書店員が世界を廻す
タイトルは釣りです。
さてマンガ系年末ベストテンも各社のものがそろって一段落。次にくるのは来年の「マンガ大賞」かな。
●「ダ・ヴィンチ」2013年1月号(2012年メディアファクトリー、467円+税、amazon)
●「このマンガがすごい!2013」(2012年宝島社、476円+税、amazon)
●「フリースタイル21号 特集:THE BEST MANGA 2013 このマンガを読め!」(2012年フリースタイル、888円+税、amazon)
●「オトナファミ」2013年2月号(2012年エンターブレイン、657円+税、amazon)
「ダ・ヴィンチ」のアンケートに答えたのは、E-mailアンケート会員+書店員+リサーチ会社のアンケート会員。つまり一般読者と書店員ですね。小説とかも対象なのでマンガに投票したのが何人なのかはわかりませんが、有効回答は4625通だからちょっとすごい。
「本読みのプロ」としてマンガ系は6人のかたが参加してるけど、これも同様に集計されてるのかな? 大森望が海外文学として挙げた『闇の国々』はマンガとしてカウントされたのかどうか。
多数の一般読者によるランキングですから、人気投票となってしまうのはしょうがないところ。男性誌コミックが一位『銀の匙』、二位『ONE PIECE』、三位『宇宙兄弟』。女性誌コミックが一位『ちはやふる』、二位『君に届け』、三位『夏目友人帳』というのはほんと順当。順当すぎて驚きはないです。
「このマンガがすごい!」については先日書きましたが、オトコ編一位の『テラフォーマーズ』に関してはわたしまったくのノーマーク。「このマンガがすごい!」発売日の翌日には、新しいオビのついた『テラフォーマーズ』が書店に大量に平積みされてましたから、出版社も書店も、ブックガイドとして「このマンガがすごい!」のブランドをじゅうぶんに利用しているわけですね。
さてフリースタイル「このマンガを読め!」の一位は『ぼくらのフンカ祭』。こちらのほうがしっくりくるのはトシのせいでしょうか。もひとつ本年、特筆すべきなのが『闇の国々』が四位に入ったこと。この種のベストテンで、海外作品がここまで高得点を得たのはおそらく初めてのことでしょう。海外作品の邦訳が増えたことももちろんですが、日本人読者の意識が変化してきたのかもしれません。
また今年の「このマンガを読め!」は、選者が十作を挙げる方式に変更されました(昨年までは五作)。他のアンケートは三作とか五作ですから、この方式は結果にそうとう影響を与えたと思います。ちなみにわたし漫棚通信も「このマンガを読め!」のアンケートに参加して、自信の十作を挙げておりますのでよろしく。
「オトナファミ」の「コレ読んで 漫画ランキング BEST 50」は、全国3000店舗の書店員にアンケートしたもの。数千の単位ですから「ダ・ヴィンチ」に負けてません。
これがちょっと他のものとはちがった結果になってます。一位『暗殺教室』、二位『かくかくしかじか』、三位『マギ』。メジャーだけど、ちょっと裏メニュー的な作品、という感じなのでしょうか。これも書店員さんたちの「これを売りたい」と思う気持ちの反映か。
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こういうベストテンは、まず権威となるものがあって、それに対するカウンターとして出てきたものがおもしろい。映画なら「キネマ旬報」ベストテンに対抗する「映画芸術」ベストテンとか(今なら「映画秘宝」ベストテンのほうが有名なのかしら)。
「このミステリーがすごい!」も最初は、権威となってた「週刊文春」のベストテンに対抗して始まったんだっけ。「本屋大賞」も反「直木賞」で始まったらしいですね。
でも反権威もいつもまにか権威に変容していくのも世の流れ。今では「このミス」も「文春」も似たような作品を選んでるし、「本屋大賞」もすでに人気がある作品、映像化しやすい作品ばかりが賞をとって、あまりとんがった作品が選ばれない、という批判もあるようです。
マンガのベストテンも、もともとは出版社主催の漫画賞に対するカウンターとして登場したのだと思います。ただし宝島社が「このマンガがすごい!」で参入したときには、すでに「このミステリーがすごい!」ブランドがばっちり確立されていました。ですから「このマンガがすごい!」はむしろ最初から権威化していて、商売・販促として利用できるものでした。
このあたりが、おそらく「日の当たらないマンガに愛の手を!」という精神で始まったであろうフリースタイル「このマンガを読め!」とちがうところ、なのじゃないかしら(出版の意図は別にして、その影響や利用のされかたがちがう、と言う意味です為念)。
ほんとは「このマンガを読め!」のほうが「このマンガがすごい!」より少しだけ古いパイオニアなんですけどね。
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さて、とくに今年感じたのですが、マンガのベストテンって今や書店員さんたち抜きでは成立しない、くらいになってるのね。現在その影響はでかい。
「オトナファミ」のベストテンは書店員ばかりのアンケートですが、3000店舗というのがすごい。おそらく無報酬だと思いますが、みなさんきちんと協力してるんですね。
フリースタイル「このマンガを読め!」で書店関係者は50人中7人、14%ですが、「このマンガがすごい!」になりますとオトコ編が99人中24人で24%、オンナ編が76人中24人で32%とそうとうな高率を占めてます。
実際、今年の「このマンガがすごい!」で『テラフォーマーズ』がオトコ編トップになったのは、書店員さん票のおかげであることはまちがいありません。
「ダ・ヴィンチ」も内訳は公表されていませんが、書店員さんへのアンケートが施行されています。
さらにここ数年、大きく報道されるようになった「マンガ大賞」も、選者は書店員中心であると公表されています。これはこの賞が「本屋大賞」を参考につくられた、という経緯もあるのでしょう。
つまり、現在の日本マンガベストテンの多くが、書店員の手の平の上で踊っている…… いやいやいや、陰謀や談合や組織票や秘密結社を疑っているわけではありません。書店員さんたちはもっともマンガに接する人たちであることはまちがいないし、彼らのマンガに対する見識がしっかりしていれば、何の問題もありません。
賞やベストテンがマンガの売り上げに影響を与えるのは確かなので、書店としての協力は当然のことですね。
ただし将来への問題点がひとつ。今後さらに電子書籍化が進んでいくと、紙としては単行本化されないけど電子書籍としてはまとまって読める、というマンガも増えてくるのじゃないか。現実にそういう作品も存在しました。
現状、上記四つのベストテンのうち、対象として電子書籍が含まれているのは、フリースタイル「このマンガを読め!」だけ。多くのベストテンや賞は電子書籍を含んでいません。
そりゃま、電子書籍に賞をあげても、書店の売り上げにはなんら寄与しませんから。むしろ書店にとって電子書籍は敵。実際にわたしがキンドル本を買えば、ご近所でのその本の売り上げが一冊減るわけですし。
今後、各種マンガベストテンは対象としての電子書籍を無視することを続けるのか? もし対象にするにしても、選者の書店員さんたちは、完全に敵であるところの電子書籍に投票するのかどうか?
とか書いておったところ。昨日ご近所の書店に行ってみると、書店で電子書籍の販売をしていた。最近はそんなサービスも始まってるのね。街の本屋さんはたいへんだ。出版の将来はどうなる。
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