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April 26, 2012

ブルーレイで「タンタン」

 昨年の12月、スピルバーグ監督の「タンタンの冒険」を映画館に見に行きました。3D日本語吹替版ね。

 それがですね、田舎のシネコン、平日の昼間とはいえ、200数席の劇場に観客はわたしと妻のふたりだけ。いやー、さびしいというか豪華というか、貴重な体験でした。それほど日本ではタンタンの知名度がないのか。

 まあ原作マンガを知ってると知らないのでは、楽しめるレベルが天地ほども違う作品ではありますが。

 さて、ブルーレイが発売されたので入手しました。

●「タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密」ブルーレイ&DVDセット(2012年角川書店、4700円+税、amazon

タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密 ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]

 映画はこまかい小道具などにこっていて、これは劇場ではさらっと流れていってしまいますし、DVDの画質でもわからないほど小さな文字も出てきます。新聞の文字などをじっくり読むにはどうしてもブルーレイが必要なわけですな。

 もともとそういうことを気にするような観客(←わたしだ)も想定して作られた作品なのでしょう。タンタンの部屋の壁に飾られた各国の新聞には、これまでのタンタンの冒険の記事が掲載されています。

 「THE AFRICAN」紙1931年1月28日号に『タンタンのコンゴ探検』、「THE DAILY PAPYRUS」紙1934年4月26日号に『ファラオの葉巻』、「THE SAN THEODOROS TRIBUNE」紙1937年3月11日号に『かけた耳』、「SYLDAVIA」紙1939年11月4日号に『オトカル王の杖』事件のてんまつが掲載。

 あと日付は読み取れませんが、「THE DAILY REPORTER」紙に「黒い島のひみつ」、「THE SHANGHAI NEWS」紙に「青い蓮」事件のことが載っています。

 タンタンって記者のくせに文章書かずに、他のひとが書く記事の主人公になるだけなんだよなあ。タイプライターのコレクションはしてるのにね。

 新聞の日付はエルジェが描いた「タンタン」の実際の初出に限りなく近い日になっています。芸が細かい。またこれらの事件はすべて、タンタンとハドック船長が出会う前のもの。この映画でふたりが初めて顔を合わすのですから、当然といえば当然。

 そのころの事件でタンタンの部屋に新聞記事が見当たらないのは、『タンタンソビエトへ』と『タンタンアメリカへ』ですが、いっぽうの壁に事件を解決してシカゴをパレードするタンタンの写真と大きなカギが飾ってある。これがアメリカ事件の記念ですね。どうやらタンタンはシカゴの名誉市民になったらしい。

 もひとつのソビエト事件の記念品についてはよくわかりませんでした。もしかするとこの世界ではソビエト旅行はなかったことになってるのかもしれません。

 さて英語版で映画タンタンを見てると、いちばんの違和感がタンタンの名前。英語だとティンティンの発音ですからね。ただしハドック船長だけが「タンタン」に近い発音をしてるのはどうしてだろ。スコットランドなまり?

 あとデュポン&デュボンは英語版ではトムソン&トンプソンです。日本語字幕とずれまくってます。

 映画のタンタンがくりかえし使う言葉に、「グレイト・スネイクス! Great Snakes!」があります。オーマイガッ、くらいの意味でしょうか。

 これって映画だけじゃなくて、英語版マンガのタンタンもよく使う言葉だそうです。もともとのフランス語版にはこんな決まり言葉はなく、英訳のときこれがタンタンの決まり言葉に選ばれたらしい。

 こういうのって英語圏のマンガキャラクターの習慣なのかしら。たとえば、ミュージカル「アニー」の原作マンガ『小さな孤児アニー』の決まり言葉は「リーピン・リザーズ! Leaping Lizardz!(跳んでるトカゲ!)」でした。なぜ蛇とかトカゲが出てくるのか。

 有名どころではスーパーマン。「グレイト・クリプトン! Great Krypton!」 スーパーマンだけじゃなくてクリプトン星出身のスーパーガールも使います。

 これを「びっクリプトン!」と訳したのは1978年に創刊された「月刊スーパーマン」。この脱力訳は当時の読者に大ウケ。

 日本の「月刊スーパーマン」読者は、スーパーマンといえば「びっクリプトン!」、というふうに覚えちゃってますが、英語圏タンタンの読者も、タンタン=「Great Snakes!」と記憶してるかも。

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April 16, 2012

恐怖の『花のズボラ飯』 ゴロさんは実在しない

●久住昌之/水沢悦子『花のズボラ飯』1・2巻(2010・2012年秋田書店、各900円+税、amazon

花のズボラ飯 花のズボラ飯(2)

 医療系有名ブロガーであるところのNATROM先生のブログを読んでおりましたら、左サイドバーに【お勧め本】という欄がありまして、そこに衝撃的な文章が。

■花のズボラ飯(2):ゴロさんが実在しないと仮定するだけで恐怖コミックに。

 がーん。そうか、ゴロさんは実在しないのだ。

 いやじつはわが家では『花のズボラ飯』の評判が悪くて。まあ主人公の食べかたが気にいらん、というのが大きな要因ではあるのですが、もひとつ。花ちゃんは、書店員だけどバイト。子供もいない準専業主婦。それなのになぜダンナを単身赴任させているのか。これが大きな謎であるからです。いっしょについて行ったらええやん。

 しかも本書はほとんどが主人公のモノローグで進められてる作品なのでいろいろと謎が多く、ゴロさんや花ちゃんの状況が読者に隠されている。花ちゃんがあまりに多弁なのがかえってあやしい、と思っておったのですよ。

 しかしこのように考えればすべての謎が解決する。ゴロさんの存在自体が花の妄想である。NATROM先生、えらいっ。

 1巻1皿め、6皿め、2巻21皿め、24皿め、26皿め、27皿め。花がゴロさんと電話で会話していますが、ゴロさんの声は読者には聞こえない。電話の着信音も表現されない。花は幻聴と会話しているのかもしれません。

 ゴロさんが帰ってくるのを楽しみにしていろいろ計画する花。しかしゴロさんが帰ってくるシーンは描かれません。花は部屋でゴロさんの匂いを嗅ぎますが、これも当然読者にはわからない。幻臭だ。

 全編をとおして、花はゴロさんのことをいろいろと回想しますが、これは真実の記憶ではないかもしれない。ゴロさんという人物はホントに存在するのか。かつて存在していたとしても、過去に花の夫であったのか。現在も結婚生活は継続しているのか。そして現在、生きているのか死んでいるのか。

 1巻5皿めではご近所のひとから「今週はダンナさん帰ってくるの?」と質問されていますが、これはゴロさんの実在を証明するものではありません。日ごろから花がゴロさんの存在を言いふらしているのかもしれないのです。

 1巻14皿め、2巻29皿め、32皿め。花の友人、ミズキがアパートを訪れます。「このウチってタバコ吸っていいの?」「ダンナさん吸わないんだっけ」 ミズキは花が結婚している(らしい)のは知っていますが、花のダンナのことはよく知らない。しかも友人なのにこの部屋を訪れるのは初めて。当然、ゴロさんのことは花からの伝聞です。

 2巻24皿め。大学時代の友人たち(♂)と出会って飲み屋で一杯。彼らは花が結婚したのは知っていますが、もちろんダンナのことは知らない。

 ゴロさんの実在を読者に信じさせる小道具に電話やメールがありますが、これもミスディレクション。作者たちもいろいろと苦労しているようです。

 1巻16皿め。電話の着信音があり、「ゴロ」と表示される。これは恐い。妄想の人物からの電話にこの表示。いったいだれの小細工なのか。

 さらに2巻19皿めにはゴロさんからの携帯メールの文章が読者からも見えます。これも誰が書いた文章なのか。

 2巻20皿めにはゴロさんの声が留守番電話が吹き込まれています。ただぼそぼそ言ってて読者には判別不能。

 すべては花の自作自演なのでしょうか。

 2巻26皿めのラスト。アパートのチャイムが鳴らされ、ゴロさんが帰ってきたことが示唆される。花はいつもと違って指輪を左手の薬指につけています。このチャイム音は彼女の幻聴か、それとも……

 さて、ここまで検証してきて、ゴロさんの実在はきわめて疑わしいものであることがわかりました。そこで2巻最終話34皿め。

 花の実家では、花が「五郎さん」と結婚しており、彼が単身赴任していると考えています。もちろんこれは花からの伝聞かもしれませんが、彼の実在を示唆する重要な状況証拠ではあります。しかしこれがすべてだれかの「嘘」であったとしたら。

 そして花の留守宅、彼女が置き忘れていたケータイにゴロさんからの電話がかかってくる。これが音声として読者に示されます。つまりマンガ表現上、このシーンでのゴロさんの「声」は花の幻聴ではなく、現実のものであると。

 このとき花は新幹線に乗車中なので、この電話をかけることは一応不可能と考えられます。しかしここは何らかのトリックが使用されているに違いない。

 そこまでして花は、自身の妄想を補強しているのです。花の心の闇はどれほど深いんだっ。

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April 15, 2012

芸術と革命と愛『ムチャチョ』

 BDの作家は絵のうまいひとばかりだけど、このひとの絵はまた格段に美しい。

●エマニュエル・ルパージュ『ムチャチョ ある少年の革命』(大西愛子訳、2012年ユーロマンガ/飛鳥新社、2700円+税、amazon

ムチャチョ―ある少年の革命 (EURO MANGA COLLECTION)

 出版社からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 舞台は1976年の中米ニカラグア。当時のニカラグアは40年続いたソモサ一族の独裁に対する国民の不満が増大していた。左翼のサンディニスタ民族解放戦線によるゲリラ活動は活発化し、これに対し政府は合衆国の支援を受け、国家警備隊による暴力で国民とゲリラを制圧しようとしていました。

 マンガのオープニング、ジャングルの中で国家警備隊が首都マナグアから南部のサン・フアンに向かうバスを検問している。ゲリラのシンパをあぶり出すため。そこでひとりの女性が捕らえられます。彼女がマッチでなくライターを持っていたからです。

 ニカラグアでは大統領の工場がつくったマッチを使うことになっており、ライターは反抗のシンボルになっていたのです。

 女性が持っていたライターは国家警備隊の隊長から、軍事顧問として参加していたアメリカ海兵隊のマクダグラス少尉に手渡されます。←ここ重要、ここが第一の伏線。すごくあっさり描いてあるので見のがしがちですが、このライターの行方が物語を導くことになります。

 ムチャチョ muchacho とは、スペイン語で少年とか若者の意味ですが、もっとくだけた感じで、あの若い連中、とか、そこの若いの、みたいな感じで使われるそうです。

 主人公は神学校の学生、ガブリエル。彼は名家の出身で、宗教画の才能を買われサン・フアンの田舎教会の壁画を描くことを依頼されます。

 宗教画の勉強しかしてこなかったガブリエルは、ゲリラのシンパでもある教会の司祭にさとされ、彼のスケッチブックを譲られ民衆のありのままの姿をスケッチするようになります。これが第二の伏線。

 アメリカ人の軍事顧問、マクダグラスがサンディニスタ民族解放戦線に誘拐されます。冒頭で登場したライターが数奇な運命ののちガブリエルの手に渡り、民衆の姿と主人公の秘めた恋心を描いたスケッチブックと出会ったとき、悲劇と冒険の幕が開く……!

 とまあ伏線はりまくりのすごく凝ったストーリーです。

 本書の絵はただただすばらしい。後半はゲリラたちのジャングル逃避行になるのですが、その自然描写は繊細、精密、かつ美麗。透明水彩によるカラリングが見事です。

 コマ単位じゃなくて、ページごと、あるいは見開き二ページごとに決められたテーマ色があって、ページ全体を見ても、あるいは見開きを見わたしても美しいったら。

 この美しい絵と凝ったお話で語られるのは「人間」の物語です。主人公だけじゃなくて脇役や悪役にいたるまですべての登場人物のキャラ立ちまくりで、描かれるテーマは芸術と革命と愛。

 凝った構成、美麗な絵、意欲的なテーマ。さらに娯楽作品としてもたいへんおもしろい。本書はフランスでも2011年12月に2巻が発売され完結したばかりの作品です。最先端のBDを日本でも読めるという幸せ。邦訳がたいへんうれしい。

 あとひとつ。本書は悲恋を扱った本格的なBL作品でもあるのですね。そっち方面の読者もぜひ。


●ユーロマンガのサイト→(
●著者のインタビューが見られるサイト→(

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April 09, 2012

一ノ関圭の絵本『琉球という国があった』

 「ビッグコミック1(ワン)」に連載されていたマンガ『鼻紙写楽』が雑誌休刊に伴い中断してしまった一ノ関圭。最新のお仕事は絵本です。

●上里隆史・文/富山義則・写真/一ノ関圭・絵「月刊たくさんのふしぎ2012年5月号 琉球という国があった」(福音館書店、667円+税、amazon

月刊 たくさんのふしぎ 2012年 05月号 [雑誌]

 福音館書店は月刊誌形式の絵本をいろいろと刊行してますが、これもそのひとつ。一ノ関圭としては「月刊たくさんのふしぎ2002年5月号 おおふじひっこし大作戦」以来、二回目の登場です。

 絵本は子供向けの沖縄史、とくに貿易に注目して書かれたものです。写真と絵が半々ぐらいで、一ノ関圭の絵はカット的なものが多いのですが、一部にびっくりするような絵もあって、大型ジャンク船や倭寇船をこまかく描いたものは絵画としても図解としてもすばらしい。

 那覇港を鳥瞰した絵は登場する十数隻の帆船のデザインがすべて異なるというものですし、那覇市場の絵は『絵本 夢の江戸歌舞伎』を思わせるモブシーン。書影には一ノ関圭の絵が載ってないので絵の一部をちらっとだけご紹介。ああ、モアレが出てうまくスキャンできない。

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 『絵本 夢の江戸歌舞伎』は八年がかりの労作でしたが、本作も絵を描くのに一年かかってるそうです(→文を書いた上里隆史氏のブログ)。

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