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October 09, 2012

ほのぼのしんみりだけじゃない『ペコロスの母に会いに行く』

 書店ではマンガの棚じゃないところに置いてありました。

●岡野雄一『ペコロスの母に会いに行く』(2012年西日本新聞社、1200円+税、amazon

ペコロスの母に会いに行く

 予備知識がまったくなく、ぱらぱらと立ち読みをしてから購入。シュリンクしてなかったのでありがたかった。

 まずタイトルで「?」ですが、ペコロスとは著者のペンネーム。書影イラスト右のハゲたおっさんですね。そして左のばあちゃんが著者のお母さん。老いた母が老いた息子のハゲアタマをなでている図です。

 「会いに行く」とは著者の母が認知症となりグループホームに入所しているから。

 長崎のタウン誌に連載されたのち自費出版され、評判となって大手から出版されたそうです。

 著者は長崎在住のフリーライター62歳。母は夫が亡くなってからゆっくりと認知症の症状を悪化させていきます。物忘れ、幻覚、妄想…… 

 最初のほうは母の見せる老いと認知症を描いた日常エッセイマンガ。一篇が二ページ八コマ、あるいは数ページからなる小品が集められています。

 認知症の悲惨で残酷な部分をあえて避けて、ゆるく暖かく、ユーモアをもって描かれてます。かわいいまんまるの人物の絵柄もあって読後感はとてもいい。

 そして読んでいてやさしい気分になれる長崎弁もいい味出してます。母のところに死んだはずの夫が訪ねてくるエピソードがくり返し描かれますが、こういうのを読むとほんと、しんみりかつほのぼのしちゃうなあ。

 ところが後半の展開はちがいます。エッセイから離れて、母の人生や家族史が描かれるようになると、マンガ作品としてどんどん深化していく。キャラクターは現在と過去を自在に移動してそれぞれ数ページの小品ながら演出のテクニックが駆使され、しかもそれが読者の心を揺さぶる。

 そしてラスト、母の人生が現代史と交錯する一篇には驚愕のひとこと。

 作品全体のバランスを崩すほど重いこの一篇があってこそ、本書は傑作になりました。

 老いと認知症を描いた先行作には、高野文子『田辺のつる』、ひさうちみちお『精G』、パコ・ロカ『皺』などがありますが、本書も肩を並べますね。

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Comments

このエントリとは関係の話題ですが、ちょっと面白い試みがされているのでご報告します。

The Humble Indie Gamesという、中小のDeveloperが作った良質なゲームを何本かまとめてPay what you want方式で売るというチャリティーイベントがあります。そして集めたお金を作者とチャリティーと運営で分配(分配率はお金を払う人が任意に決められる)する仕組みで、今までで一番売れたときは60万セット、$510万の売り上げを出すなど大きなイベントになっています。その後こうしたBundleをチャリティーで売るということがゲームの世界では当たり前になっています。そしてオマケにコミックが付くということも何度かされていました(コミックが付くのは他バンドルの話ですが)。

もちろんオマケに付く程度のコミックですので、漫棚通信様はご存じかもしれませんが、私などはまるで知らないコミックでした。

ここまでが前置きです。

さて、今回はHumbleがeBookを集めてBundleでチャリティーを行うということを始めました。Sci-Ficの小説がほとんどなんですが、支払い時点でのみなが払う平均額以上を支払うと、なんと、Neil GaimanとDave McKeanのSignal to Noiseが付いてくるじゃないですか! NeilとMcKeanは私でも知ってる大家の先生です。

こうした動きが進んでいくと、そのうち一昔前のコミックを電子書籍の形にして、チャリティーで販売するということが(少なくとも)海外では主流になってくるかもしれません。まだ出版社が強く権利を持っていたり、権利関係が複雑に分散していてなにがどうなっているのかわからなくなってしまっているような作品は別として。

Posted by: note | October 10, 2012 06:35 PM

ええとつまり今回は、チャリティーで複数のeBookをある程度以上の値段で買うと、ゲイマン/マッキーンのグラフィックノベルがオマケで読める、ということですか。かなりの旧作ですがビッグネームですから、これは吸引力ありそうですね。

Posted by: 漫棚通信 | October 10, 2012 09:45 PM

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