イタリアーンなマンガ:女吸血鬼がいっぱい(その1)
1960年代後半から1970年代にかけてのイタリアのエロマンガブームには、いろんなキャラクターが登場しました。なかでもとくに人気があったのが「女吸血鬼もの」です。
日本マンガにもいろんな女吸血鬼がいるみたいですが、わたしがまず思いうかべるのが『ポーの一族』のメリーベル、って古くてすみませんね。彼女の登場が1972年。
メリーベルはぜんぜんエロくはありませんが、これは女吸血鬼としては異例。アメリカにはセクシーなコスチュームのヴァンピレラ Vampirella がいました。彼女の登場は1969年9月ですね。イタリアの女吸血鬼たちはヴァンピレラよりちょっとだけ早く登場してますし、ずっとエロい。
だって首から血を吸う=首にキス=セックスなんですから、吸血鬼は存在そのものがエッチ。
イタリアのエロマンガで、まず最初に描かれた女吸血鬼が「Jacula」です。イタリア語の発音では「ヤクラ」ですが、イタリア語の「J」は外来語にしか使われませんし、もともと「ドラキュラ Dracula」から作った名前なんだからここは「ジャキュラ」と表記しておきます。
初登場は1969年3月。レンツォ・バルビエリ Renzo Barbieri の出版社から発売されました。キャラクターやストーリーのアウトラインを決めたのがレンツォ・バルビエリ、ペンシラーはジョルジオ・カンビオッティ Giorgio Cambiotti です。このかた、他のエロティック作品にも参加していますが、代表作はなんつっても『ジャキュラ』ですね。
『ジャキュラ』は1982年まで13年間続いて、全327巻。ってなんじゃそら。『ドカベン』もびっくり、というくらい発行されてます。あちらのコレクターのひとは大変だ。
この時代のイタリアでは、判型は日本の青年コミック(B6判)とほぼ同じ、ページ数は120ページほど、こういう形式のマンガ本が街角のニューススタンドで大量に売られていたのです。
それでは『ジャキュラ』の書影を。カバーアーティストは最初のころがレアンドロ・ビッフィ Leandro Biffi というかた。のちにジョルジオ・カンビオッティが属していた Studio Rosi というグループに交代しました。
ジャキュラはバンバイア・クイーンなので基本的に攻撃的なキャラに描かれることが多いみたいです。
さてお話は。
時代は1835年、ジャキュラという美しい少女(18歳、髪はブロンド)が母親とトランシルヴァニアのある街に住んでいました。それなりのお金持ち。ある夜、吸血鬼が彼女の家に侵入、眠っているジャキュラを襲います。そのどさくさで家は火事になり、母親は焼死。
葬儀の日の夜、ジャキュラが母親の墓の前で悲しんでいると、彼女の匂いにひかれた(別の)吸血鬼が墓からよみがえり、ジャキュラを襲う! とまあこの時代のトランシルヴァニアにはあちこちに吸血鬼があふれていたらしく、ジャキュラはお話が始まってすぐ吸血鬼になってしまいます。
そこへパリからヴァンパイア・ハンターのカルロ・ヴェルディエルが街にやってきて、墓場に住む吸血鬼を十字架と杭で倒します。ところがカルロはジャキュラに恋してしまい、彼女にキスなどを迫っておりますと、反対に彼女に咬まれて彼も吸血鬼になっちゃうのでした。
ふたりは仲の良い吸血鬼夫婦となり、夜な夜な街に出没してそれぞれ仲間を増やしていく。
真夜中になると墓場で吸血鬼たちの饗宴が開かれることになり、ジャキュラはその女王として君臨します。
いっぽう、このあたりの領主クルト・ソンタグ伯爵。普通の人間ですが権力者で変態性欲者。街から少女をさらってきては毒牙にかけたりしてます。彼の手下が、フクロウに変身することができる魔女アザリア。
彼らはジャキュラ夫妻と反目することになります。「吸血鬼夫婦」対「変態+魔女」。この二組の戦いの行方は……!?
というのが第一巻のあらすじ。
アンチ・ヒーローがさらに極悪な連中と闘う、というイタリアの「fumetto nero ブラックコミック」の伝統にそってますね。
ジャキュラはのちに狼男、フランケンシュタインの怪物、青ヒゲ、サド侯爵たちと出会ったりするそうです。
『ジャキュラ』の最初のほうはマンガとしてあまりエロくありません。しかし300巻以上もありますとそのうちにエッチ表現もエスカレートしていくことになるのです。
(この項続きます)
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