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January 04, 2013

明けましておめでとうございます

 年初の雑談でございます。

 小原篤『1面トップはロボットアニメ:小原篤のアニマゲ丼』(2012年日本評論社、1600円+税、amazon)読了。朝日新聞記者が朝日新聞デジタルに連載したオタクエッセイ。

1面トップはロボットアニメ: 小原篤のアニマゲ丼

 楽しく読みましたが、奥付を見てちょっと驚いた。コピーライト欄で「© The Asahi Shimbun Company」と記載してあるじゃないですか。

 著者はもちろん「小原篤」です。コピーライトのところには著者の名前も併記してあるのが当然、のように思いますがそうはなってない。著者が著作権者じゃないのですね。

 新聞社の記者が自分のところの新聞に業務で文章を書くときは、著作権は放棄しちゃうのかな。著者として将来自分の文章に手を入れたくなっても、朝日新聞の許可が必要。将来自分の文章を少しコピペしたくなっても、それをすれば盗作あつかい? なんかこう奇妙な感じですね。

     ◆

 邦訳されたアメコミはほとんどすべて読んでおります。最近はアメコミ映画が多いので、スーパーヒーロー・コミックもいっぱい邦訳されてます。日本人読者にとってアメコミはどうしても読み慣れないので、今年のベストはこれ! と手ばなしで推薦するのはちょっとむずかしいのですが、年末に出たこれはすごくいい! 

●マーク・ミラー/ブライアン・ヒッチ『アルティメッツ』(光岡三ツ子訳、2012年小学館集英社プロダクション、3200円+税、amazon

アルティメッツ (ShoPro Books)

 邦訳アメコミとしては破格にぶ厚い本です。映画「アベンジャーズ」のモトネタですが、映画よりヒネくれまくってるのが特徴。登場するヒーローたちがみんな、黒い心の持ち主か、バカ。

 スーパーヒーローたちが演ずる嫉妬と不倫と悪意と家庭内暴力の世界。いやーさすがに『キック・アス』のマーク・ミラー。ヒネてるわ-。正当派アメコミファンはひくでしょうが、アメコミは単純だからなー、というヒネたあなたにぴったり。

     ◆

 もうひとつアメコミで注目作品が、これ。

●『フラッシュポイント:バットマン』(2012年ヴィレッジブックス、3300円+税、amazon

フラッシュポイント:バットマン (DC COMICS)

 この中に収録されてるブライアン・アザレロ/エドゥアルド・リッソ「BATMAN: KNIGHT OF VENGEANCE(バットマン:復讐の騎士)」が絶品。

 アメコミでは「IF」の物語がよく展開されますが、本作も「もしブルース・ウェインとその両親が強盗に出会ったとき、殺されたのが両親じゃなくてブルースだったら」という「IF」の世界です。

 この世界でバットマンになるのは、ブルース・ウェインじゃなくてその父親のトーマス・ウェイン! という衝撃の展開なのです。だったらその世界でゴードン本部長やペンギンやジョーカーはどうなってるか、という物語。

 一種のパロディですが、オールタイムベスト級の作品。ちょっとすごいですよ。惜しいのは、この作品が「フラッシュポイント」という変則的なクロスオーバーの中の一篇であること。本書に収録されてるほかの作品を理解するには前作『フラッシュポイント』を読んでおく必要があります。

 でも本作だけならひとつの作品として成立してるんですよねー。ぜひともひとにすすめたい傑作、だけどコストパフォーマンス的にはなあ、という悩める作品なのです。

     ◆

 近藤ようこ/坂口安吾『戦争と一人の女』(2012年青林工藝舎、1000円+税、amazon)については、紙屋研究所さんのレビューがありますのでまずはそちらをどうぞ。

戦争と一人の女

 戦争と個人との関係はいかなるものなのか、を深く考えた意欲作です。ただしわたしは内容とはちょっとちがったところが気になりました。

 本作は坂口安吾の「戦争と一人の女」「続戦争と一人の女」「私は海をだきしめてゐたい」の三作を原作としています。

 「戦争と一人の女」は三人称ですが男の視点で書かれた小説。これに対して「続戦争と一人の女」は、同じ男女の物語を女の一人称で書いた小説。

 「私は海をだきしめてゐたい」は上記二作と同時期に書かれた作品。戦争への直接の言及はありませんが、ここに登場する女は、かつて娼婦であり不感症であるという点で上記二作と同じ題材なんでしょう。これは男の一人称で書かれています。

 近藤ようこはこれらの作品を再構築して、戦時下の男女の性愛を描きました。

 で、本作ではマンガ内のエピソードの進行とともに、女のモノローグと男のモノローグが交互に、あるいは同時に出てくるのですね。それぞれはフキダシの形が異なるので区別できます。

 ここで女のモノローグはすべて一人称なのですが、男のそれはモノローグというより厳密には男視点で書かれた三人称。ただし原作どおりに男の内面を書く一人称も混じることになります。ここがひっかかるところ。

 すらっと読ませるためには、男のモノローグも原作を離れてすべて純粋な一人称に統一すべきでしょう。著作権切れてるから、セリフなどを改変しても怒ってくるひとはいないはず。しかし近藤ようこは坂口安吾のオリジナル文章を書き直すことをしなかった。

 読みやすさを捨てて、あえてオリジナルを尊重。その結果、読むのにひっかかるけどそのぶん読者にとって作品の理解が深くなる、という結果になってるのじゃないか。脚色とはどうあるべきか、マンガにとって読みやすさは第一なのか、とかいろいろ考えさせる作品でありました。

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Comments

「アニマゲ丼」の著作権ですが、「コラムの筆者は私ですが、社員である記者が業務として社の媒体に書いたものなので新聞に載ってる1個1個の記事と同じく、「アニマゲ丼」は(C)朝日新聞社」なんだそうです。

http://www.asahi.com/showbiz/column/animagedon/TKY201212160032.html

Posted by: Sad Juno | January 05, 2013 11:27 AM

長谷邦夫さんの高校生のお孫さんが、アメコミのカバーイラスト集豪華版(原書!)を持って来て見せてくれたのだそうです。
もはや、オジイチャンが孫に教えを請うようになったとか。
なんかもう、すごいッス。

Posted by: トロ~ロ | January 05, 2013 04:47 AM

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