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June 20, 2012

イタリアーンなマンガ:女吸血鬼がいっぱい(その4)

 ここしばらくイタリアエロマンガ小史を書いております。下記のエントリの続きです。今回が最終回。

強烈! マダム・ブルータル
●女吸血鬼がいっぱい(その1
●女吸血鬼がいっぱい(その2
●女吸血鬼がいっぱい(その3


 イタリアエロマンガ界の総元締め、レンツォ・バルビエリ Renzo Barbieri が創造した四人目の女吸血鬼は『イーラ YRA 』です。

 登場したのが1980年。まだ前の三作が発売されている時期に、四匹目のドジョウをねらったわけですね。

 まず書影から。カバーアートはオリヴィエロ・ベルニ Oliviero Berni 。

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 あんまり魅力的な表紙じゃないなあ。でも中のマンガを描いてるのはビッグネーム。イタリアエロマンガ界の第一人者、レオーネ・フローロ Leone Frollo です。

 フローロは1931年生まれ。十代でデビューしたキャリアの長いひとですが、有名になったのはイタリアでエロティックマンガのブームがあったとき。

 マニウスやミロ・マナラがエロティックなマンガと一般作品を描きわけているのと対照的に、フローロはブームの初期からその終焉まで、さらにその後もずっとエロティックなマンガを描き続けています。まさにエロマンガの巨匠。

 やたらと絵のうまいひとで、とくに微妙な女性の表情と人間以外の怪物を描かせて右に出る者なし。イタリアのエッチなマンガを検索していて、あ、これかわいい、これうまい、と感じたら、たいていフローロ作品です。

 すでに『悪魔女王ルチフェラ LUCIFERA 』(時代は中世、現世と地獄を行き来する悪魔が主人公)、『白雪姫ビアンカネーヴェ BIANCANEVE 』(もちろんおとぎの国で白雪姫がエッチをするわけです)、『魔女ナーガ NAGA 』(ニコライ二世の娘アナスタシアが魔女になったという設定)などのヒット作があり、エロマンガブーム末期の80年代半ばにもパリの娼館を舞台にした『カジノ CASINO 』という作品を描いています。

 『イーラ』はフローロが得意とする、ドラゴンや怪物が跋扈する中世が舞台。そこにエッチな女吸血鬼が登場するという、まさにテッパンの企画、のはずでした。

 さてお話は。

 中世ヨーロッパ。純心で美しい農家の娘イーラが主人公。狩りに来た領主が彼女が飼ってる豚のせいで落馬してしまう。怒った領主は家来に彼女を襲わせます。

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 通りかかったドラゴンのおかげで彼らから逃れたイーラは、男装して追っ手をやり過ごそうとします。ところが男が好きな兵士がいて、彼に尻を犯されたりして。

 結局イーラは領主に捕まってしまいます。領主はイーラの両親を殺し、イーラをレイプしますが、彼女の抵抗で片目をつぶされてしまう。

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 地下の牢獄に閉じ込められたイーラを救いに来たのは、醜い魔女ロミルダでした。レズビアンのロミルダは美しいイーラを愛していたのです。

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 ロミルダの提案はこう。イーラがいったん死ねば牢獄を出られる。その後、吸血鬼として復活すればよいのだ!

 イーラはこれを受け入れ、ロミルダの計画どおり優しい少女から残酷な吸血鬼としてこの世によみがえり、領主への復讐を誓います。

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 いっぽう領主の息子サウル。父親に似ず善人でハンサムな彼は、運命のいたずらによりイーラに恋してしまう。ふたりはサタンに祝福され結婚しますが、領主はサウルを殺し、その肉体は料理され宴会に供されることに……!?

 フローロの絵が魅力的な『イーラ』でしたが、一年間で計12巻を刊行して終了。きわめて短命なシリーズとなってしまいました。

 最後の最後には新しくジンギスカンやマルコ・ポーロが登場したりしてますが、こういう物語の迷走も、販売不振による軌道修正の結果なのでしょう。レオーネ・フローロのような大物を起用したからといって、何でも売れる時代ではなくなっていたのです。

     ◆

 1980年代にはいるとイタリアのエロマンガも変化していました。さまざまなバリエーションのキャラクターたちがくりひろげる、奇天烈で能天気なセックス・ファンタジーは飽きられてきていたのです。

 それに代わって犯罪者たちが女性に対して暴力をふるいスプラッタな殺人が起こる、疑似実録ものシリーズが流行します。セックスシーンも性器の結合を明らかに見せるハードコア描写となっていました。

 「アチュアリタ(実話)」シリーズと呼ばれた一連のマンガがそれです。『ATTUALITÀ NERA 』『 ATTUALITÀ GIALLA 』『 ATTUALITÀ FLASH 』『 ATTUALITÀ VIOLENTA 』などの雑誌がありました。まさに、扇情的とはこれだ! みたいな表紙で、エロはますます直截的になっていきます。

Anera Agialla Aflash Aviolenta

 さらにエロティックマンガのライバルは意外なところから出現しました。家庭用ビデオデッキの販売開始です。

 日本でも家庭用ビデオデッキの黎明期、その普及にはエロビデオの存在が大きな役割を果たしたといわれていますが、じつはこれは海外でも同様でした。科学と技術の進歩はエロの状況を変えてしまったのです。

 ビデオデッキの普及は、イタリアのエロティックマンガにとどめを刺したといわれています。

 ひるがえって日本では。

 エロマンガはいわゆる三流劇画から美少女系に姿を変え、なんとか生き残りました。劇画系の絵では映像のエロに対抗できませんでしたが、手塚治虫・吾妻ひでおを祖とする美少女系エロマンガは、それを可能とする破壊力を持っていたのです。しかしその代わり、日本のエロマンガは児童ポルノであるとの非難を受けることになります。

 と、このあたりのお話は項を変えるべきですね。

     ◆

 参考文献:ネット上のいろんな文章(多くはイタリア語)とこれらの本を参考にしています。

●アントニオ・カッシーリ/都築鏡一『 Spaghetti EROTICO:イタリア式エログロ漫画館』(2001年アスペクト、amazon
●Graziano Origa 『 Vietato ai minori. Vamp e vampire: Jacula, Zora, Sukia e Yra 』(2007年 Rizzoli 社、amazon

Spaghetti EROTICO:イタリア式エログロ漫画館 (ストリートデザインファイル) Vietato ai minori. Vamp e vampire: Jacula, Zora, Sukia e Yra

 前者は日本語の本ですが、いってみればカバーアートを集めた画集で不親切な解説がほんの少し。これを読んでもイタリアエロマンガの状況はあまり理解できないのが残念。

 後者の「 Vietato ai minori 」というタイトルは「未成年お断り」という意味ですね。当時のイタリアのエロマンガにはこの言葉か、あるいは「成人向けマンガ Fumetti per adulti 」という言葉が表紙に書いてあったのです。

 これは復刻マンガ+解説、というマニアックな本で、資料性も高くおもしろく読みました。でも当然ながら全編イタリア語です。

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