幸福で不幸な『鉄腕バーディー』完結
ゆうきまさみ『鉄腕バーディー』終わっちゃいましたねー。
●ゆうきまさみ『鉄腕バーディー EVOLUTION』13巻(2012年小学館、524円+税、amazon)
『鉄腕バーディー』が全20巻。タイトルを変えた続編『鉄腕バーディー EVOLUTION』が全13巻。連載期間は10年におよびます。
12巻が発売されたときに全巻読み直して、最終13巻を読んだ上でもう一回全巻読み直し。いやーつくづく傑作だった。最終13巻の第3話までは。
一部ではジャンプのバトルものを少年マンガの「王道」と呼ぶ向きもあるようですが、歴史的にはバーディーのほうがよほど王道でしょう。
手塚石森以来のSFである。探偵対怪盗という古典的な構造をもち、正義対悪の戦いである。明朗活劇で、ストーリーとギャグのバランスが抜群。ちょっとエッチでオタク要素もはいってる。ほらほら王道じゃないか!
銀河連邦の女性捜査官バーディーが、地球に潜伏中の天才テロリストを追って捜査中、地球人の少年つとむを死なせてしまう。バーディーは少年に自分の肉体を提供して、ひとつの体にふたりの意識が同居したまま、昼間はつとむ、夜はバーディーに変身し、テロリストが計画する宇宙連邦をまきこむ陰謀の謎を追う……!
多数のエピソードやキャラクターがからみあっての複雑な展開、政治や陰謀も描かれてまさに圧巻。さらにSFの大ネタが仕掛けてあるという豪華さ。
テーマは大きく、正義とは何か、です。ゆうきまさみはパトレイバーでもこのテーマを扱ってましたが、本作でも主人公の考える正義、銀河連邦の考える正義、そして反逆者の考える正義が対立します。普遍の問題であり、悩める主人公もマンガの王道でしょ。
物語は大きな謎がいっぱい提出され、最近の展開ではそれぞれの伏線が回収されていってました。戦争の危機を回避するべく地球と銀河連邦の外交交渉が続くなか、各機関の思惑が入り乱れて……!? となっていよいよ佳境。すごくおもしろくなってきたところでした。
そこへもうすぐ最終回というアナウンス。ムチャしよるなー、というのは読者全員が感じたところ。
で、最終13巻が発売。その第3話のラストでついに星間戦争の戦端が開かれそうになる。そこからエピローグを含めて計6話で全編の終了。ラスボスの正体があばかれ、人間発祥の謎が解かれ、銀河連邦成立の経緯が明らかとなり、バーディーの活躍(?)で銀河連邦と地球の未来が決められる。
これだけページ数でなんとここまでのオチにもってくるか、という名人芸を見せてもらいましたが、やっぱさすがにムチャ。捨てられたエピソードも多く、表現もあっさり。物語内で数十年かけての深謀遠慮の結果、敵アジトへの突入方法がこれ、というのはちょっとなあ。作者の歯ぎしりが聞こえてきそうです。
『鉄腕バーディー』は日本のモノクロ週刊誌連載でこそ可能となった大長編エンタメ作品です。ストーリー、表現ともに現代日本マンガの頂点ともいうべきレベルに達している名作でした。皮肉なことにそのモノクロ週刊誌連載という形式が、作品のしめくくりをこういうものにしてしまいました。
編集方針や売り上げを理由にした非情な打ち切りはこれまでも他の作品で見てきた光景ではあります。OVA化やTVアニメ化されたほどの人気作品にして大長編が、クライマックスに向けて収束しつつある時期に終わらなきゃならない。
日本マンガの幸福と不幸が凝縮されているような最終巻でした。やるせないですね。
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Comments
ある程度のレベルの漫画家になったら、
きちんと契約して、連載するようにしないと駄目だろ。
打ち切り決定しても、最低1年の範囲は、
作者の意向を尊重して連載を続けられるようにさ。
作者も馬鹿じゃないんだから、本気で面白くない作品なら、
とっとと連載をやめるだろうし…。
バーディーって、普通に面白い作品だと思ったけどね。
(ただ、序盤は長いから、受け付けない人はいるだろうけど)
Posted by: Mania | August 20, 2013 01:34 AM
旧帝国軍はどこへ…… あと千明くんは王になるはずだったのでは……
Posted by: 漫棚通信 | October 01, 2012 09:50 PM
あとせめて一巻分あれば……と思わずにはいられませんでした。あきらかに回収できていない伏線があるのが特に痛い……
Posted by: Sad Juno | October 01, 2012 09:11 PM