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May 26, 2012

イタリアーンなマンガ:マニウスの『金瓶梅』

 イタリアの有名マンガ家に、マニウス Magnus というひとがいます。

 本名はロベルト・ラヴィオラ Roberto Raviola、1939年生まれで1996年没。日本なら石森章太郎とほぼ同年代。Magnus とは本来ラテン語で「偉大」という意味です。「おれってグレートだぜっ」という意味を込めたペンネームみたいですね。

 イタリア語で「gn」は「ニュ」と発音する(たとえば「Bologna」=「ボローニャ」)ので、「マーニュス」と読むのがいいのかもしれません。「マンニュス」と書いてあるサイトもあります。ただしすでに、小野耕世『世界コミックスの想像力 グラフィック・ノヴェルの冒険』(2011年青土社)で「マニウス」と紹介されていますので、それにならって表記することにしましょう。

 小野耕世は『世界コミックスの想像力』に収録された「俗悪コミックスが再浮上する マニウスの『ネクロン』」の中で、ダーティ・コミックスを描いたマニウスを、芸術的エロのグィド・クレパックスと対比して紹介していました。

 しかしそれはマニウスの一面でしかありません。彼はイタリアを代表するマンガ家、しかも「カルト」であるのに第一線の人気マンガ家でした。

 1960年代、マニウスはシナリオ担当のマックス・ブンケル Max Bunker と組んで、下品で通俗、暴力とエロティックなシーンがいっぱい、でも読者をコーフンさせるマンガを量産しました。

 『クリミナル Kriminal』は骸骨コスチュームの盗賊。『サタニク Satanik』は「ジキル博士とハイド氏」みたいに薬で変身する女化学者。『アラン・フォード Alan Ford』は風刺とブラックユーモアに満ちたスパイの物語。

 これらの人気作品には直截のエロは登場しません。1975年にマニウスはマックス・ブンケルと別れ、おとな向けの作品を出していたレンツォ・バルビエリ(←この編集者がこのころのイタリアエロマンガの元締め)の出版社に移籍し、もっとエロティックでホラーな作品を描き始めます。

 そして80年代になると、マニウスはのりのりでエロでグロでビザールな作品群を描くようになります。小野耕世が紹介した『ネクロン Necron』や『紀元3000年のミレディ Milady nel 3000』はそのころのものですね。

 マニウスは1980年代末にはエロから離れ、1940年代から続くイタリアの古典的西部劇マンガ『テックス Tex』に参加します。エロはまったく出てきませんが、マンガとしてすごくおもしろい作品。これが彼の最後の作品となりました。

 とまあ経歴と作品群を追ってみても一筋縄ではいかない複雑な人物だったようです。ご本人の写真を見てもダリかと思うようなヒゲの持ち主。そうとうハッタリがきいてますな。→アマゾンの画像検索結果()。

 マニウス作品の現物を見ると、通俗にして前衛、ロバート・クラムとバットマンが同居している感じ。性器の結合とフェラチオを描いていても、彼の作品は俗悪でありながら芸術なのですね。こういう複雑さは好きだなあ。

 それでは、マニウスによるエロティックマンガの代表作をひとつご紹介。『110個の媚薬 Le 110 pillole』という作品です。

●Magnus『Le 110 pillole』(2006年Alessandro社、amazon

Magnus110pillole_2 Le centodieci pillole

 原著は雑誌に連載されたあと1986年に発行されました。エロエロの書影左が1986年発行のイタリア語版の初版、右が今流通している再版です。他にフランス語版や英語版もありますし、この作品が収録されている作品集もあります。でもAlessandro社のものは判型が大きくて良い紙、さらにマニウスのデッサンやデザインの原型、ストーリーボードなども収録した豪華版なのでオススメ。

 一応日本アマゾンにリンクしてますが、イタリアアマゾンから輸入したほうがよほどお安くなりますのでご注意を。

 何やらオリエンタルスタイルの絵ですが、じつはこの作品、モトネタは「金瓶梅」です。

 「金瓶梅」の主人公は西門慶。この名をローマ字表記すると通常は「Ximen Qing」です。本書の主人公はちょっとだけ表記を変えた「Hsi-Men Ching」。原作どおりの大金持ち。第一夫人から第五夫人までをそろえた艶福家です。

 原作では第五夫人が悪のヒロインとなる潘金蓮ですが、本作でも第五夫人の金夫人が物語の鍵となります。

 主人公がある僧から手に入れた媚薬を使い、妻たちや若い芸妓、さらに男たちともエッチを重ねるうちに、媚薬のために身を滅ぼす物語です。

 モノクロで46ページ。もちろん性器や結合部分がしっかり描かれたポルノグラフィなのですが、おどろくべきはマニウスの描く中国世界のデザイン。

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 こんなの中国とちゃうわ、などといわないように。これこそ西洋人が考える東洋、っていう感じ。どこかイタリア風な気もする。もちろんマニウスが中国を知らずに描いてるのじゃなくて、世界中のどこにもない、マニウスの頭の中にだけある中国を再現しているのです。

 この絵の力はちょっとすごいですよ。いやー世界は広い。わたしたちの知らないマンガにあふれてる。


●こちらはマニウスについて日本語で書かれたサイト。ちょっととっちらかった日本語で、しかもエロマンガ家であるマニウスについては無視されてますが、貴重な文章なので参考にどうぞ。→(

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Comments

ペンギンがタイホされたのでHNを元にもどします。
しゅん。

これはもう完璧にローマですね。
いま話題のテルマエ・ロマエよりローマそのもの。
テルマエ・ロマエに出てくる酒場が何となく日本の居酒屋風であるように、イタリア人の描く中国はローマっぽいのでしょうか。
東洋人の湿っぽいえっちを描いたって、おったたねーし、とかいう打算もあるのかな~~

マニウスという表記もローマ風でイケてます。

Posted by: トロ~ロ | May 27, 2012 at 11:58 PM

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