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February 06, 2013

古くて新しい『あんずのど飴』

 高校二年生の娘に聞くと、一年生が持ってるのはスマホばっかりだし、二年生でもガラパゴスケータイは少数派になっちゃったそうです。

 ガラケーがどんどんシェアを減らしている現在、ケータイマンガという形式にあまり未来はなさそう。一時はかなりに好況だったみたいですが、今はどうなんだろう。スマホだとマンガはどういうふうに描かれるようになるのかな。

 ただしケータイマンガはこういう作品も生み出したわけで。

●冬川智子『マスタード・チョコレート』(2012年イースト・プレス、1000円+税、amazon
●冬川智子『あんずのど飴』(2013年小学館、667円+税、amazon

マスタード・チョコレート あんずのど飴 (IKKI COMIX)

 『マスタード・チョコレート』は、人付き合いの苦手な少女が、美術系の予備校に通い、美大に進学し、友人たちとの交流の中でしだいに心を開いていく、というお話。ケータイサイトに一年以上連載されました。

 第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞も受賞したし、2012年の収穫のひとつでしたね。

 今回発売された新作『あんずのど飴』は、10年前の高校時代を回想する女性が主人公。同性の友人との微妙な関係の変化がじっくりと描かれます。

 『マスタード・チョコレート』同様、いやー少女マンガど真ん中だなあ、という読後感です。ただしお話の中にちらっと登場するマンガが、冬野さほ『ツインクル』だったり、かわかみじゅんこ『ワレワレハ』だったりしてて、いやこれは女子高生にしてはずいぶんとマニアックないい趣味だ。

 『あんずのど飴』も前作と同じケータイサイトに五カ月間二十回連載されたものです。

 二作ともモノクロで、人物も背景も単純な線で描かれます。それ以上に驚くのは、ケータイ画面で見るため、ちょっと縦長の同じ大きさのコマがずーーーっと続く、という現代日本マンガにあるまじきコマ構成。『マスタード・チョコレート』は一回の連載が16コマ、『あんずのど飴』は一回24コマでした。ともに紙の本になったときには一ページに四コマ収録され、このレイアウトが延々とくり返される。

 これって、コマの形を自由に変えられる、というマンガの武器を取り上げられちゃったてこと。でもこの制限された形式だからこそ、っていうところがあるんですよね。

 16コマをひとつの単位とするのなら見開き二ページに四コママンガを四本並べても同じようなものかもしれませんが、縦長のコマ、四コマで一ページ、16ないし24コマで一つのエピソードを形成、となるとずいぶん違うものになってるのです。

 こういう形式でつくられたマンガを読むと、ヒトコマヒトコマをじっくり眺めることになります。そして数ページ=連載一回でひとつのエピソードを完結させることをくり返す。これがマンガをゆったりとした心地よいリズムで読ませることになる。

 ケータイでヒトコマを一画面で読んでいくのと、紙の本で読むのでは作品の印象がずいぶんちがうのじゃないかな。この形式で描かれたマンガは「本」になってもハデなコマ構成ができないから、読者は作品に端正な印象を持ち、実際ほんとにそういう作品になってるという不思議。不自由で古典的な形式が、ひと回りして新しいものを生み出しているのです。

     ◆

 あと、これも同時発売。

●冬川智子『水曜日』(2013年小学館、667円+税、amazon

水曜日 (IKKI COMIX)

 著者のデビュー作『イケてない10代』の再刊。髪形をおだんごにするかどうか、スカートを短くするかどうか、で悩む女子高生の日常、というあるあるネタです。ウチの女性陣にはこっちのほうが評判が良かったりします。

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Comments

制約が新たな表現を生み出すというのは面白いものですね。
紙媒体でしかマンガを読まないのですがそれでも新たな表現に出会えるのがうれしくある一方で、デジタルコンテンツとしてならではのマンガ表現との出会いを逸しているのかもと寂しく思うところでもあります。

少女マンガの海野つなみ著『小煌女』は紙媒体雑誌での連載ではありましたが、8話までは携帯移植を見据えてのコマ縦横比固定という実験をしていたと著者自身が単行本2巻で明かしています。雑誌連載時から読んでいた私は、独特なコマ割だと思いつつもそれが縦横比固定ということにまったく気づいていなかったため単行本を読んでびっくりした次第です。他の読者の皆さんには明白だったんでしょうか…。

Posted by: ねむくま | February 19, 2013 07:03 AM

スマホの普及率は40%位と聞きます。
・電池がすぐに減る。毎日充電が必要。
・パケホーダイ利用だから月々5000円以上かかる。
・通話もアプリで行うからパケホーダイだけでOK。
・チャットのようなアプリもある。
・ゲームも遊べる。
という訳で学生諸君にはコミュニケーション・ツールとして孤立しない為にもスマホは必須なのかもしれません。

私の様なロートル人種はまだガラケーで充分。
・月々の経費は1300円以下。
・通話とメールと写メくらいしか使わないので無料通話分毎月1,000円でやりくりできる。
・スマホより電池は長持ちする。

ところで携帯といえばストラップでしたが、スマホになってからは減ったような気がします。
その替りにというか、デコレーションしたり、着せ替えケースがあったり。

通話用にウィルコム(PHSの生き残り)、メール用にガラケー、という二挺使いのママたちもいるそうです。やっぱりママたちは長話なんですねー。

アニメやコミックや映画やドラマなど、情報機器の発達で古臭く見えちゃうのは、作る側の人々には可哀想な気がします。

話は変わりますが、おだんご髪は女性には受けが良くて、でも男性には一番受けないヘア・スタイルなんだそうです。
同意しちゃうなあ。

Posted by: トロ~ロ | February 13, 2013 01:14 AM

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