寺田克也の挿絵に笑った「ガソリン生活」
日本の新聞小説には毎回挿絵がついてます。新聞小説でも明治期の純文学系には挿絵がなかったものもあるそうですが、それをのぞいてほとんどすべての作品が挿絵つき。
もちろんこれは日本人にとって江戸の読本のころからの慣習なんでしょう。挿絵つき小説が江戸時代から現代のラノベにいたるまでの伝統かと考えるとちょっとおもしろい。
現代では紙に刷られた新聞そのものが存続の危機らしいので、新聞小説の未来もどうなるかわからないのですが、毎日毎日、小説を少しずつ、しかも挿絵つきで読むって貴重な体験ですよね。
のちに単行本にまとめられるときには挿絵のほとんどが収録されることはないのですから、挿絵つきのそれを読むことは、一日一日が一期一会の体験です。
わたしはかつて、朝日新聞に連載された長嶋有「ねたあとに」を高野文子の挿絵をお目当てに切り抜いて保存してました。のちに単行本化された小説を読んだとしても、また挿絵展を見たとしても、「挿絵つきの小説を読む」体験はそのときだけのもの。あとから追体験できるものではありません。このぜいたく感は新聞小説ならではです。
さて最近のお楽しみ、朝日新聞に連載されてる伊坂幸太郎「ガソリン生活」の挿絵は寺田克也です。
お話の語り手が自動車、マツダのデミオというのにちょっとびっくり。緑色の彼(←男かどうか不明ですが)はクルマ仲間からは「緑デミ」と呼ばれています。わが家のクルマも緑色のデミオなので親近感ありまくり。ちなみにわが家では「デミ夫」と呼んでいます(「スネ夫」の発音です)。
緑デミの持ち主である善良な一家が、有名人の奇妙な自動車事故や極悪な若者の犯罪にまきこまれる、というお話で、登場人物には悪人もいるけど善人が多くていい感じ。これに毎日寺田克也のイラストがついてるのだから眼福。
都会では夕刊連載だそうですが、田舎では朝刊に掲載されています。で、本日2012年7月18日「ガソリン生活」192回の挿絵に笑った。
以下はクルマどうしの会話。
「うちの細見氏はよく、見回りに来てるんだよ。まあ、こういう場所を見つけるのが得意なんだ。たぶん、細見氏なら、初めて出向いた惑星でも、不良のたむろする場所を見つけられるだろうな」
「惑星に不良がいるのか」
「どこにでもいるもんだ」
というわけで、この挿絵なわけです。
わはは、星の王子さまが不良化しておる。サン=テグジュペリもびっくり。小説としてはけっこう劇的な展開がある回なのですが、この会話に反応してこういう挿絵を描くか。単行本には絶対収録されないだろうけど、こういうのこそ新聞小説の楽しみですね。
Comments
初めまして。突然すみません。こちらの寺田克也さんの挿絵を集めた単行本が出版されるようです。一応お伝えしてみました。不躾に失礼いたしました。お返事等もご不要でございます。
Posted by: こばやしとらこ | March 02, 2013 08:21 PM