恐怖の『花のズボラ飯』 ゴロさんは実在しない
●久住昌之/水沢悦子『花のズボラ飯』1・2巻(2010・2012年秋田書店、各900円+税、amazon)
医療系有名ブロガーであるところのNATROM先生のブログを読んでおりましたら、左サイドバーに【お勧め本】という欄がありまして、そこに衝撃的な文章が。
■花のズボラ飯(2):ゴロさんが実在しないと仮定するだけで恐怖コミックに。
がーん。そうか、ゴロさんは実在しないのだ。
いやじつはわが家では『花のズボラ飯』の評判が悪くて。まあ主人公の食べかたが気にいらん、というのが大きな要因ではあるのですが、もひとつ。花ちゃんは、書店員だけどバイト。子供もいない準専業主婦。それなのになぜダンナを単身赴任させているのか。これが大きな謎であるからです。いっしょについて行ったらええやん。
しかも本書はほとんどが主人公のモノローグで進められてる作品なのでいろいろと謎が多く、ゴロさんや花ちゃんの状況が読者に隠されている。花ちゃんがあまりに多弁なのがかえってあやしい、と思っておったのですよ。
しかしこのように考えればすべての謎が解決する。ゴロさんの存在自体が花の妄想である。NATROM先生、えらいっ。
1巻1皿め、6皿め、2巻21皿め、24皿め、26皿め、27皿め。花がゴロさんと電話で会話していますが、ゴロさんの声は読者には聞こえない。電話の着信音も表現されない。花は幻聴と会話しているのかもしれません。
ゴロさんが帰ってくるのを楽しみにしていろいろ計画する花。しかしゴロさんが帰ってくるシーンは描かれません。花は部屋でゴロさんの匂いを嗅ぎますが、これも当然読者にはわからない。幻臭だ。
全編をとおして、花はゴロさんのことをいろいろと回想しますが、これは真実の記憶ではないかもしれない。ゴロさんという人物はホントに存在するのか。かつて存在していたとしても、過去に花の夫であったのか。現在も結婚生活は継続しているのか。そして現在、生きているのか死んでいるのか。
1巻5皿めではご近所のひとから「今週はダンナさん帰ってくるの?」と質問されていますが、これはゴロさんの実在を証明するものではありません。日ごろから花がゴロさんの存在を言いふらしているのかもしれないのです。
1巻14皿め、2巻29皿め、32皿め。花の友人、ミズキがアパートを訪れます。「このウチってタバコ吸っていいの?」「ダンナさん吸わないんだっけ」 ミズキは花が結婚している(らしい)のは知っていますが、花のダンナのことはよく知らない。しかも友人なのにこの部屋を訪れるのは初めて。当然、ゴロさんのことは花からの伝聞です。
2巻24皿め。大学時代の友人たち(♂)と出会って飲み屋で一杯。彼らは花が結婚したのは知っていますが、もちろんダンナのことは知らない。
ゴロさんの実在を読者に信じさせる小道具に電話やメールがありますが、これもミスディレクション。作者たちもいろいろと苦労しているようです。
1巻16皿め。電話の着信音があり、「ゴロ」と表示される。これは恐い。妄想の人物からの電話にこの表示。いったいだれの小細工なのか。
さらに2巻19皿めにはゴロさんからの携帯メールの文章が読者からも見えます。これも誰が書いた文章なのか。
2巻20皿めにはゴロさんの声が留守番電話が吹き込まれています。ただぼそぼそ言ってて読者には判別不能。
すべては花の自作自演なのでしょうか。
2巻26皿めのラスト。アパートのチャイムが鳴らされ、ゴロさんが帰ってきたことが示唆される。花はいつもと違って指輪を左手の薬指につけています。このチャイム音は彼女の幻聴か、それとも……
さて、ここまで検証してきて、ゴロさんの実在はきわめて疑わしいものであることがわかりました。そこで2巻最終話34皿め。
花の実家では、花が「五郎さん」と結婚しており、彼が単身赴任していると考えています。もちろんこれは花からの伝聞かもしれませんが、彼の実在を示唆する重要な状況証拠ではあります。しかしこれがすべてだれかの「嘘」であったとしたら。
そして花の留守宅、彼女が置き忘れていたケータイにゴロさんからの電話がかかってくる。これが音声として読者に示されます。つまりマンガ表現上、このシーンでのゴロさんの「声」は花の幻聴ではなく、現実のものであると。
このとき花は新幹線に乗車中なので、この電話をかけることは一応不可能と考えられます。しかしここは何らかのトリックが使用されているに違いない。
そこまでして花は、自身の妄想を補強しているのです。花の心の闇はどれほど深いんだっ。
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Comments
「もやしもん」登場人物、ダメ先輩その1の美里薫曰く。
「人間、逃げ場所があるのは、エエことや」
然り。
Posted by: トロ~ロ | April 18, 2012 08:44 PM
サントリー「金麦」のCMにも「実は夫実在しないんじゃないか説」がありました。
最後期CMの壇れいの壊れ方すごかったなー。夫を呼ぶことすらしないし(笑)。
Posted by: かくた | April 18, 2012 02:46 AM
とある結婚式場に男性が一人で訪れて、半年後だったか一年後だったかの結婚式の予約をしたいという。
それはおめでとうございます。
ところで、ご新婦さまは?と訊ねると、今日はスケジュールが合わなくて私一人ですと、にこやかに微笑む。
それ以後、すべての打ち合わせに、彼一人がやってくる。その姿は、実に嬉しそうで楽しそうである。
式場側も客商売なので、現れない新婦について、強い調子で聞くわけにもいかなかった。
しかし、予定した結婚式の直前になっても一向に新婦は現れない。
いくらなんでもおかしい。
式場側は男性に改めて問い直した。
新婦はいつお見えになるのですか?
結婚式にはおいでになるのですか?
「実は・・・」と男性が話し始めた事実とは。
私にはあこがれの女性がいます。
しかし私では到底つりあいが取れない素敵な女性なのです。
交際はもちろん告白すらしていません。できません。
すべては彼女を妻に迎えたかった私の狂言なのです。
「でも・・・」と男性は続ける。
この数ヶ月間、彼女との結婚を夢見て、具体的に結婚式の話を進めていくことはとても楽しかった、幸せだった。
しかし、いつまでも続く「夢」などありません。
いつかは事実をお伝えしなければ。
私の夢に付き合わせてしまって、申し訳ありませんでした。
式場側はすべてをタダには出来ないので半額だけ貰ったのか、どうしたのかまでは覚えていません。
数ヶ月前にTVで聞いたか、ネットで読んだか、そういう実際にあったというエピソードです。
都市伝説みたいな雰囲気の話ですねぇ。
Posted by: トロ~ロ | April 17, 2012 01:10 AM