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September 18, 2012

その顔を見よ『レオン・ラ・カム』

 ニコラ・ド・クレシーの邦訳も長編作品としては四作目。

●ニコラ・ド・クレシー/シルヴァン・ショメ『レオン・ラ・カム』(原正人訳、2012年エンターブレイン、3000円+税、amazon

レオン・ラ・カム

 出版社からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 今回は原作つき。シナリオ担当のシルヴァン・ショメはアニメーション作家。本作でルネ・ゴシニ賞を受賞してます。

 ルネ・ゴシニ賞はアングレーム国際映画祭で若いシナリオ作家に対して与えられる賞。名を冠されてるルネ・ゴシニは『ラッキー・ルーク』や『アステリックス』のシナリオで有名なひとで、日本でいうなら「梶原一騎賞」みたいな感じなのかな。

 パリの化粧品会社、フランスを代表するような大企業なのですが一族経営の弊害か、営業成績は悪化しつつあります。そこへ創業者であるレオンおじいちゃんが99歳にして世界放浪から帰ってきます。ところがこのおじいちゃんがただものではない。なんつっても「レオン・ラ・カム」とは彼の異名で、「麻薬のレオン」という意味なのですから。

 一族のなかで役立たずと見なされているジェジェ(腹をこわしてばかりで仕事ができない30歳童貞)は豪快かつむちゃくちゃなレオンおじいちゃんに引っ張り回され、仕事でも私生活でもたいへんなことに……!?

 とまあ痛快コメディ?ふうにストーリーを紹介してみましたが、じつはそんなにお気楽なものじゃなくて皮肉と悪趣味に満ちた展開が待ってるのですね。

 そしてド・クレシーの絵が作品をさらに複雑にします。あいかわらずド・クレシーは超絶的にうまい絵を描いていて、本作ではとくに人物描写が見もの。

 登場人物はじつに多く多彩ですが、どのキャラクターもみんな細かく描きわけられ、深いイイ顔してるんだ。しかもどう考えても悪意を持って描かれてるね、これは。キャラクターの顔を見てるだけで堪能できる作品ってのはそうそうないですよ。

 物語は悲劇的かつ喜劇的な地点に着地しますが、唯一の救いがラストに待っています。

 他のド・クレシー作品と同様に、本作も日本的エンタメからもっとも遠いところに存在するような作品です。そういうタイプの作品がこれだけ紹介されるってことは、日本人読者の許容範囲が広がったと考えるべきなのか。

 もしかすると日本でBDを好んで読んでる層はマンガ読者よりも、マンガも読む海外文学好き、みたいなひとが多いのかもしれません。

 きれいに終了したと思える本作なのですが、なんと完結編となるべき第二巻が存在してて、そっちはアングレームの最優秀賞を受賞してるそうです。これはもう邦訳してもらうしかないでしょう。本書がきちんと売れてほしいと願う次第です。

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