中国マンガあなどりがたし『小時代』
えーと中国の文化状況にはまったくくわしくないのですが。
中国の人気小説家に郭敬明というひとがいます。1983年生まれ、いわゆる「80後(バーリンホウ)」の代表的作家。昨年11月に発表された中国作家富豪ランキングではトップの地位を奪還し、年間2450万元(最近のレートにすると約3億1500万円)を稼いでらっしゃいます。
20代のイケメン作家でセミヌードをブログに公開したりする中国メディア注目の人物です。さらにこのひと、パクリ疑惑がずっとささやかれてて、作品の設定が日本のマンガやゲームに似てたりするらしい。中国人作家から訴訟を起こされ敗訴したりもしてます。
しかしそれでも超がつく人気作家であることは変わらず、自ら「最小説」「最漫画」という雑誌を編集し、連載した自作をベストセラーにしてます。
「最小説」に連載された小説、『小時代 TINY TIMES 1.0 折紙時代』『小時代 TINY TIMES 2.0 虚銅時代』『小時代 TINY TIMES 3.0 刺金時代』の三部作は先日完結しました。最終第三巻は昨年12月に発売されたところです。初版が160万部だそうですから小説ながら日本の超人気マンガレベルですねー。今後、映画化やドラマ化もされるはず。
さてわたしの興味はあくまで「マンガ」にあるので、マンガ版『小時代 TINY TIMES』について。
小説版『小時代 1.0』をマンガ化したのが『小時代 1.5 青木時代』です。現在も続編の『小時代 2.5 鋒銀時代』が「最漫画」に連載中です。
雑誌「最漫画」はA5判の月刊誌。毎月の巻頭マンガが『小時代』で、原作はもちろん郭敬明。脚本は猫某人という女性作家でしたが『小時代 2.5』からは李茜というひとに交代しています。絵を描いてるのが陌一飞という女性マンガ家。
『小時代 1.5 青木時代』は全四巻。続編の『小時代 2.5 鋒銀時代』は第二巻が先日発売されたところ。中国書専門書店を利用すればネット通販で入手可能です。とはいえ、わたし中国語はまったくわかりません。漢字も今は簡体字ですからねー。しかし外国語マンガは気合いで読むべしっ。というわけで気合いで『小時代 1.5』を読んでみました。
日本マンガタイプのモノクロ。ただし本は左開きでコマは左から右に読み進みます。セリフは横書きが基本ですが、もちろん中国語は縦書きも可能なのでレイアウトの自由度が高い。
舞台は現代の上海。主人公は上海大学の四年生、ルームメイトのなかよし女子四人組、林蕭、顧里、南湘、唐宛如。彼女たちが周囲のイケメン男子とくっついたりはなれたりするという、少女マンガ系のお話。
四人の中でも普通女子の林蕭。中国でいちばん売れてるというヴィジュアル雑誌「M.E」編集部にアシスタントとして雇われます。だっさださの服装の林蕭が、高層ビルのオフィスでびしっとキメた上司のキティ(♀)にこき使われるシーンは、映画「プラダを着た悪魔」そのままです。
編集長はクールなイケメン男子。彼は天才美少年作家と何やら怪しい雰囲気なのですが、林蕭はボーイフレンドがいる身ながらその美少年作家から愛されてしまうことに。
いっぽうで林蕭のボーイフレンド(大学生、もちろんイケメン)はこっそり浮気してるらしい。じつは彼女、高校時代にそのボーイフレンドをめぐってライバルだった同級生女子が、目の前で飛び降り自殺をはかるという衝撃の体験をしているのです。
キャラが立ってるのは顧里という名のショートカットの美人さん。大金持ちでぜいたく大好き。ドルチェ&ガッバーナとかシャネルを買いまくってるうえに、そこの試着室でエッチいことをしたりしてます。彼女の誕生パーティーはすっごい豪華で、肩を出したドレスとか正装の人々がずらずら。ああ、とってもバブリー。
ところが顧里のボーイフレンド(もちろんイケメン)は彼女のいとこであるニール(♂、ハーフでアメリカ留学帰りでイケメン)と仲良くなって、なんと男同士でキスなんかしてるじゃないですか。そのうち顧里の父親が交通事故で死亡。財閥をひきいることになった彼女は、出版社を乗っ取る野望を持ち「M.E」編集部に乗り込む……!
残りのふたり、南湘は芸術家肌、唐宛如は体育会系。ところがこのふたりが同じ男性を好きになっちゃった。続編になるとナイフを持ち出した刃傷ざたがおこることになります。
『小世界 1.5』のラストでは謎の新キャラが登場したうえに、天才美少年作家が胃癌で死んじゃった(!?)らしいことが暗示され、以下『小世界 2.5』に続く!
続編になりますと、この死んだはずの天才美少年作家が整形で顔を変え、名を変えて再登場するらしいのですよ。さらに別の主要登場人物も若くして癌に……!
とまあ、なんでもありのてんこ盛り。日本バブル期のトレンディドラマ+FOXTV系の連続ドラマ+ハーレクィン+韓流ドラマ、BL風味あり、みたいな感じ。登場人物が薄っぺらに見えてしまうのはわたしの読解力のせいかもしれません。
でもこれだけいろんなものがつめこまれてると、人気があるのもわかりますね。
もうひとつの大きな魅力は陌一飞の絵です。ともかく人物が美麗、みんなほんとに美男美女ばっかり。マンガらしいキャラクターながらスタイルは美しく目の大きさが絶妙。こういうの好きだなあ。
そのかわり背景はほとんどが写真を加工したもので、日本の感覚では手抜きっぽい。おかげで人物をはめこむとパースは狂いっぱなし。マンガとしての構成ももうひとつで、最初のほうはキメの人物は美しいけど、お話の展開を三頭身キャラでつなぐ、みたいなことをしてました。ケンカのシーンでのキャラクターの表情なんかも、ダメダメでしょ。
ところがねー、巻が進むにつれ、これがどんどんうまくなっていくんですよ、マンガとして。風景でもって心情を語らせる手法が出てきたり、遠景と近景を同一画面におさめる処理がされたり、わざと顔を描かない演出をしてみたり。
びっくりするような表現はないのですが、日本の商業マンガは最初からある程度のレベルにあるから、こんなふうにマンガそのものが進歩していくのを見るという経験は新鮮ですねー。
しかしまあこのレベルの作品がどんどん登場するようなら、中国マンガ、今後も楽しみですね。どこか翻訳してくれないかな。
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Comments
夏目氏ブログにて「メビウス氏逝去」の報に接す。
Posted by: トロ~ロ | March 12, 2012 06:32 PM