イタリアーンなマンガ:強烈!マダム・ブルータル
東映アニメ「UFOロボ グレンダイザー」がフランスで「Goldorak ゴルドラック」のタイトルで放映され大人気だったのは有名な話。そのグレンダイザーがイタリアに行きますと「Goldrake」という名前になります。1978年に放映。
「ゴルドラーケ」と発音するのかもしれませんが、イタリア語で「k」の文字は外来語にしか使用されませんので、ここは英語風に「ゴルドレイク」と読むみたいです。
フランスと同様イタリアでも大人気で、「Goldrake」と書いて自動翻訳させると「グレンダイザー」と訳されるぐらい有名な固有名詞になってます。「Goldrake」をグーグルで画像検索するとこうなります。グレンダイザーばっかし。→画像検索結果(※)
ところが、イタリア語で「マンガ」を意味する「fumetto」あるいは「fumetti」という言葉をつけくわえて、「Goldrake, fumetti」で検索するとこういう結果になります。→画像検索結果(※)
あれ、グレンダイザーとはちょっと違う、あやしげな画像がヒットしますね。さてこれはなんでしょうか。
えっとですね、これこそイタリアエロマンガ史上、最初期の作品『ゴルドレイク Goldrake』であります。
イタリアではまず「仮面をつけた犯罪者」のマンガが流行しました。1962年に始まった『ディアボリク Diabolik』がその代表的作品(なんと今でも続いてます)。
ディアボリクが登場するまでのイタリアマンガ界のヒーローといえば、西部劇マンガに登場する清廉潔白な主人公、みたいなのが主流でした。
そういう状況であったところに、60年代の世界的カウンターカルチャーの象徴として登場したのが、アンチ・ヒーローで仮面の犯罪者、ディアボリクたちであるといわれてます。まあもちろん、限りなく通俗的存在ではあるのですけどね。
ディアボリク、およびそのフォロワーである犯罪者が主人公の一連の作品を、「fumetto nero」と呼称します。「黒マンガ」すなわちブラックなコミックなわけですな。当ブログで紹介したマニウスが描いた『クリミナル』や『サタニク』も「fumetto nero」に含まれます。
これらのマンガは、単行本というか雑誌というか、粗悪な紙のポケット版の本で、街角のニューススタンドで販売されました。
「fumetto nero」はセックスアンドバイオレンスのマンガでしたが、直截のエロが登場するわけではありませんでした。しかし、1966年にこのフォーマットを利用して、イタリア最初のエロマンガが登場します。
始めたのは当ブログに頻回に登場するイタリアンエロマンガ界総元締め、編集者レンツォ・バルビエリ Renzo Barbieriです。その最初のエロマンガが『イザベラ Isabella』。続いて登場したのが『ゴルドレイク Goldrake』でした。
両方ともマンガを描いたのはベテランマンガ家のサンドロ・アンジオリーニ Sandro Angioliniです。もともと子どもマンガを描いてたひとですが、1966年以降おとな向けに転向。エロティックマンガブームに乗って自分でも出版社を作っちゃったりしてます。こういう絵を描くかたです。
書影左上が復刻版。その右が当時のポケット版書影です。「成人向けマンガ FUMETTI PER ADULTI」という表記があります。
イザベラはリボンの騎士やベルばら系統の女剣士でした。男装の麗人ですね。映画化もされてます。
いっぽうのゴルドレイクは男性スパイ。もちろん当時大流行の007を模倣してます。彼は金の銃弾を使用する大金持ちでもありました。
「Goldrake」を分解しますと「gold」は金、「drake」は16世紀イギリスの海賊フランシス・ドレイクをイメージしてるそうです。『Goldrake』というタイトルだったり『Goldrake Playboy』というタイトルだったりします。
主人公のビジュアルイメージはジャン・ポール・ベルモンド(※)。ちょっとファニーフェイスの彼が新しい世代や文化のアイコンであったというのは、今となっては理解しづらいかなあ。彼はゴダール作品のスターでもあったのですよ。
007と同様に西欧世界のスパイであるゴルドレイクは、東側国家や悪の秘密結社と戦うのですが、もちろん出会う女性すべてとエロエロな行為をくり返します。彼の相棒として活動するのははソ連KGBのスパイ、ウルスラ。彼女のモデルは、初代ボンドガールのウルスラ・アンドレスです(※)。
さて『ゴルドレイク』には強烈な悪役が登場します。レズビアンのサディスト「マダム・ブルータル Madame Brutal」。もちろんブルータルは冷酷、残忍、残虐という意味です。
ビジュアル的にも黒ビキニに黒マントふうの上着、顔全面をおおう黒マスクという強烈さです。
中国の秘密結社や悪のレズビアン組織に属して、主人公とその彼女たちをムチや拷問道具でいたぶるわけです。お話の途中、交通事故で右足を失いますが、これでますます主人公を憎むことになります。
それでは、マダム・ブルータルが登場するゴルドレイクの表紙イラストをご紹介。
マダム・ブルータルが登場するとスパイものやら何やら。何のマンガかわかんなくなりますね。
『イザベラ』と『ゴルドレイク』を皮切りに、イタリアでは1960年代後半から1970年代にかけて、エロティックマンガのブームが起こります。この時期には仰天するような作品とキャラクターがいっぱい登場してくるのです。いや調べ始めると楽しいったらないのですねこれが。
(この項続きます)
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