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June 24, 2012

イタリアーンなマンガ:エッチなツインテール

 ここは、みなさまが知りたくもないし知ったからといって何の役にもたたないこと(イタリアのエロマンガ史とか)が書いてあるブログです。

 さて本日はイタリアマンガにおけるツインテールについて。

 ツインテールって和製英語だそうですけど、後ろでひとくくりにするとポニーテール、両サイドでそれぞれくくるのをツインテールと称するようですね。

 英語ではツインテールのことをピッグテイル pigtail と呼びます。

 「ブタのしっぽ」は一本なのに、なぜ二本のツインテールをそう呼ぶのかよくわかりませんが、もともと中国の弁髪をさす言葉だったのが、いつのまにやら変化したみたいです。

 例を出しますと、チャーリーズエンジェルに出てきたツインテール=ピッグテイルがこれ。

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 こういうのは三つ編みに編み込んであるから、正確を期すならピッグテイル・ブレイズ pigtail braids というそうです。

 さて日本でもそうでしょうが、欧米でもツインテール=ピッグテイルは子供ですよーというサイン、お約束みたいなものです。

 ですからあちらのエロ方面には「 ピッグテイル・ポルノ pigtail porn 」というジャンルがあったりします。ああホントどうでもいい知識だ。

 エロ方面でツインテールが登場すれば、18歳以上だけど子供と思って見てね、という意味だったり、子供のように見えるかもしれないけど単なる髪形だかんね、という言い訳だったり。法的にはOKでも道徳的にはボーダーラインで、たいへん微妙なところですね。

 ツインテールを利用したエロというのは、もちろん最近始まったものではなく、昔から存在しました(さすがにどれくらい昔からあるのかは知りませんが)。

     ◆

 それでは1970年代、イタリアでの例を。

 まずはイタリアエロマンガ界の巨匠、レオーネ・フローロ Leone Frollo が描いたツインテール、『白雪姫ビアンカネーヴェ BIANCANEVE 』。レンツォ・バルビエリ Renzo Barbieri の出版社から、1972年から1978年にかけて全94巻が発売されました。

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 内容はもちろん、おとぎの国で白雪姫がいろいろとエッチなことをするマンガです。白雪姫のエロパロディというのは世界中に存在するでしょうが、おそらく最大のヒット作。フランス語版やスペイン語版も出版されました。

 最初のほうのお話は原作どおり、というかディズニーのアニメーションどおり。途中から巨人や半魚人や鳥人間やロビン・フッドみたいなのがいろいろと登場してきます。エッチを担当するのが白雪姫と継母である悪役の女王、ふたりいるからバリエーションがいろいろありますね。

 後半、絵の担当がレオーネから他のひとに交代しますと、エッチ度は上昇するけど絵の魅力がずっと下がってしまいます。

 カバーアートは、レオーネ自身が描いたものもありますが、多くは名匠アレサンドロ・ビフィナンディ Alessandro Biffignandi の手になるもので、これが絶品。

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     ◆

 もうひとりのツインテールは『魔女マゲーラ MAGHELLA 』。

 マンガを描いたのはディノ・レオネッティ Dino Leonetti です。1973年に週刊誌に掲載されたあと、独立誌となり1981年までに全140巻が刊行されました。ほぼ同時にフランス語版も刊行され、フランスでも大人気。

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 マゲーラの年齢は作中ではっきりしていて18歳。魔女といっても、かわいい系の魔女ですな。

 彼女が住んでいるのもおとぎの国です。ですからお話は基本的に伝説や童話やディズニーのパロディとなります。レオネッティの絵はフローロと比べるとずっとヘタなんですが、なんせキャラが立ってるしエッチシーンはかなり過激です。

 さらにカバーアートを担当したアヴェラルド・チリエーロ Averardo Ciriello によるマゲーラが、むちゃかわいくてエロい。もともと映画のポスターとかを描いてたひとですが、マゲーラで有名になっちゃった。

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 ツインテールというのは、日本におけるセーラー服よりも、エロの記号として有効なのかもしれません。

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June 20, 2012

イタリアーンなマンガ:女吸血鬼がいっぱい(その4)

 ここしばらくイタリアエロマンガ小史を書いております。下記のエントリの続きです。今回が最終回。

強烈! マダム・ブルータル
●女吸血鬼がいっぱい(その1
●女吸血鬼がいっぱい(その2
●女吸血鬼がいっぱい(その3


 イタリアエロマンガ界の総元締め、レンツォ・バルビエリ Renzo Barbieri が創造した四人目の女吸血鬼は『イーラ YRA 』です。

 登場したのが1980年。まだ前の三作が発売されている時期に、四匹目のドジョウをねらったわけですね。

 まず書影から。カバーアートはオリヴィエロ・ベルニ Oliviero Berni 。

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 あんまり魅力的な表紙じゃないなあ。でも中のマンガを描いてるのはビッグネーム。イタリアエロマンガ界の第一人者、レオーネ・フローロ Leone Frollo です。

 フローロは1931年生まれ。十代でデビューしたキャリアの長いひとですが、有名になったのはイタリアでエロティックマンガのブームがあったとき。

 マニウスやミロ・マナラがエロティックなマンガと一般作品を描きわけているのと対照的に、フローロはブームの初期からその終焉まで、さらにその後もずっとエロティックなマンガを描き続けています。まさにエロマンガの巨匠。

 やたらと絵のうまいひとで、とくに微妙な女性の表情と人間以外の怪物を描かせて右に出る者なし。イタリアのエッチなマンガを検索していて、あ、これかわいい、これうまい、と感じたら、たいていフローロ作品です。

 すでに『悪魔女王ルチフェラ LUCIFERA 』(時代は中世、現世と地獄を行き来する悪魔が主人公)、『白雪姫ビアンカネーヴェ BIANCANEVE 』(もちろんおとぎの国で白雪姫がエッチをするわけです)、『魔女ナーガ NAGA 』(ニコライ二世の娘アナスタシアが魔女になったという設定)などのヒット作があり、エロマンガブーム末期の80年代半ばにもパリの娼館を舞台にした『カジノ CASINO 』という作品を描いています。

 『イーラ』はフローロが得意とする、ドラゴンや怪物が跋扈する中世が舞台。そこにエッチな女吸血鬼が登場するという、まさにテッパンの企画、のはずでした。

 さてお話は。

 中世ヨーロッパ。純心で美しい農家の娘イーラが主人公。狩りに来た領主が彼女が飼ってる豚のせいで落馬してしまう。怒った領主は家来に彼女を襲わせます。

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 通りかかったドラゴンのおかげで彼らから逃れたイーラは、男装して追っ手をやり過ごそうとします。ところが男が好きな兵士がいて、彼に尻を犯されたりして。

 結局イーラは領主に捕まってしまいます。領主はイーラの両親を殺し、イーラをレイプしますが、彼女の抵抗で片目をつぶされてしまう。

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 地下の牢獄に閉じ込められたイーラを救いに来たのは、醜い魔女ロミルダでした。レズビアンのロミルダは美しいイーラを愛していたのです。

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 ロミルダの提案はこう。イーラがいったん死ねば牢獄を出られる。その後、吸血鬼として復活すればよいのだ!

 イーラはこれを受け入れ、ロミルダの計画どおり優しい少女から残酷な吸血鬼としてこの世によみがえり、領主への復讐を誓います。

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 いっぽう領主の息子サウル。父親に似ず善人でハンサムな彼は、運命のいたずらによりイーラに恋してしまう。ふたりはサタンに祝福され結婚しますが、領主はサウルを殺し、その肉体は料理され宴会に供されることに……!?

 フローロの絵が魅力的な『イーラ』でしたが、一年間で計12巻を刊行して終了。きわめて短命なシリーズとなってしまいました。

 最後の最後には新しくジンギスカンやマルコ・ポーロが登場したりしてますが、こういう物語の迷走も、販売不振による軌道修正の結果なのでしょう。レオーネ・フローロのような大物を起用したからといって、何でも売れる時代ではなくなっていたのです。

     ◆

 1980年代にはいるとイタリアのエロマンガも変化していました。さまざまなバリエーションのキャラクターたちがくりひろげる、奇天烈で能天気なセックス・ファンタジーは飽きられてきていたのです。

 それに代わって犯罪者たちが女性に対して暴力をふるいスプラッタな殺人が起こる、疑似実録ものシリーズが流行します。セックスシーンも性器の結合を明らかに見せるハードコア描写となっていました。

 「アチュアリタ(実話)」シリーズと呼ばれた一連のマンガがそれです。『ATTUALITÀ NERA 』『 ATTUALITÀ GIALLA 』『 ATTUALITÀ FLASH 』『 ATTUALITÀ VIOLENTA 』などの雑誌がありました。まさに、扇情的とはこれだ! みたいな表紙で、エロはますます直截的になっていきます。

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 さらにエロティックマンガのライバルは意外なところから出現しました。家庭用ビデオデッキの販売開始です。

 日本でも家庭用ビデオデッキの黎明期、その普及にはエロビデオの存在が大きな役割を果たしたといわれていますが、じつはこれは海外でも同様でした。科学と技術の進歩はエロの状況を変えてしまったのです。

 ビデオデッキの普及は、イタリアのエロティックマンガにとどめを刺したといわれています。

 ひるがえって日本では。

 エロマンガはいわゆる三流劇画から美少女系に姿を変え、なんとか生き残りました。劇画系の絵では映像のエロに対抗できませんでしたが、手塚治虫・吾妻ひでおを祖とする美少女系エロマンガは、それを可能とする破壊力を持っていたのです。しかしその代わり、日本のエロマンガは児童ポルノであるとの非難を受けることになります。

 と、このあたりのお話は項を変えるべきですね。

     ◆

 参考文献:ネット上のいろんな文章(多くはイタリア語)とこれらの本を参考にしています。

●アントニオ・カッシーリ/都築鏡一『 Spaghetti EROTICO:イタリア式エログロ漫画館』(2001年アスペクト、amazon
●Graziano Origa 『 Vietato ai minori. Vamp e vampire: Jacula, Zora, Sukia e Yra 』(2007年 Rizzoli 社、amazon

Spaghetti EROTICO:イタリア式エログロ漫画館 (ストリートデザインファイル) Vietato ai minori. Vamp e vampire: Jacula, Zora, Sukia e Yra

 前者は日本語の本ですが、いってみればカバーアートを集めた画集で不親切な解説がほんの少し。これを読んでもイタリアエロマンガの状況はあまり理解できないのが残念。

 後者の「 Vietato ai minori 」というタイトルは「未成年お断り」という意味ですね。当時のイタリアのエロマンガにはこの言葉か、あるいは「成人向けマンガ Fumetti per adulti 」という言葉が表紙に書いてあったのです。

 これは復刻マンガ+解説、というマニアックな本で、資料性も高くおもしろく読みました。でも当然ながら全編イタリア語です。

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June 18, 2012

吉川ロカ全曲集(改)

●「吉川ロカ全曲集」というタイトルのエントリ(2012年3月31日)でYouTubeで聞けるファドを紹介していたのですが、著作権問題でいくつかの曲とリンクできなくなっておりました。『文藝別冊総特集いしいひさいち』で、ちらっと当ブログが紹介されたのをきっかけに記事を修正していたら、ミスでエントリをまるまる消しちゃったみたいです(泣)。というわけで、記事をあらためて本日2012年6月18日づけでアップしなおしておきます。→その後、過去にさかのぼって2012/3/31にもほぼ同じ記事をアップしました。何やってんだか、どうもすみません。

     ◆

 朝日新聞連載四コママンガ、いしいひさいち『ののちゃん』の人気キャラ、吉川ロカのシリーズ、ついに終わっちゃいましたねー。そこでロカちゃんファンのわたしが、吉川ロカ史を語りましょう。

 実はマンガには彼女より先にバックバンド、というかギターデュオのふたりが早く登場しています。2009年3月のこと。ひとりはギター、もうひとりはギターラを手にしていました。ギターラというのは丸っこいポルトガルのギターのこと。まだバンド名も決まっていない状態で路上で演奏していたふたり。聞いているのはののちゃんだけ。歌ってるのも男の子ふたりです。

わたしたちの愛はろう細工のようにくずれ ああ不吉な春よ ああ不吉な春よ あの日ふたりそろって死ねるように

 何と陰気な歌詞でしょうか。モトウタはファド(ポルトガル民謡)の「Primavera(春)」です。

 もう少しで「コインロックス」というデュオ名になりそうでしたが、のちに「コインブロッカ」と名のるようになります。

 その後2009年4月になって吉川ロカ初登場。

 ギターデュオを従えて三人で路上ライブ。これも聞いてるのはキクチ食堂のばあちゃんだけ。ロカちゃんが歌い上げてるのも「Primavera」です。

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 ロカちゃんもこのころは日本語で歌ってました。観客が少ないので「えーん」と泣き出すロカちゃん。そこへキクチ食堂のばあちゃんの的確な批評が。

『モウラーリア』は走りすぎじゃが『アルファーマ』はよぉ歌いこんどる。

 「モウラーリア Mouraria」とはこの歌。

 そして「アルファーマ Alfama」はこういう歌ですね。タイトルは両方ともリスボンの地名だそうです。

 その後、ロカちゃんはキクチ食堂でバイトをすることになります。定休日に食堂でライブをさせてもらう約束。もちろん勝手にこれを決めたのは、ばあちゃん。

 最初のころは注文はまちがうし、「ゲロゲロ」とイマドキの高校生らしく言葉づかいがなってなかったこともありました。

 そのうちに彼女はたまのの南高校に在学中の高校生三年生で、名前がロカであると明かされます。この名はリスボンにあるユーラシア大陸最西端のロカ(Roca)岬からとられてます。まさに生まれながらにファド歌手になることが定められてる?

 キクチ食堂での初ライブは2009年6月。

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 彼女が熱唱したのは「Fado Amália(ファド・アマリア)」。ポルトガルの国民的歌手、アマリア・ロドリゲスが自身の名前そのものをタイトルにした歌。観客の反応は「おおお よくわからんがスゴイ!」

 ロカちゃんはキクチ食堂以外のところでもライブをやってます。あやしげな風貌、正体不明のヒゲの中村サンが近寄ってきてチケットを買いたたこうとしますが、なぜか中村さん、ポスター貼りを協力することに。ロカちゃんの人徳ですなあ。

 2009年11月の南高文化祭では事前に服装チェックがありました。ここで彼女が歌ってるのは、得意にしてるレパートリー「Primavera」です。つきそってくれたのは親友の柴ちゃんこと高一を三回やったという柴島美乃。

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 文化祭には路上ライブで彼女に興味を持った地元FM局、内海FMのおじさんが聞きに来ます。

 その後も地道な活動は続き、キクチ食堂で昼時に流してた曲は彼女の「Beijo de Saudade(望郷のキス) 」。

 ライブで歌ったのは「Estranha Forma de Vida(流れ者の人生)」

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 FM局に紹介された連絡フェリーの船上ライブで歌うはずだったのが「暗いはしけ Barco Negro」。フェリーが岸に着いちゃったのでお客さんみんな降りちゃいましたが。

 「暗いはしけ」は海で遭難した夫を懐かしむ歌らしいので、ロカちゃん、船上ライブには選曲がちょっとまずいぞ。

 2010年10月の南高文化祭。ここでは「マリア・リスボア Maria Lisboa」。

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 ライブハウス「みたいなもん」のオーディションでスタッフに大ウケだったのは「Laurindinha」(←よう発音しません)。

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 ライブハウスの初ライブのリハーサルで歌ったのは「Rosa Branca(白いバラ、別タイトルはRosa Ao Peito)」。

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 2011年5月11日には、吉川ロカと柴島美乃の関係が明らかにされました。→「ののちゃんと震災:漫棚通信ブログ版

 そして台風の日のライブでロカちゃん、ついに中央の事務所から注目されることに。このとき歌ってのが「Minh'Alma(わたしの魂)」。

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 2011年10月、南校文化祭に出演予定だった彼女は、「いろいろあって」出演を取り消します。

 キクチ食堂のライブでは「Dona Rosa(ドナ・ロサ)」を歌ってポルトガルの船員さんからも大絶賛。

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 そして2012年になってロカちゃんにアニメの主題歌の話が舞い込みます。

 2012年1月30日、キクチ食堂でのサヨナラ・ライブ。彼女が歌った「海の歌 Canção do Mar」はこれ。

「Solidão(孤独)」はこういう歌。

 聞いていただければわかりますが、同じ曲で歌詞がちがいます。なんとマニアックな。

 吉川ロカちゃんは高校を中退して上京。厳しいレッスンのすえ、2012年3月24日ついにデビューをはたします。

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 連載内連載を終えた作者からのコメント。→「(笑)いしい商店新着マンガ No.006 ROCA

朝日新聞のコアな読者にはたいへん評判がわるかった連載内連載、いわゆる吉川ロカシリーズは3月24日付朝刊の漫画をもって終了しました。シンプルなハッピーエンドを描こうとしたのですが、確信犯とはいえ場所をまちがっていました。

これからウェブサイトで新聞ではやりにくかった部分を順不動で埋めていきたいと思います。どうぞよろしく。

 いえいえ。ロカちゃんほど読者に愛されたキャラクターはなかったと思いますよ。

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June 17, 2012

イタリアーンなマンガ:女吸血鬼がいっぱい(その3)

 イタリア三人目の女吸血鬼は『スキア SUKIA 』。今回舞台となるのは、これまでとはがらっと変わって現代のニューヨークです。

 現代ったって、描かれたのが1978年ですからね。当然その時代のお話です。1986年まで続いて全153巻。キャラクターを創造したのは、毎度同じですみません、イタリアエロマンガの総元締め、レンツォ・バルビエリ Renzo Barbieri です。

 さてあらすじは。

 1978年ニューヨーク。ある紳士がゴージャスな女性スキアを出会って意気投合します。彼女を友人のパーティに連れて行ったところ、彼女は十字架を恐れているような奇妙な態度を見せる。

 紳士はとりあえずスキアとセックスしちゃうのですが、その後やっぱり不審に思い、彼女の背中に十字架を押しつけると、なんと彼女の皮膚は十字架の形にやけどしてしまいます。

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 吸血鬼だ! 紳士は灰皿でスキアのアタマを殴り気絶させると(うーん吸血鬼、弱すぎる)、友人であるニューヨーク・タイムズの記者、ビル・トムスンに電話します。彼は吸血鬼の存在を世に知らそうと努力していましたが、まわりからは変な目で見られていたのです。

 ビルが駆けつけたとき、気がついたスキアは紳士を襲い首をひと噛み。そして夜のニューヨークを裸で逃げていきます。

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 じつは彼女、ドラキュラのモデルとして有名な、13世紀トランシルヴァニアのワラキア公ヴラド三世の娘だったのです(史実では15世紀のひとなのでかなりテキトー)。生きながらにして埋葬されたスキアは、1724年に吸血鬼としてよみがえります。彼女は新世界に渡り、1801年にニューヨークの地下に再度埋葬されることになります。そして現代、獲物を求めて夜のニューヨークをさまよう彼女の姿があった……!!

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 絵を描いてるのはフラビオ・ボッゾーリ Flavio Bozzoli です。1960年代に『ディアボリク Diabolik 』や、その女性版『ザキモルト Zakimort 』を描いてたひとで、マンガとしてはちょっと古いかなあ。

 だからかもしれませんが、マンガとしての魅力はもうひとつ。

 本書のすばらしいところは、じつはカバーアートなのですね。描いてるのは『ゾラ』も担当していたアレサンドロ・ビフィナンディ Alessandro Biffignandi 。いやどれもこれもエロエロでじつにすばらしい。

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 街角のニューススタンドでこれを見かけたら、もうジャケ買いするしかないでしょ。

もう一回だけ続きます

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June 16, 2012

イタリアーンなマンガ:女吸血鬼がいっぱい(その2)

 イタリアのエロマンガにおける第二の女吸血鬼は『ゾラ ZORA 』です。イタリアの女吸血鬼ではもっとも有名。

 初登場は1972年9月。彼女もレンツォ・バルビエリ Renzo Barbieri が創造したキャラクターです。

 『ゾラ』は13年間に全288巻が出版されました。やっぱすごい量だなあ。1985年になってフランスで「 ZARA La Vampire 」のタイトルで出版されるとこれが大ヒット。アメリカでも「 ZORAH the Lady Vampyre 」のタイトルで刊行。ゾラはイタリアの女吸血鬼としては世界的に有名な存在になりました。

 それでは書影を。カバーイラストの多くを担当したのはアレサンドロ・ビフィナンディ Alessandro Biffignandi 。あちらでも人気の絵師で、これがなかなかすばらしい。近景と遠景のバランスが生頼範義にちょっと似てる、かもしれない。

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 さてお話。

 時代は1859年、ロンドンで開かれた学会でパブスト教授が発表しています。彼は故郷のトランシルヴァニアでドラキュラの棺を発見したのです。

 故郷に帰ってきた教授を待っているのは愛妻と美しい娘のゾラ(20歳、髪はブロンド)でした。

 同じ家の中にドラキュラの棺があることを知り、なぜか興奮してしまうゾラ。そのゾラの姿をパパがのぞき穴からこっそりと盗み見しています。興奮したパパはママに挑みかかる。どんな親子やねん。

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 眠れなくなったゾラは棺の中のドラキュラにキスをしてしまいます。深夜、むっくり起き出したドラキュラは寝ているゾラを襲い首にひと噛み。ゾラは吸血鬼となり、ドラキュラのしもべとなってしまいます。

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 いろいろあって娘の正体を知ったママはドラキュラに窓から放り投げられて死亡。パパもあののぞき穴から(おお、伏線だったのか)ドラキュラとゾラの睦み合いを見てしまい、娘の正体を知ったパパは」ショックで廃人となってしまいます。

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 欲望を抑えきれず、村娘を襲うゾラ。吸血鬼化した娘が発見されたところへ、ロンドンからバンパイア・ハンターのマーク・フィンレイがやってきます。

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 棺の中で眠るゾラを発見したマークは、彼女を縛り上げて監禁しますが、自分が彼女の美しさに魅せられてしまっていることに気づいてしまう。マークは自分の心を抑え、十字架を振り上げてゾラに迫る。ふたりの運命は……!?

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 と、このあたりの展開はちょっと『ジャキュラ』に似てますね。

 『ゾラ』にはもうひとり、魅力的な女吸血鬼が登場します。「フラウ・マーダー Frau Murder 」です。フラウというのはドイツ語で女性につける敬称ね。

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 バイセクシャルでゾラよりもっと淫乱系。名前からわかるように、サディスティックなことも平気です。ロングの黒髪でブーツですから、ビジュアルはアメリカのヴァンピレラに似てますが、オッパイは隠さない。

 主人公のゾラと対立する存在じゃなくて、どちらかというとなかよしで、よくいっしょに行動してます。

 『ゾラ』のマンガを描いてるのはビラーゴ・バルザーノ Birago Balzano 、このひとは黒のベタを強調するタイプで、線に味があります。それに『ジャキュラ』よりエッチ度も増してます。

 ゾラは吸血鬼なのに、比較的おとなしめでお上品ないたぶられキャラ。ここが女王様のジャキュラと違うところで、世界的にヒットした理由なのかもしれません。

この項続きます

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June 14, 2012

イタリアーンなマンガ:女吸血鬼がいっぱい(その1)

 1960年代後半から1970年代にかけてのイタリアのエロマンガブームには、いろんなキャラクターが登場しました。なかでもとくに人気があったのが「女吸血鬼もの」です。

 日本マンガにもいろんな女吸血鬼がいるみたいですが、わたしがまず思いうかべるのが『ポーの一族』のメリーベル、って古くてすみませんね。彼女の登場が1972年。

 メリーベルはぜんぜんエロくはありませんが、これは女吸血鬼としては異例。アメリカにはセクシーなコスチュームのヴァンピレラ Vampirella がいました。彼女の登場は1969年9月ですね。イタリアの女吸血鬼たちはヴァンピレラよりちょっとだけ早く登場してますし、ずっとエロい。

 だって首から血を吸う=首にキス=セックスなんですから、吸血鬼は存在そのものがエッチ。

 イタリアのエロマンガで、まず最初に描かれた女吸血鬼が「Jacula」です。イタリア語の発音では「ヤクラ」ですが、イタリア語の「J」は外来語にしか使われませんし、もともと「ドラキュラ Dracula」から作った名前なんだからここは「ジャキュラ」と表記しておきます。

 初登場は1969年3月。レンツォ・バルビエリ Renzo Barbieri の出版社から発売されました。キャラクターやストーリーのアウトラインを決めたのがレンツォ・バルビエリ、ペンシラーはジョルジオ・カンビオッティ Giorgio Cambiotti です。このかた、他のエロティック作品にも参加していますが、代表作はなんつっても『ジャキュラ』ですね。

 『ジャキュラ』は1982年まで13年間続いて、全327巻。ってなんじゃそら。『ドカベン』もびっくり、というくらい発行されてます。あちらのコレクターのひとは大変だ。

 この時代のイタリアでは、判型は日本の青年コミック(B6判)とほぼ同じ、ページ数は120ページほど、こういう形式のマンガ本が街角のニューススタンドで大量に売られていたのです。

 それでは『ジャキュラ』の書影を。カバーアーティストは最初のころがレアンドロ・ビッフィ Leandro Biffi というかた。のちにジョルジオ・カンビオッティが属していた Studio Rosi というグループに交代しました。

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 ジャキュラはバンバイア・クイーンなので基本的に攻撃的なキャラに描かれることが多いみたいです。

 さてお話は。

 時代は1835年、ジャキュラという美しい少女(18歳、髪はブロンド)が母親とトランシルヴァニアのある街に住んでいました。それなりのお金持ち。ある夜、吸血鬼が彼女の家に侵入、眠っているジャキュラを襲います。そのどさくさで家は火事になり、母親は焼死。

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 葬儀の日の夜、ジャキュラが母親の墓の前で悲しんでいると、彼女の匂いにひかれた(別の)吸血鬼が墓からよみがえり、ジャキュラを襲う! とまあこの時代のトランシルヴァニアにはあちこちに吸血鬼があふれていたらしく、ジャキュラはお話が始まってすぐ吸血鬼になってしまいます。

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 そこへパリからヴァンパイア・ハンターのカルロ・ヴェルディエルが街にやってきて、墓場に住む吸血鬼を十字架と杭で倒します。ところがカルロはジャキュラに恋してしまい、彼女にキスなどを迫っておりますと、反対に彼女に咬まれて彼も吸血鬼になっちゃうのでした。

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 ふたりは仲の良い吸血鬼夫婦となり、夜な夜な街に出没してそれぞれ仲間を増やしていく。

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 真夜中になると墓場で吸血鬼たちの饗宴が開かれることになり、ジャキュラはその女王として君臨します。

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 いっぽう、このあたりの領主クルト・ソンタグ伯爵。普通の人間ですが権力者で変態性欲者。街から少女をさらってきては毒牙にかけたりしてます。彼の手下が、フクロウに変身することができる魔女アザリア。

 彼らはジャキュラ夫妻と反目することになります。「吸血鬼夫婦」対「変態+魔女」。この二組の戦いの行方は……!?

 というのが第一巻のあらすじ。

 アンチ・ヒーローがさらに極悪な連中と闘う、というイタリアの「fumetto nero ブラックコミック」の伝統にそってますね。

 ジャキュラはのちに狼男、フランケンシュタインの怪物、青ヒゲ、サド侯爵たちと出会ったりするそうです。

 『ジャキュラ』の最初のほうはマンガとしてあまりエロくありません。しかし300巻以上もありますとそのうちにエッチ表現もエスカレートしていくことになるのです。

この項続きます

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June 08, 2012

イタリアーンなマンガ:強烈!マダム・ブルータル

 東映アニメ「UFOロボ グレンダイザー」がフランスで「Goldorak ゴルドラック」のタイトルで放映され大人気だったのは有名な話。そのグレンダイザーがイタリアに行きますと「Goldrake」という名前になります。1978年に放映。

 「ゴルドラーケ」と発音するのかもしれませんが、イタリア語で「k」の文字は外来語にしか使用されませんので、ここは英語風に「ゴルドレイク」と読むみたいです。

 フランスと同様イタリアでも大人気で、「Goldrake」と書いて自動翻訳させると「グレンダイザー」と訳されるぐらい有名な固有名詞になってます。「Goldrake」をグーグルで画像検索するとこうなります。グレンダイザーばっかし。→画像検索結果(

 ところが、イタリア語で「マンガ」を意味する「fumetto」あるいは「fumetti」という言葉をつけくわえて、「Goldrake, fumetti」で検索するとこういう結果になります。→画像検索結果(

 あれ、グレンダイザーとはちょっと違う、あやしげな画像がヒットしますね。さてこれはなんでしょうか。

 えっとですね、これこそイタリアエロマンガ史上、最初期の作品『ゴルドレイク Goldrake』であります。

 イタリアではまず「仮面をつけた犯罪者」のマンガが流行しました。1962年に始まった『ディアボリク Diabolik』がその代表的作品(なんと今でも続いてます)。

 ディアボリクが登場するまでのイタリアマンガ界のヒーローといえば、西部劇マンガに登場する清廉潔白な主人公、みたいなのが主流でした。

 そういう状況であったところに、60年代の世界的カウンターカルチャーの象徴として登場したのが、アンチ・ヒーローで仮面の犯罪者、ディアボリクたちであるといわれてます。まあもちろん、限りなく通俗的存在ではあるのですけどね。

 ディアボリク、およびそのフォロワーである犯罪者が主人公の一連の作品を、「fumetto nero」と呼称します。「黒マンガ」すなわちブラックなコミックなわけですな。当ブログで紹介したマニウスが描いた『クリミナル』や『サタニク』も「fumetto nero」に含まれます。

 これらのマンガは、単行本というか雑誌というか、粗悪な紙のポケット版の本で、街角のニューススタンドで販売されました。

 「fumetto nero」はセックスアンドバイオレンスのマンガでしたが、直截のエロが登場するわけではありませんでした。しかし、1966年にこのフォーマットを利用して、イタリア最初のエロマンガが登場します。

 始めたのは当ブログに頻回に登場するイタリアンエロマンガ界総元締め、編集者レンツォ・バルビエリ Renzo Barbieriです。その最初のエロマンガが『イザベラ Isabella』。続いて登場したのが『ゴルドレイク Goldrake』でした。

 両方ともマンガを描いたのはベテランマンガ家のサンドロ・アンジオリーニ Sandro Angioliniです。もともと子どもマンガを描いてたひとですが、1966年以降おとな向けに転向。エロティックマンガブームに乗って自分でも出版社を作っちゃったりしてます。こういう絵を描くかたです。

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 書影左上が復刻版。その右が当時のポケット版書影です。「成人向けマンガ FUMETTI PER ADULTI」という表記があります。

 イザベラはリボンの騎士やベルばら系統の女剣士でした。男装の麗人ですね。映画化もされてます。

 いっぽうのゴルドレイクは男性スパイ。もちろん当時大流行の007を模倣してます。彼は金の銃弾を使用する大金持ちでもありました。

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 「Goldrake」を分解しますと「gold」は金、「drake」は16世紀イギリスの海賊フランシス・ドレイクをイメージしてるそうです。『Goldrake』というタイトルだったり『Goldrake Playboy』というタイトルだったりします。

 主人公のビジュアルイメージはジャン・ポール・ベルモンド()。ちょっとファニーフェイスの彼が新しい世代や文化のアイコンであったというのは、今となっては理解しづらいかなあ。彼はゴダール作品のスターでもあったのですよ。

 007と同様に西欧世界のスパイであるゴルドレイクは、東側国家や悪の秘密結社と戦うのですが、もちろん出会う女性すべてとエロエロな行為をくり返します。彼の相棒として活動するのははソ連KGBのスパイ、ウルスラ。彼女のモデルは、初代ボンドガールのウルスラ・アンドレスです()。

 さて『ゴルドレイク』には強烈な悪役が登場します。レズビアンのサディスト「マダム・ブルータル Madame Brutal」。もちろんブルータルは冷酷、残忍、残虐という意味です。

 ビジュアル的にも黒ビキニに黒マントふうの上着、顔全面をおおう黒マスクという強烈さです。

 中国の秘密結社や悪のレズビアン組織に属して、主人公とその彼女たちをムチや拷問道具でいたぶるわけです。お話の途中、交通事故で右足を失いますが、これでますます主人公を憎むことになります。

 それでは、マダム・ブルータルが登場するゴルドレイクの表紙イラストをご紹介。

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 マダム・ブルータルが登場するとスパイものやら何やら。何のマンガかわかんなくなりますね。

 『イザベラ』と『ゴルドレイク』を皮切りに、イタリアでは1960年代後半から1970年代にかけて、エロティックマンガのブームが起こります。この時期には仰天するような作品とキャラクターがいっぱい登場してくるのです。いや調べ始めると楽しいったらないのですねこれが。

この項続きます

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June 03, 2012

イタリアーンなマンガ:ヒーローは複雑系『コルト・マルテーゼ』

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 上図はクリスチャン・ディオールの香水の広告です。この香水はサッカー選手のジダンが広告モデルになったことでも知られています。人物がとっくりセーターを口の上まで持ち上げてるのは、ジダンの広告のときと同じポーズ。

 さて彼は誰でしょうか。ディオールのモデルになるんだからみんな知ってる有名キャラクター、のはず。彼こそヨーロッパでは超有名、トレジャーハンターで海賊で悪人、だけどじつは心優しい伊達男、コルト・マルテーゼです。

 コルト・マルテーゼ Corto Maltese は、イタリア人マンガ家ヒューゴ・プラット Hugo Pratt が創造したキャラクター。まず作者のヒューゴ・プラットがタダモノではない。

 1927年イタリア生まれ、10歳でエチオピアへ。第二次大戦中にはエチオピアの捕虜キャンプに収容されます。イタリアに戻ったプラットは戦後ベネチアでマンガ家として活動を開始。1949年には請われて南米アルゼンチンに移住し、アルゼンチンマンガ界で活躍(アルゼンチンにもりっぱなマンガ文化が存在していたのですね)。

 1959年からはロンドンで活動。1962年にはイタリアに戻り、1967年に描いたのがコルト・マルテーゼが初登場する『海のバラード Una ballata del mare salato』です。

 読者対象をかなり高く設定した作品で、ひとはどんどん死ぬし、笑いの要素はほとんどありません。現代のグラフィック・ノヴェルを先取りした作品です。

 1970年にフランスに移住したプラットは、コルト・マルテーゼを主人公とするシリーズをフランスの雑誌に描き続けます。これが「文学的なマンガ」として大ヒット。コルト・マルテーゼはヨーロッパで最も有名なマンガキャラクターのひとりとなりました。

 1984年にプラットはスイスに移住し1995年に没。いやーつくづく国際人ですなあ。このようにヒューゴ・プラットは早くからメジャーマンガ家として国際的に活躍したひとなので、エロを描いてません。

 でも若き友人ミロ・マナラにシナリオを提供した二作品『インディアン・サマー』『エル・ガウチョ』はちょっとエッチ。ともに傑作との誉れ高い作品で、『インディアン・サマー』についてはすでに本ブログに記事を書きました。プラットが愛するアルゼンチンを舞台にした『エル・ガウチョ』もいずれご紹介するつもりです。

 『海のバラード』は1976年の仏アングレームで賞をとりました。プラット自身は没後の2005年に米アイズナー賞のホールオブフェイムを授与されています。

 さて、それではコルト・マルテーゼの第一作『海のバラード』をご紹介。わたしの読んだのは最近出版された英語版です。

●Hugo Pratt『Corto Maltese: The Ballad of the Salt Sea』(2012年Universe社、amazon

Corto Maltese: The Ballad of the Salt Sea

 250ページの長編。もともとはモノクロで描かれた作品ですが、今回の英語版ではのちにカラリングされたものが出版されました。

 ヒューゴ・プラットの絵は、ベタを強調した作風のアメリカのミルトン・カニフ(「コミック・ストリップのレンブラント」という異名があります)の影響下にあるといわれてます。カラーで読むとちょっと印象が変わりますね。

 主人公のコルト・マルテーゼは、のちにすっきりした男前になりますが、初期はまだゴリラ系。

 時代は第一次大戦の開戦前夜。南太平洋を海賊船、といっても現地のアイランダーたちが乗る双胴のヨットが進んでいます。船長だけは白人のキャプテン・ラスプーチン。この海賊船が小舟で漂流する白人の少女と少年を救助する。

 ふたりはいとこ同士で、オーストラリア、シドニーの財閥の一族。ラスプーチンは身代金を取るため、ふたりを解放せずに連れ回すことに。

 そしてもうひとり、丸太に縛られた白人男性が漂流していました。彼が主人公、コルト・マルテーゼ。彼とラスプーチンは旧知の仲で、助けられはしたものの何やら険悪な雰囲気。

 じつはコルトとラスプーチンのふたりは、“修道士”と呼ばれる謎の人物の手下。ニューギニアからオーストラリア近海を荒らす海賊団の一員で、お互いに憎み合いながらも協力する関係だったのですね。

 ラスプーチンとコルトは石炭を運ぶオランダ船を襲い、ドイツ軍にこれを引き渡します。開戦前夜の南太平洋は各国の思惑が渦巻いていました。

 そして第一次大戦勃発。“修道士“ひきいる海賊団と協力するドイツ潜水艦、これに対抗する英軍と日本軍(第一次大戦では日本とドイツは敵同士ね)。海賊団の一員となっているフィジーやトンガのポリネシアンたち、さらにニュージーランドマオリたちの思いは。

 海賊団内部で対立する“修道士”、ラスプーチン、コルトの三者。“修道士”の探す宝物とは。そして“修道士”の正体は何か。とらわれの少年少女の運命はいかに!?

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 まず物語のバックグラウンドとなる時代と地域が特殊。戦争中の各国の思惑が複雑。現地人たちもそれぞれに考えるところがあるらしい。そして人物造形と人間関係がまた複雑。

 主人公のコルトからして、海賊なんだから悪人、のはずなのですが、平気でひとを殺すラスプーチンとは対立している。逃げようとする子どもたちを捕まえるのですが、じつは安全を気にかけているらしい。あらゆる人間に公平に接するので、敵や現地人とも心を開く間柄になれる人物です。

 Wikipediaによりますと「黄金の心を持ったならず者」と紹介されています。ルパン三世もこういう分類になるのかな。

 海賊団の内部も複雑。コルトとラスプーチンは明らかにお互いが嫌いで、いつか殺してやる、とか言い合ってるのに、なぜか命を助け合ったりするのですね。どうやら仲間意識もあるらしい。

 ラスプーチンはボスの“修道士”の地位と命をねらっていますが、“修道士”のほうもそれを知っていて彼を泳がせている。権力はあっても孤独な“修道士”はコルトに友情を感じているのですが、だからといってコルトを殺すことに躊躇しない。

 本書の特徴は、ともかくセリフが長い。登場人物同士がしゃれた言い回し、しかも長文でずっと会話してるシーンが多いです。絵は描き込まずに勢いのある線を多用するタイプ。

 ストーリーやキャラクターの、この複雑さはどう考えても子供向けじゃないよなあ。

 「薔薇の名前」でおなじみ、イタリアの哲学者・小説家のウンベルト・エーコはこんなことを言ってます。

リラックスしたいとき、わたしはヘーゲルを読む。
何かにチャレンジしたいときは、コルト・マルテーゼを読むんだ。

 まあジョークでしょうけど、コルト・マルテーゼはそういう作品として受けいられているのです。ただし有名なこのジョーク、今回の英語版でも紹介されてるんですが、「ヘーゲル」が「エンゲルス」に誤記されてて、だめじゃん、アメリカ人。

 ただしもともとが雑誌連載作品なので、ストーリー展開はけっこう適当だったりします。登場人物の性格ががらっと変わったり、伏線が回収されなかったり。マンガがまだ若かったころの作品だなあ。

 笑ったのが、こういうシーン。コルトと少女が乗った自動車が狙撃され、自動車は崖から転落。海に落ちたコルトは海底の車に閉じ込められた少女を助け出す。

 本来なら次は狙撃したのは誰だ、という展開になるはずですが、少女を助けた直後のコルト、大ダコに襲われて海の底に引きずり込まれます。ナイフで格闘し大ダコを撃退。ところが海底の大きな二枚貝に足をはさまれておぼれそうに。危ないところを現地人に助けてもらったコルト、今度はサメに襲われさあ大変。

 これはギャグかな、とも思ったのですが、どうやら大マジメらしい。本作には珍しい過剰なサービスシーンなのでしょう。

 しかし全体としては詩情にあふれたマジメでおとな向けの作品です。

 コルト・マルテーゼのシリーズは人気を得て、全12作が描かれました。

 このうち『Tango』はコルトが1920年代のブエノス・アイレスを訪れる作品。ヒューゴ・プラットのアルゼンチン時代の友人にしてマンガ原作者のエクトル・エスターヘルドが、軍事政権に暗殺されたことを追悼した作品だそうです。これは読んでみたいなあ。

 コルト・マルテーゼのような作品が1960年代末に登場したのは興味深いことです。日本でも同時期に少年マガジンの部数増加や劇画の流行があって、マンガの読者年齢が上昇しましたが、これはけっして日本だけの動きではなく、世界的な潮流であったのです。すなわち日本マンガの発展は、世界的な若者文化やサブカルチャーの興隆と歩調を合わせていたと。日本マンガ史は世界マンガ史や世界現代史のなかで理解すべきなのですね。

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