うまい、うますぎる『四月は君の嘘』
この作品、第2巻の発売が2012年1月17日なのに、マンガ大賞候補作として発表されたのが1月16日。マンガ大賞、えらく仕事が速い。
●新川直司『四月は君の嘘』現在2巻まで(2011~2012年講談社、各438円、419円+税、amazon)
前作『さよならフットボール』は全二巻で完結した作品でしたが、本作は2巻以降も続きます。前作でも感じたように、著者はたいへん絵がうまい、そして「マンガ」がうまいひと。本作ではさらに進歩しています。
マンガがうまい、というのはコマ構成とか、セリフやモノローグの置き方とか、擬音のありなしとか、シリアスとギャグのバランスとか、そういう演出一般のことね。
マンガには、絵の技術系、美術系のマンガ表現の進歩とは別の、あだち充とか少女マンガが切り開いてきたエンタメ系マンガ表現の進歩、というのがあると思うのですよ。
感情と事件を、叙情と叙事を同時に表現する手法。大きなコマと余白をいっぱいつかって、読者の感情を自在にあやつる手法、とでもいいますか。
著者はそういう技術をすっかり自分のものにしちゃってて、すでにもう名人クラス。あまりに高度なことを楽々とやっているので、これが日本マンガの標準か、と思ってしまいますが、そんなことはない。このひとが、とくにうまいのですね。
お話はクラシック音楽モノ。小学生にして才能あるピアニストだった主人公(♂)は、ある事件をきっかけにピアノから離れてしまいます。そして現在、中学生となった主人公が、奔放にバイオリンをひく少女に出会ったとき、ふたりの運命は大きく変わる……!
とくにすごいのが、クライマックスとなる演奏シーン。1・2巻にはそれぞれ一回ずつあります。かわいい女の子の表情がすっと変わり、むしろこわい顔に変化。大ゴマ、カットバックの連発。手のアップ、「目」のアップ。さらに演奏者の後ろ姿の美しいこと。
なにげない景色も心理描写と無縁ではありません。学校からの帰り道、ちょっと傷心の少女が空を見上げると曇り空。同性の友人から言われた言葉を思い出す少女。「らしくないから」「目が曇ってる」 そして空を眺めながら少女はつぶやきます。「どんてんもよう」
いやー、うまいっ。しかもこの直後に彼女、かつてあこがれていたセンパイからコクられるという怒濤の展開だ。
音楽マンガ+少年の成長+りりしい少女+周辺の友人を巻き込んだラブコメ+さらに難病モノであることも予感させている。いろんなものをつめこんだそれなりにベタなお話。しかしお見事な演出と出会うことよって、エンタメマンガの王道を歩んでいるのです。
Comments
情景描写は心理描写なのです。
いつの世も、小説でも映画でも漫画でも。
「プライベート・ライアン」の最後の戦闘場面。
雨が降るしきるなかドイツ軍に押されて、
一瞬の晴れ間と共にヤーボの爆撃で
救出されていたら、もっと傑作に。
「七人の侍」のパクリになりますけど。
「アパーーム!! アモ!!」
Posted by: トロ~ロ | January 23, 2012 05:15 AM