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February 27, 2013

『トーマの心臓』世界進出

 萩尾望都の代表作『トーマの心臓』が、やっと、という感じですが英訳、仏訳されてます。

●Moto Hagio 『The Heart of Thomas』(2013年Fantagraphics社、39.99ドル、日本amazon米amazon
●Moto Hagio 『Le Coeur de Thomas』(2012年Kazé社、19.99ユーロ、仏amazon

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 英語版を刊行したアメリカのファンタグラフィックス社は、古典コミックの復刻版を美麗な印刷で多く出版しているところ。『トーマの心臓』がこのブランドで出た、というのがちょっとすごいわけです。

 B5判のハードカバーで、日本版ならフラワーコミックスで全三巻でしたが、それを一巻にまとめたもの。二色印刷も再現していて、紙も良さそう。日本マンガと同じように右から左に進む右開きで出版されてます。

 YouTubeには紹介動画がありますのでどうぞ。

 いや豪華な一冊。1.5kgだそうですから重かろう。翻訳は京都精華大学のマット・ソーンで、これはいい訳に違いない。米アマゾンのカスタマー・レビューでは絶賛の嵐ですな。

 フランス語版はソフトカバーのA5判ですが、こちらも全一巻。訳は関口涼子と鵜野孝紀。これも信頼のブランドです。

 萩尾望都作品の英訳はすでにいくつかがなされてましたが、意外にも『トーマの心臓』のような重要作品が欠落してたのですね。日本少女マンガの歴史的作品が40年のときを経て、いよいよ世界に進出。なかなかにエポックメイキングな翻訳なんじゃないでしょうか。

 じゃ、次は偉大なる『ポーの一族』の翻訳だ! となるのですが、これはまだ英訳・仏訳されてないようです。ところが『ポーの一族』イタリア語版は存在するのですから不思議。

 タイトルは『エドガーとアラン・ポー』で、そうきたか。出版社のサイトはコチラです。

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     ◆

 さてWikipediaには各国語版があって、その国独自の文章で書かれてたり、海外の文章を丸写ししてたりいろいろなのですが、英語版Wikipediaの萩尾望都の項を読んでいてちょっと感心しました。

 英語版では萩尾望都のことを「"founding mother" of modern shōjo manga, especially shōnen-ai」と紹介してあります。「現代少女マンガの祖(とくに少年愛の分野では)」とでも訳しますか。なるほどー、「ファウンディング・マザー」かー。これって最大級の賛辞だなあ。

 日本では萩尾望都についてあまりこういう呼称はしません。日本人読者は萩尾望都以前にも少女マンガがあったことを知ってるし、彼女に影響を与えたであろう先人たち、とくに手塚治虫、石森章太郎、水野英子、矢代まさこなどが頭に浮かんでくるから。

 でも日本における前・少女マンガが現代・少女マンガとなったのは24年組の登場から、ともいえるわけですから、こういうふうにすぱっと割り切った紹介の仕方というのもありなのかな。

     ◆

 とか書いてたら、2010年文藝別冊の総特集・萩尾望都のサブタイトルが「少女マンガ界の偉大なる母」であると教えていただきました。ありがとうございます。しかしこういう文句が出そうな惹句を、河出書房新社はよくもまあつけたものだ。感心すると同時に賞賛。ぱちぱち。

萩尾望都 少女マンガ界の偉大なる母(文藝別冊)

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February 19, 2013

高齢者向けギャグ

 みなもと太郎先生から同人誌をご恵投いただきました。最新作は2012年12月31日発行の『風雲児外伝19 桜田門外の変』です。書影はこれ。

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 公式ファンサイト「風雲児たち長屋」で販売されてます。

 みなもと先生、昨年は文化庁メディア芸術祭マンガ部門の審査員主査もされてましたし、あいかわらず精力的に活動されてますね-。

 さてこの本の裏表紙、表4にあたるところのイラストがこちら。右は部分のアップ。

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 わたし、このイラストに大ウケしたのですが、なぜだかわかります?

 桜田門外の変の敵役兼主役は、もちろん井伊直弼です。「チャカポン」というのは井伊直弼のあだ名ですね(実話)。で、「チャカポンくん」は、井伊直弼、少年時代のバカエピソードを描いたマンガで、一回五~六ページの四回連載という形式。

 「チャカポンくん」は、赤塚不二夫以降に成立した狂騒的な「ギャグマンガ」じゃなくて、それ以前に存在した「ほのぼのゆかいマンガ」のフォーマットで描かれています。というわけで、この表4は、「ほのぼのゆかいマンガ」がまだ存在していた昔の月刊誌の、カラーページふうに印刷されているのです。

 かつてのマンガ雑誌のカラーページは四色じゃなくて黒を除いた三色刷りが多かった。三色刷りだとオモ線が微妙に黒じゃないのでそれなりに味がある、はず。

 ところがこの印刷はいわゆる「版ズレ」していて、多色刷りが失敗している。ってこういうことは昔の月刊誌には多かったのですよ。というか毎月フツーにずれてました。

 ウチの娘は「3D?」とか言ってましたが、ちがいますっ。

 高齢者にしかわからないギャグかもしれません。それにしてもカラー印刷を利用したギャグは、もしかすると空前?

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February 17, 2013

人名はムズカシイ

 Rodolphe Töpffer(1799-1846年)は、近代マンガの祖としてやっと日本でも知られるようになってきた人物です。このドイツ系スイス人の名をいかにカタカナで表記するか、個人的にちょっとした問題でした。

 「Rodolphe」は「ロドルフ」でいいとして、ウムラウト付きの「ö」は「オ」と「エ」の間の発音。ドイツ語の「pf」は破裂音の「プフ」ですが、これが日本人には難物の発音。さらに「fer」の部分は「フェル」と表記されることが多いみたいですが、実際の発音は「ファー」に近いのじゃないか。

 こういう人物表記には日本語としての限界があるのは承知してますので、わたしとしては正確さを求めてるわけじゃありません。定説さえあればそれに従うのですよ。多数決で問題なし。

 しかし多数決すら存在しないとき、どうしたらいいんでしょ。

 「Rodolphe Töpffer」はこれまで、以下のようにさまざまなカナ表記をされてきました。
●ロドルフ・テプフェール
●ロドルフ・テプファー
●ルドルフ・テプフェル
●ルドルフ・テファー
●ロドルフ・トプファー
●ロドルフ・トッフェール

 このなかでいちばんの珍訳は「ルドルフ・テファー」ですが、これは英語で書かれたスコット・マクラウド『マンガ学』邦訳での表記。英語風に読んでみたわけですね。

 上記の中で一番古い表記は、ジェラール・ブランシャール『劇画の歴史』の邦訳(1974年)で使用された「ロドルフ・テプフェール」です。そして最近は、テプフェールのマンガとして初邦訳となった『M.ヴィユ・ボワ』(佐々木果訳)や、東北大学・森田直子の研究でも「ロドルフ・テプフェール」表記が使用されるようになりました。

 今回発売された雑誌「ユリイカ 2013年3月臨時増刊号 総特集世界マンガ大系」(2013年青土社、1238円+税、amazon)でも、複数の場所に「テプフェール」が登場しますが、すべてこの表記で統一されてます。

ユリイカ 2013年3月臨時増刊号 総特集=世界マンガ大系 BD、グラフィック・ノベル、Manga...時空を結ぶ線の冒険

 それぞれの筆者がこの表記を選んだのか、ユリイカがそのように校正したのかはわかりませんが、これでまず決定でしょう。今後は、お願いですから新しい表記を発明しないでね。

     ◆

 さて、最近わたしが少しずつ読んでるスペイン語のマンガがありまして、このシナリオを担当してるのが、Héctor Germán Oesterheld(1919-1978年)というひとです。

 このかたアルゼンチン人で、世界マンガ史の中では重要人物のひとりになるのじゃないかと思うのですが、日本ではほとんど紹介されたことがないみたいです。で、このひとのカナ表記がまたむずかしい。

 スペイン語なら「H」は発音せず「G」は「ヘ」なので、「エクトル・ヘルマン・オステルエルド」。しかし「oe」はドイツ語のウムラウト付き「ö」の発音でしょうし、スペイン語にはない母音のはず。となると「オステルエルド」じゃなくて「エステルエルド」と表記する手もある。

 お父さんがドイツ系ですから、ここはドイツ語ふうに発音するのかもしれません。それなら「ヘクター・ゲルマン・オスターヘルド」か「ヘクトル・ゲルマン・オステルヘルド」か。

 いやもうどうでもいい話なんですけどね。これってテプフェール問題みたいに解決する日がくるのでしょうか。

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February 06, 2013

古くて新しい『あんずのど飴』

 高校二年生の娘に聞くと、一年生が持ってるのはスマホばっかりだし、二年生でもガラパゴスケータイは少数派になっちゃったそうです。

 ガラケーがどんどんシェアを減らしている現在、ケータイマンガという形式にあまり未来はなさそう。一時はかなりに好況だったみたいですが、今はどうなんだろう。スマホだとマンガはどういうふうに描かれるようになるのかな。

 ただしケータイマンガはこういう作品も生み出したわけで。

●冬川智子『マスタード・チョコレート』(2012年イースト・プレス、1000円+税、amazon
●冬川智子『あんずのど飴』(2013年小学館、667円+税、amazon

マスタード・チョコレート あんずのど飴 (IKKI COMIX)

 『マスタード・チョコレート』は、人付き合いの苦手な少女が、美術系の予備校に通い、美大に進学し、友人たちとの交流の中でしだいに心を開いていく、というお話。ケータイサイトに一年以上連載されました。

 第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞も受賞したし、2012年の収穫のひとつでしたね。

 今回発売された新作『あんずのど飴』は、10年前の高校時代を回想する女性が主人公。同性の友人との微妙な関係の変化がじっくりと描かれます。

 『マスタード・チョコレート』同様、いやー少女マンガど真ん中だなあ、という読後感です。ただしお話の中にちらっと登場するマンガが、冬野さほ『ツインクル』だったり、かわかみじゅんこ『ワレワレハ』だったりしてて、いやこれは女子高生にしてはずいぶんとマニアックないい趣味だ。

 『あんずのど飴』も前作と同じケータイサイトに五カ月間二十回連載されたものです。

 二作ともモノクロで、人物も背景も単純な線で描かれます。それ以上に驚くのは、ケータイ画面で見るため、ちょっと縦長の同じ大きさのコマがずーーーっと続く、という現代日本マンガにあるまじきコマ構成。『マスタード・チョコレート』は一回の連載が16コマ、『あんずのど飴』は一回24コマでした。ともに紙の本になったときには一ページに四コマ収録され、このレイアウトが延々とくり返される。

 これって、コマの形を自由に変えられる、というマンガの武器を取り上げられちゃったてこと。でもこの制限された形式だからこそ、っていうところがあるんですよね。

 16コマをひとつの単位とするのなら見開き二ページに四コママンガを四本並べても同じようなものかもしれませんが、縦長のコマ、四コマで一ページ、16ないし24コマで一つのエピソードを形成、となるとずいぶん違うものになってるのです。

 こういう形式でつくられたマンガを読むと、ヒトコマヒトコマをじっくり眺めることになります。そして数ページ=連載一回でひとつのエピソードを完結させることをくり返す。これがマンガをゆったりとした心地よいリズムで読ませることになる。

 ケータイでヒトコマを一画面で読んでいくのと、紙の本で読むのでは作品の印象がずいぶんちがうのじゃないかな。この形式で描かれたマンガは「本」になってもハデなコマ構成ができないから、読者は作品に端正な印象を持ち、実際ほんとにそういう作品になってるという不思議。不自由で古典的な形式が、ひと回りして新しいものを生み出しているのです。

     ◆

 あと、これも同時発売。

●冬川智子『水曜日』(2013年小学館、667円+税、amazon

水曜日 (IKKI COMIX)

 著者のデビュー作『イケてない10代』の再刊。髪形をおだんごにするかどうか、スカートを短くするかどうか、で悩む女子高生の日常、というあるあるネタです。ウチの女性陣にはこっちのほうが評判が良かったりします。

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