよなあ。
「見えない国境」は2001年に美術出版社から発行された「エラー」という雑誌に、冒頭部分だけ訳出されたことがありました。10年以上たって、やっと完訳におめにかかれたわけで感慨深い。
テーマは地図。地図は現実をうつしとるカガミであるはずなのに、逆に地図が現実世界を支配するようになる…… といういかにも『闇の国々』らしい作品。
で、最終ページ(p236)の絵を見て、あっと驚いた。そうか、そういう寓話かー。そういえばp143の絵も何か変だなと思ってたんだよー。だいたいp240の絵だって、読者の前にずっと示されてるんだしなー。気づいてなかったわたしがバカでした。(ほとんどレビューになってない文章ですみません)
「ある男の影」「見えない国境」は、シリーズ後半の作品ですから、すでに前二巻でおなじみとなった登場人物たちとも再会できて、これも楽しい。
番外編の「エコー・デ・シテ」は、二巻に収録された「古文書官」と同様に、『闇の国々』シリーズのまだ描かれていない多彩なエピソードを紹介したものです。「古文書官」はエピソードの断片が古文書の形で発見されますが、「エコー・デ・シテ」ではそれが新聞/雑誌記事の形になってます。
おなじみの登場人物、ユーゲン・ロビックやワッペンドルフ以外にも、ジュール・ヴェルヌやヴェルヌが創造したミシェル・アルダンなんかも登場してて、読者の想像力をずいぶんかき立ててくれます。しかしそれも、それぞれの記事に付されたイラストの圧倒的画力があってこそです。
邦訳は全四巻で完結予定。刮目して待つべし。
Comments
1巻をここのblogで紹介されていたときに知り、それからお気に入りにの作品になっているのですが、まさか完結まで続くとは思っていませんでした。
純粋に嬉しいです。商業的にも成功してるってことでしょうか?
Posted by: note | April 07, 2013 02:28 PM