ホラーはなんでもあり『寄生少女』
その昔、蛭子能収や根本敬を読んだときの感覚に似てる……?
●三条友美『寄生少女』(2013年おおかみ書房、1200円+税、通販サイト)
編集協力された白取千夏雄氏経由で、発行元からご恵投いただきました。ありがとうございます。
作者はあの、三条友美です。「三流劇画」の時代から活躍している大家。1990年代に発売された、スカトロにあふれた奇想のSMエロ劇画、大長編『少女菜美』はとくに有名ですね。今アマゾンで検索したら、久保書店から復刊されてて現役で買えるのにびっくりした。
うちの書庫から『少女菜美 第2部第5巻肛欲美少女編』というのを発掘してきました。えー、この巻のストーリーは、と要約するのもアレなので、前巻までのあらすじを一部引用しておきます。
16歳の普通の女子高生だった菜美は莫大な借金を返済するためSMクラブで働き出した。……七人の邪神の強者どもが、菜美の肉体を狙って動き出したが、菜美だけではなく、妹の有紀子や恋人の伸一までをも巻き込んだ。有紀子は七人の邪神の一人、早乙女氏の手により豊胸、抜歯、逆白粉彫りの手術を受けさせられ、伸一は性転換の手術をさせられ……
いやもうなんともうしますか。読み直しててぼうぜんとしてしまうような作品。あともひとつひっぱり出してきた『性少女伝説・沙紀』(1994年)という作品は、全寮制の女学校に編入した少女が処女のまま陵辱され、千年王国実現のために大淫婦として再生し、日本と世界の政治を支配する……というとんでもない展開に。
さて『寄生少女』はエロじゃなくてホラー短篇集。ぶんか社の少女向け雑誌(!?)「ホラーM」に掲載されたけど、単行本化されなかった作品を集めたものです。ネットサイト「なめくじ長屋奇考録」の主催者、劇画狼氏が作品に惚れ込んで出版されたそうです。ブロガーのカガミです。
本書はいわゆるドージンシの自費出版。ISBNコードはありません。しかし造本がすばらしい。A5判ソフトカバーですが、中の紙はケバだつことなく上質。驚いたのはカバーをとると現れる表1と表4。ここって大手の単行本ではほとんど一色か二色です。本書では超美麗な四色カラーで、これすばらしい。
さて内容は。いや腰が抜けた。奇想全開。一部は雑誌で読んだこともあったのですが、まとめて読むと壮絶。
登場人物も作者もみんなコワれてます。ヒドイ。どうかしてます。お話としては破綻してますが、全作イキオイで突っ走る。ひとの十倍ぐらいマンガを読んできたと自負するわたしが、本を投げ出してしまったぐらいすごいです。
登場人物がみんな、なぜそんな行動をっ、というようなことしかしない。で、当然ながら不幸で残酷でグログロな結末をむかえるのですが、彼女たちは快楽の果てに死んでゆくのです。ホラーなのかSMエロなのかわかりません。
作者はエロ以上にホラーで好き勝手やってます。わたしなどは、こういうのも日本マンガの「誇るべき」一側面である、と考えちゃうのですが、さて世間的にはいかがでしょうか。日本マンガの極北がここにあります。
ストーリー紹介自体がネタバレになるので、とりあえず「なめくじ長屋奇考録」で紹介されてる作品でも読んで下さいな。
あと最近の作品らしく、YouTube上に広告動画があります。これ、かっこいいっす。
●〜史上最恐ホラー漫画「寄生少女」by三条友美 ついに発売!
●ホラー漫画「寄生少女CM)サブリミナルバージョン
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Comments
ご紹介いただき、ありがとうございます!
「なんじゃこりゃあ!?」という、漫画を読んだ時にこれまで感じたことのないものを感じたいがために、自分は「ガロ」で働き、セイシュンを捧げてきた気がします。
病気を得てもうこんな仕事にあたることもないかとも思いましたが、ああ、大阪に元気なバカがいて同じ事を考えていたという…。
「日本マンガの「誇るべき」一側面である」
まさに、その通りだと思います。
「ガロ」にしても、エロ劇画にしても、読者はおろか批評家や研究者と称する方たちからも一顧だにされなかった作品も多々ありますが、それらもまた、日本マンガの一部であり、下支えをしてきた側面もありますよね。
カバーを取った表紙はぜひ、見て欲しい仕事だとささやかながら自負しております。(でも再現してくれたのはポプルスさんですが…)
Posted by: 白取千夏雄 | March 28, 2013 11:29 PM
「情熱のペンギンごはん」と「理髪店主のかなしみ」くらいしか思いつかない・・・・
参った。降参。
Posted by: トロ~ロ | March 28, 2013 01:01 AM
申し込みました。
久しぶりに、このテの作品を読みたいですね。
自分は「手塚論」を書き出しました。
ギャグナンセンス~の漫画史。これは
脱稿してるんですが、まだ、本には
なっておりません。
水声社注文なんで、いずれ…。
Posted by: 長谷邦夫 | March 27, 2013 12:50 PM