人名はムズカシイ
Rodolphe Töpffer(1799-1846年)は、近代マンガの祖としてやっと日本でも知られるようになってきた人物です。このドイツ系スイス人の名をいかにカタカナで表記するか、個人的にちょっとした問題でした。
「Rodolphe」は「ロドルフ」でいいとして、ウムラウト付きの「ö」は「オ」と「エ」の間の発音。ドイツ語の「pf」は破裂音の「プフ」ですが、これが日本人には難物の発音。さらに「fer」の部分は「フェル」と表記されることが多いみたいですが、実際の発音は「ファー」に近いのじゃないか。
こういう人物表記には日本語としての限界があるのは承知してますので、わたしとしては正確さを求めてるわけじゃありません。定説さえあればそれに従うのですよ。多数決で問題なし。
しかし多数決すら存在しないとき、どうしたらいいんでしょ。
「Rodolphe Töpffer」はこれまで、以下のようにさまざまなカナ表記をされてきました。
●ロドルフ・テプフェール
●ロドルフ・テプファー
●ルドルフ・テプフェル
●ルドルフ・テファー
●ロドルフ・トプファー
●ロドルフ・トッフェール
このなかでいちばんの珍訳は「ルドルフ・テファー」ですが、これは英語で書かれたスコット・マクラウド『マンガ学』邦訳での表記。英語風に読んでみたわけですね。
上記の中で一番古い表記は、ジェラール・ブランシャール『劇画の歴史』の邦訳(1974年)で使用された「ロドルフ・テプフェール」です。そして最近は、テプフェールのマンガとして初邦訳となった『M.ヴィユ・ボワ』(佐々木果訳)や、東北大学・森田直子の研究でも「ロドルフ・テプフェール」表記が使用されるようになりました。
今回発売された雑誌「ユリイカ 2013年3月臨時増刊号 総特集世界マンガ大系」(2013年青土社、1238円+税、amazon)でも、複数の場所に「テプフェール」が登場しますが、すべてこの表記で統一されてます。
それぞれの筆者がこの表記を選んだのか、ユリイカがそのように校正したのかはわかりませんが、これでまず決定でしょう。今後は、お願いですから新しい表記を発明しないでね。
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さて、最近わたしが少しずつ読んでるスペイン語のマンガがありまして、このシナリオを担当してるのが、Héctor Germán Oesterheld(1919-1978年)というひとです。
このかたアルゼンチン人で、世界マンガ史の中では重要人物のひとりになるのじゃないかと思うのですが、日本ではほとんど紹介されたことがないみたいです。で、このひとのカナ表記がまたむずかしい。
スペイン語なら「H」は発音せず「G」は「ヘ」なので、「エクトル・ヘルマン・オステルエルド」。しかし「oe」はドイツ語のウムラウト付き「ö」の発音でしょうし、スペイン語にはない母音のはず。となると「オステルエルド」じゃなくて「エステルエルド」と表記する手もある。
お父さんがドイツ系ですから、ここはドイツ語ふうに発音するのかもしれません。それなら「ヘクター・ゲルマン・オスターヘルド」か「ヘクトル・ゲルマン・オステルヘルド」か。
いやもうどうでもいい話なんですけどね。これってテプフェール問題みたいに解決する日がくるのでしょうか。
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Comments
「テプフェール」読みは低地風(ベルギー、オランダなどのフランドル地方)じゃないでしょうか。
pff は破裂音ではないかと思うので、カタカナ書きしたら、トッファー とか テップファー に近いかも知れません。アクセントは破裂音部分に置きます。
アルヘンチナのかたの読み方は、エクトル・ヘルメン・エステルド に一票入れたいです。こう読むとヒスパニックっぽいドイツ風の名前って感じがしませんか。
Posted by: トロ~ロ | February 18, 2013 12:28 AM