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January 11, 2012

マンガの色についてふたたび

 日本マンガから色がなくなったのはどうしてか、と考えることがあります。

 戦前の日本児童マンガ単行本には、一部は四色(あるいは三色)カラーが使用され、多くは二色カラーで印刷されるという伝統がありました。

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坂本牙城『タンクタンクロー』1935年(復刻版・小学館クリエイティブ)


 第二次大戦で日本の子どもマンガがほぼ絶滅してしまい、その空白のあと戦後はどうなったのか。

 じつは戦後の日本マンガも、色を失わないように奮闘していました。たとえば少年画報社の前身、明々社が発行した雑誌「冒険活劇文庫」1948年創刊号は、その復刻版を見ると総38ページのうち半分が二色です。

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「冒険活劇文庫」1948年創刊号(復刻版・「少年画報大全」付録)

 紙の悪い時代でも、子どもマンガには色をつけるべき、と考えられていたのでしょうか。多くの赤本マンガも四色や二色をとりいれていました。

 しかしマンガは子供のものですから安価でなければならない。カラーページはどうしても高価になり、制作側としても量産がむずかしい。カラーをとるのか、ページ数をとるのか。日本マンガの未来にはふたつの道があったと思います。

 戦後に輸入されたアメコミは、カラーで発売されました。1959年に創刊された少年画報社の雑誌「スーパーマン」はオールカラーでしたし、日本リーダースダイジェスト社から1960年に創刊された「ディズニーの国」も、マンガ部分はオールカラーでした。しかしいずれも短期で撤退。オールカラーの海外マンガがモノクロ日本マンガに敗れる、という構図が続きます。

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「ディズニーの国」1963年8月号

 きっとそれを選んだのは読者だったのでしょう。日本の読者が、色よりも量を好んだのです。もちろんそこには一定の質でマンガを量産できる作家が存在したからですね。手塚治虫とか。

 日本マンガは色を捨て、モノクロにシフトしていきます。月刊マンガ誌の増ページは始まっており、長大なページの別冊付録がつくようになります。マンガはごく一部のページに色がつくだけで、ほとんどのページがモノクロ、というのが標準になります。こうなるともう、価格的にも制作上の問題としても、日本マンガがカラーにもどるのは不可能となりました。

 さらにマンガ週刊誌の登場がこの傾向に拍車をかけることになります。初期こそマンガ週刊誌はマンガ部分にも二色を使用していましたが、マンガ誌のページ数増加とともにカラーページはどんどん少なくなっていきます。

 ただしマンガ雑誌が完全に色を捨てたわけではありません。今もトビラや一部のページはカラーで描かれるし、単色の部分でも、黒じゃなくて青や赤などさまざまな色のインクを使い、さらに紙も全体としてカラフルに見えるようにしています。

 これは戦前から子どもマンガで使用されていた手法ですが、戦後もずっと踏襲され現代まで続いているのですね。

 いっぽうのマンガ単行本。マンガ単行本が高価だったハードカバーの時代は四色や二色ページがまだまだ多くありました。光文社が1964年に発売開始した「カッパコミクス」は、単行本というより雑誌形式の総集編に近いものです。『鉄腕アトム』『鉄人28号』などが有名ですが、これにもカラーページ(四色じゃなくて三色)や二色ページがありました。

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カッパコミクス版『鉄腕アトム』5巻「十字架島の巻」 1964年 

 しかし、1966年以降マンガ単行本の標準になる新書判コミックスになると、カラーページは存在しなくなります。そして雑誌に掲載されたときのカラーページや二色ページは、モノクロの新書版コミックスではむしろ読みにくくなってしまうという矛盾があらわれるのです。

 意外にも二色ページは青年マンガで生き残ります。中綴じの青年マンガ雑誌は少年誌より二色のマンガ部分が多かった。これってなぜなんでしょう。おとなマンガから続く伝統みたいなものですか。ビッグコミック巻末の黒鉄ヒロシ『赤兵衛』なんか今も二色です。四コマ誌にも二色ページがありますね。

 雑誌だけじゃなくて、1970年代、B5判の雑誌総集編というかたちで刊行された青年マンガの多くは、巻頭に二色ページを置いていました。さらに新書判よりちょっとだけ大きいB6判で出版され始めた青年マンガ単行本も、初期は巻頭に二色ページがあったのを覚えてるかたも多いでしょう。『美味しんぼ』とかね。

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花咲アキラ/雁屋哲『美味しんぼ』1巻 1985年

 アメコミの邦訳も本国より色数を減らされたりします。これは1975年の「週刊プレイボーイ」に連載された二色版『スパイダーマン』。

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「週刊プレイボーイ」1975年10/10号

 さらにこれは1978年に光文社から発行されたモノクロ版『ファンタスティック・フォー』。読みにくいったらありゃしない。

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『ファンタスティック・フォー』2巻(1978年光文社)

 しかし日本マンガの進歩はモノクロ表現とともにありました。お話の展開にはますます大量のページを使用するようになり、背景の描き込みはどんどん細かくなり、斜線の多用、さらにスクリーントーンの超絶技法まで加わってもうエライことになっております。

 ときどきサンリオの「リリカ」みたいなカラー雑誌が登場したり、フルカラーの海外マンガが邦訳されるということがありましたが、結局日本マンガに「色」が定着することはなかったのです。

 そして現代。マンガはモニタ上で読む時代を迎えつつあります。モニタ上なら色があってもアタリマエ。今出版されてるネット出身のマンガの多くは色を持っています。

 今後、PCで、あるいはタブレット端末で読むマンガがモノクロである場合、それは「カラーでなくモノクロである必然性」が求められるようになるのじゃないかしら。モニタ上のマンガはコマ構成だけじゃなく、色についても大きく変化するような気がします。

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Comments

まんが雑誌で最初からモノクロページだとストイックで表紙とか前の方の頁と落差が凄くて絵面としての盛りあがりにかけるとかはあるのではないでしょうか
コンピュータ上のまんが表現でのカラーという話だと
タブレットで見るような奴だとモノクロだけだと解像度上情報がそんなに載らないというのがありますね。
ディスプレイパネルで校正をするよりプリントアウトしたもので校正をした方が捗るというのと割と似通った話だとおもいますけど

Posted by: yuh-suke | April 17, 2012 12:29 AM

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