アラブのあんちゃんの物語『太陽高速』
古い本ですが、最近入手して読んだのがこれ。
●バル『太陽高速 AUTOROUTE DU SOLEIL』(Takako Hasegawa訳、1995年講談社、amazon)
講談社の雑誌「モーニング」が主催するモーニング国際新人漫画賞も、この春には第五回の受賞作が発表されるみたいです。「モーニング」は以前から海外作家の起用に熱心で、鄭問『東周英雄伝』などもそうでした。1990年代にはBD作家が登場することも多く、バル『太陽高速』もそのひとつ。連載は1994年です。
じつはこの時期のモーニングや著者のことをよく知らなかったのでまったく白紙の状態で読んだのですが、いやー、おもしろかった。
50年代のファッションを愛する主人公、リヨンに住むチンピラのカムリはアラブ系の伊達男。人妻とよろしくやっていたところを、彼女の夫、医師で「フランス国民党」候補者でもあるフォリシエに見つかってしまいます。カリムはフォリシエに追われて街を逃げ出すことに。一緒に逃げる相棒は、さえないイタリア系の友人、アレクサンドル。ふたりの逃避行が描かれます。
「太陽高速=オートルート・デュ・ソレイユ」とはフランスの高速道路のうち、パリ~リヨン~マルセイユをつなぐ道路のことだそうです。かっこいいネーミングですねえ。カムリとアレクサンドルはこの高速道路沿いの街をいったりきたり逃げ回る。
主人公のふたりは南仏で遊んだり、麻薬取引に巻き込まれたり、凸凹珍道中をくり広げます。お話はシリアスに展開しながらも乾いたユーモアがあって、こういう空気感は日本マンガにはないから読んでて楽しい。ショーケンと水谷豊のTVドラマ「傷だらけの天使」を思い浮かべちゃった。例が古くてすみません。
追う側のフォリシエの狂気がどんどんエスカレートして、お話はとんでもない地点に着地します。その背景にあるのが彼が極右の政治家であるということ。彼らは外国人排斥を訴えています。いっぽうで本作は、多民族国家であるフランスの中でも異邦人であるアラブ系の若者が主人公。娯楽作品にもそういう社会的背景を描き込むという意欲的な作品、なのだと思います。
バル BARU は1947年フランス生まれのBD作家。『太陽高速』は雑誌「モーニング」のために描かれた作品で、著者にとっても本作がブレイクスルーとなったそうです。仏語版はアングレーム国際漫画祭で1996年の最優秀作品賞をとってます。日本がかかわった作品が高く評価されるのって何かうれしいですね。
日本雑誌向けの作品ですから、ほとんどのページがモノクロで描かれてます。ただしスクリーントーンじゃなくてウスズミを使ってる(→「AUTORROUTE DU SOLEIL, BARU」の画像検索結果)。
このあたり日本語版の単行本では紙が悪くて、ウスズミの印刷がちょっと不満だなあ。
日本語版は右開きですが、仏語版は左開き。絵を反転させてるんじゃなくて、コマの順番をいれかえて構成し直してます。四角い定型的なコマだからこういうのも可能。フキダシや擬音は各国であとからいれてますね。
仏語版は1995年の初版以来、2002年、2008年と刊行されてて、本年2012年にも再版される予定です。それだけ人気があって評価されてるのでしょう。
もひとつ。訳者の長谷川たかこ氏はフランス在住のかたで、調べてみて驚いたのだけど、長谷川町子の姪ごさんなんだそうです。メビウス+谷口ジローの『イカル』なども訳されてます。サザエさんとメビウスの間にこういう不思議な縁があろうとは。











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