アメコミ雑感
アメコミ、なかでもメインストリームと呼ばれるヒーローものの邦訳について。近年は小学館集英社プロダクションとヴィレッジブックスによる出版が続いてます。
一時期壊滅状態だった小学館集英社プロダクションのアメコミ邦訳ですが、2009年に過去作品の再刊などで復活。2011年ごろからは精力的に新作が邦訳されてます。ジャイブはアメコミから完全に撤退しちゃったみたいですね。その代わりという形で2009年からヴィレッジブックスがアメコミ邦訳に進出。こちらもどんどん出版されてて、この二社の邦訳をフォローするだけで財布の中身を心配しなきゃならないくらい。
以下は2010年以降の小学館集英社プロダクションのメインストリーム系アメコミラインナップ(再刊含む)。書影をクリックするとアマゾンに飛びます。
そしてコチラは2010年以降のヴィレッジブックス。
二社の作品を並べててちょっと混乱するのが、本国でのストーリーラインが日本の出版社の枠を越えちゃってる件。たとえばバットマンのオリジンを描いたことで有名なフランク・ミラー/デビッド・マツケリー『バットマン:イヤーワン』(必読!)は現在、ヴィレッジブックスから発売されてます。
その続編としてつくられた『バットマン:ロング・ハロウィーン』と『バットマン:ダークビクトリー』もヴィレッジブックスから発売中。ところがこれらの作品のサイドストーリーとなる『キャトウーマン:ホエン・イン・ローマ』は小学館集英社プロダクションから発売されてるのです。
タイトルからわかっちゃうんでネタバレというわけでもないのですが、キャプテン・アメリカ死す!という大きな展開前後のストーリーはおおむねヴィレッジブックスで読めます。でもそこにいたる大きな流れは、小学館集英社プロダクションの『キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー』を読んでおかなきゃよくわかんない。
マーヴェルの大きなクロスオーバー『シビルウォー』はヴィレッジブックスから刊行されていますが、その直接の続きとなる『スパイダーマン:ワン・モア・デイ』『スパイダーマン:ブランニュー・デイ』は小学館集英社プロダクションから発売、というぐあい。
しかしここ数年、アメコミってそうとうな点数が邦訳されてて、しかもバラエティ豊か。アメコミ邦訳はいい感じの状況が続いてます。
小学館集英社プロダクションもヴィレッジブックスも魅力的な単発作品や過去の名作を多く邦訳してて、一冊だけ買って楽しむことも可能なラインナップになってます。両社ともアメコミの裾野を広げようと努力してますねえ。
わたしはアメコミマニアというわけではなく、たまに原書を買う程度のうすいファンですが、だからこそこういう状況は、いやほんとありがたいことです。
というところで雑感を。
アメコミ邦訳の歴史もすでに長くなり、各社がアメコミ邦訳にトライしてきました。知らないひとはおどろくかもしれませんが、少年ジャンプも創刊されたころにはアメコミを邦訳して掲載してたこともあるのですよ。
しかしアメコミって日本では、マニアやファンにはともかく一般的に受け入れられてるとはいいがたい。というかアメコミ邦訳の歴史はあざなえる縄がごとし。ちょっと盛り上がっては冬の時代、ちょっと盛り上がっては冬の時代、のくりかえしなのですね。
しかし長くアメコミを読み続けてるファンはそれなりに根性すわってて、ちょっとくらい邦訳が少なくなってもあわてません。数年たって何かが映画化されれば、出版も盛り上がるさっ、てなものです。
アメコミが日本で受容されにくい理由はいくつか考えられます。
まず、人物造形がちょっと、と感じるかたは多いみたいですね。古典的にアゴが張った長い顔、筋肉むきむきでタイツ姿のヒーローを、かっこいい存在として認められるかどうか。
そして読みにくく感じてしまう。マンガとアメコミの文法におけるいちばんの違いは「コマ内の時間経過」じゃないでしょうか。アメコミはヒトコマ内での時間経過が日本マンガの数十倍ありそうな気がします。
日本マンガが何とかヒトコマで一瞬を切りとろうと努力してるのに対して、アメコミってヒトコマに情報を詰め込んで、できるだけそのコマに読者の視点を停滞させようとしてる、みたいに見えるんですよね。
だから日本人読者はアメコミをすらすら読めないのでいらいらしてしまう。
そしてアメコミのシリーズ作品は数十年の歴史を持ってるのがあたりまえ。スーパーマンで70年、スパイダーマンだって50年ですからね。過去のストーリーをある程度理解した上で、途中から読み始めるのって、やっぱ入っていきにくいよなあ。キャラや悪役、多すぎるし。
でも最近はこの状況も変わってきてます。
アメコミの絵も日本マンガの影響を受けてずいぶん目が大きくなってるし、コマ構成も日本マンガのそれに近いものに変化してる(こともある)。ちょっとしたシーンに多くのコマを使うようになったってことですね。昔の作品に比べて日本人読者にもずいぶん読みやすくなりました。
シリーズの寿命が長すぎるっていうのは出版社のほうも承知してるらしく、最近のアメコミは何かというすぐ「ちゃぶ台返し」してて、世界が改変されたりキャラクターの人生がリセットされたりオリジンが語り直されたり。ですから新規にファンになるのもちょっとは楽になってるのじゃないかしら。
今はアメコミを読み始めるにはいい時期だと思いますよ。『ウォッチメン』や『ダークナイト・リターンズ』みたいなオールタイムベスト級の傑作も今なら入手可能だし。
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